荒く大きな音が耳に響きわたり、目の前でバイクが数十台と過ぎ去る―。だが、そこに乗っているのはふわふわのウサギたち。コスプレライダー? ジョーク? いいえ、彼らは笑いを誘い、寄付を集めるチャリティ団体なのだ。

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 アンドレアス・グロス=ハートは、ドイツのバイエルン州にある高齢者宅にバイク仲間とともに登場した日を「人生で最高の一日だった」と述べる。ふわふわのピンク色のウサギたちは、高齢者たちとダンスし、語り、笑い合う―それにより住人たちがどれだけ喜び、活気づいたかは容易に想像できるだろう。

 彼はこの時の経験が忘れられず、今では「ストリート・バニー・クルー」で子どもや社会的弱者、生活困窮者、交通事故の犠牲者などを支援するチャリティ活動に取り組む。48歳、普段は運送業を営む傍らでの活動だ。

 がん患者への寄付金集め、保育施設改修のための資金援助、約150人のホームレスの人々が暖を取ることができるクリスマスイベントの開催―。支援する団体や方法はメンバーが決め、もちろん全員が“ライダー”のイメージからはほど遠いコスチュームを身に着ける。同団体はドイツ国内で10の地域グループがあり、計400人のウサギが所属。「すべてのバニーたちは年に3度ほどチャリティ活動にかかわることになっている」とグロス=ハートは言う。

 はじまりに際して特別なストーリーがあったわけではない。「5月1日のシーズン初日に何か仮装をして集まるのが、当時の慣わしだったんだ」。そこで数人が、ウサギのコスチュームを思いつく。一回きりだったはずが、見物人や子どもの反応は上々で「これを使わない手はない!」とロゴ入りのワッペンをデザインし、5年前に非営利団体を立ち上げた。

 全員がこのことに賛成したわけではなく、創設メンバーのうち今でも残っているのは4分の1程度、6人ほどだという。団体の設立は、クラブ内に“健全な”規約の数々を導入することを意味し、それらの中には従来のライダー精神と噛み合わないものもあったからだ。たとえば、コスチュームを着ている間の飲酒は強く禁止され、罵り言葉やウィリー(※ 後輪走行。前輪を地面から浮かせた状態で走行するテクニック)も禁止……。そして何より、ウサギたちは交通法を遵守しなければならない!

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 なぜそこまで厳格な規約を設けるのだろうか?「人々は、私たちを肯定的なイメージと結びつけるからです」とグロス=ハートは語る。彼らの事業は人々に喜びを提供するものであり、それはグループの「誠実さ」と「支援活動」によって成立するもので、悪評を立てるリスクを冒すわけにはいかない。「ストリート・バニー・クルーのおかげでたくさんのよいことができる。だが、ほんの一度でも悪事を起こしたら、社会はそれを忘れることはない」

 2018年に寄付した金額は、小児病院に6000ユーロ(約73万円)、子どもの公共施設に1万7500ユーロ(約213万円)など。活動について話す講演会でも募金用の缶がいっぱいになるという。

 バイクに乗ったウサギたちが突如現れると、人々は微笑みながら思わず寄付してしまう―。するとウサギたちは微笑み返し、またどこかへと走り去る。残された人々の心に、温かい気持ちを宿して。

(Katharina Wasmeier, Strassenkreuzer /INSP)


※この記事は2019年07月01日 発売の『ビッグイシュー日本版』362号からの転載です。
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