日本国内の新型コロナの感染状況は冬に入って着実に悪化。感染者数と死亡者数の記録が日々塗り替えられ、東京オリンピック開催可否の不透明さが再び増している。共立女子大学国際学部のクレイグ・マーク教授がオンラインメディア「The Conversation」に寄稿した記事を紹介しよう。

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Ichiro Ohata/AP

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1月半ば、国際オリンピック委員会の元副会長ケバン・ゴスパーが東京オリンピック・パラリンピックの開催是非について国連の判断に委ねる可能性を示唆し、日本で物議をかもした。国内の医療専門家のあいだでも、大会の実施を躊躇する声が高まっている。世界中でワクチン接種が進んだとしても、15,000人を超える外国人アスリートに加えて、数万人ものコーチ、役員、スポンサー、メディア関係者を受け入れるリスクはかなりのものだ。

日本国民も同意見のようで、NHKが1月前半に行った世論調査*1 では、回答者の77%がオリンピックの中止または再延期を望んでいるとの結果が出た。

*1 参照:東京五輪・パラ「開催すべき」16% 先月より11ポイント減

にもかかわらず、菅義偉首相は7月23日からのオリンピック開催を政府の決意として再び断言。今年初の通常国会(1月18日)の施政方針演説の中で、政府はできるだけ早く感染を収束させると言明した。これだけの課題がありながら、なぜ政府はオリンピック開催の希望にしがみつくのだろうか。その理由と潜在的コストを考えてみたい。

スタートでつまずいた菅政権

簡単に言うと、菅首相の政治的命運がかかっているのだ。東京オリンピックが中止となれば、首相としての立場が苦境に追い込まれるのはほぼ確実で、自民党が反撃準備に躍起の野党と厳しい選挙戦に直面することになるだろう。

昨年9月に安倍晋三元首相から政権を引き継いだ菅首相は、パンデミックへの対応の不十分さにより厳しいスタートを切った。

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施政方針演説を行う菅義偉首相
Nanako Sudo/AP

自民党政権は一貫して、公衆衛生よりも経済を優先してきた。たとえば、日本の大手企業で構成された強力なロビー団体である日本経済団体連合会(経団連)の支持もあり、安倍政権下で打ち出された国内の観光・宿泊部門に補助金を出す「Go Toトラベル」キャンペーンを菅首相も継続。昨年12月、同事業が新型コロナを全国に広める一因だと非難され、しぶしぶ事業を停止した。

パンデミック収束に向けた、より強力な措置を講じることも拒んでいた菅首相だったが、ついに1月7日、自治体首長らの圧力に屈する形で首都圏に緊急事態宣言を再発令。以降、他の大都市にも拡大され、全人口の半数が宣言下に置かれた。

ただ、これは昨年4月に全国レベルで発令された緊急事態宣言ほど徹底したものではない。当てにされているのは国民と企業による自発的な協力で、国民には外出自粛を呼びかけ、飲食店やバーには午後8時閉店を求めたが、制限に強制力はなく、従わない飲食店も出始めている。国会では、要請に従わない個人や企業に懲役や罰金を課す法案が検討されているが、野党は刑事罰を科す措置に反対している。

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感染者数が増加し続ける中、日本政府は不要不急の外出自粛を要請した。
Kunihiko Miura/AP

菅政権への批判は、比較的低い検査率、不十分な接触確認、ワクチン展開の遅さなどに及ぶ。これらの懸念に対処すべく、菅首相は野心的な河野太郎行政改革大臣をワクチン担当相に任命。大臣はファイザー・ビオンテックワクチンを日本人全員に行き渡らせる使命を負っている。

6人に1人が「相対的貧困」

景気も思わしくない。公式の失業率は約3%だが、過去6か月間の失業者数は50万人以上にのぼる。6人に1人は、所得が全人口の中央値の半分を下回る「相対的貧困」状態にあるとされる。労働者の約4割は非正規・低賃金の仕事に従事し、パンデミック不況のあおりを最も受けているサービス産業が中心だ。女性への影響は特に深刻である。

過去6か月の間に経済成長の兆しもあったが、2021年第1四半期には再び減速すると予想されている。ただ、政府の景気対策により今年は「緩やかに回復」との予測もIMFから出てはいる。

次期選挙の前に立ちはだかるオリンピック

オリンピック開催国であるということは大きな政治的威厳をもたらしてきた。そのため、開催できなくなれば、菅新政権にとってはさらなる難点となり、次期国政選挙(10月21日までに予定されている)の見通しにも暗い影を落とすだろう。9月30日に再び自民党総裁選を迎える菅首相だが、自民党の影の権力者である二階俊博幹事長が、菅首相を支持し続けるかどうかにも注目が集まる。

オリンピック中止となれば、大会を強く支持してきた小池百合子東京都知事にも大きな影響が及ぶだろう。昨年の選挙で圧勝して再選された小池知事だが、大会が頓挫すれば、同氏の党は今年7月の地方選挙で痛手を負うだろう。

さらには国の財政負担もある。昨年3月に延期が発表されてから、大会の公式費用は22%増加し、154億米ドル(約1兆6千億円)にのぼっている*2。しかし政府(会計検査院)による調査の結果、実際の費用は250億ドル(約2兆7千億円)であることも明らかになっている。

*2 参照:Tokyo Olympics and Paralympics cost up 22%, now sitting at $15.4 billion

67億ドル(約7,300億円)分は民間資金による運営予算があてられるが、それ以外は国が負担することになる。これが、パンデミックに対抗するための景気対策費用として政府が積み上げてきた巨額の財政赤字と公的債務に加わることとなる。1月18日に国会に提出された予算案は、過去最高の106.6兆円となった。

オリンピックの聖火リレーは3月25日に福島からスタートされる予定だ*3。大会開催に突き進めるかどうか、最終決定の期限がここにある。オリンピックをこれ以上延期することはできないというのがIOCの見解で、7月に安全に開始できない場合は中止する必要があるという。

*3 参照:オリンピック聖火リレールート情報

菅政権がもっと効果的に、かつ早急にパンデミック対策をとることができなければ、大会開催などとても手に負えなくなってしまう。そして政治的にも同じ命運をたどりかねない。

著者
Craig Mark
Professor, Faculty of International Studies, Kyoritsu Women's University

※ 本記事は『The Conversation』掲載記事(2021年1月22日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

The Conversation

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