「生理」を理由に、世界の半分以上の人間が一生のあいだに逸する機会はどれほどになるだろうか? 約束が守れなかった、授業に出られなかった、仕事に行けなかった、スポーツの試合で実力を発揮できなかったなど。(トランスジェンダーの男性、性自認がノンバイナリーの人にも生理がある人もいる)。「生理の貧困*1」について、オーストラリアの『ビッグイシュー』掲載記事を紹介する。
*1 安全で清潔な生理用品を手に入れられない女性たち、または人としての尊厳を保ちながら生理期間を過ごせない女性たちに関する問題。
さまざまな調査から浮き彫りとなる「生理の貧困」状況
「生理」についての語られ方も、少しずつ変わってきている。生理を恥ずかしいと思う気持ちや風潮があるからこそ、問題を深刻化させてしまっていたが、近年はよりストレートかつデリケートに語られる場面が増えている。生理用品が環境に及ぼす影響についても意識が高まり、市販の生理用品の質は向上し、種類も増えている。若い世代の活動家たちのおかげで、生理用品が高くて買えないのは一種の差別であるとの理解も深まってきている。生理にまつわる不平等にフォーカスを当てている国際NGO「プラン・インターナショナル」では、世界中で約5億人が生理用品の不足に苦しんでいると推定している。生理のタブーを打破しようとの狙いで、赤い水滴のマークを考案し、キャンペーンを推進している(#periodemoji)*2。
*2 参照:LET'S BREAK THE PERIOD TABOO
米セント・ルイス大学が2019年に発表した、低所得地域に暮らす183人の女性を対象とした調査によると、約半数にあたる46%が、過去1年に食料品と生理用品のどちらも買う余裕がない経験をした、36%が月に1、2日は生理が原因で仕事(パート、フルタイムともに)を休まざるを得なかったと回答した。
オーストラリア国内では2019年にリブラ社が委託した調査があり、10代女性1,000人のうち67%が、クラスメイトに生理中であることがバレるくらいなら、欠席して成績が悪くなる方がよいと回答した。2018年に豪クイーンズランド大学とウォーターエイド・オーストラリアが発表した報告書によると、遠隔地の先住民コミュニティに暮らす学生たちの多くは、月に数日間、生理のために学校を欠席していることがわかった。
社会的企業「TABOO」22歳の創業者の活躍。困窮者への生理用品配布も
2021年1月、世界の「生理の貧困」に立ち向かい、生理を恥とする社会通念を覆すことを目指した社会的企業「TABOO(タブー)」の共同創業者イソベル・マーシャル(22歳)が、今年最も活躍したオーストラリア人の若者に選ばれた*3。同社のナプキンやタンポン販売による収益はすべて、シエラレオネとウガンダで女性の教育支援、お手頃な生理用品の流通、生理にまつわる衛生教育などを展開している事業「One Girl(ワン・ガール)」にあてられている。*3 TABOO
イソベル・マーシャルのインタビュー
オーストラリアではこの他にも、社会的に恵まれない人々のために生理用品の寄付を求める声も強くあり、この問題の深刻さを物語っている。慈善団体「Share the Dignity(シェア・ザ・ディグニティ)*4」では、貧しい人々に生理用品を寄付する活動を推進している。2020年11月だけで、93,981パックの生理用品を困窮者に届けたが、さらに46,509パックが必要だという。
*4 Share the Dignity
重くのしかかる生理用品代の負担。豪では2019年よりサービス税10%が撤廃に
オーストラリア国民が一生に費やす生理にまつわる費用は、生理用品だけで約80万円とも、関連用品(生理痛用ピル、下着など)まで含めると100万円を超えるとも言われている*5。コロナ禍でパニック買いが起こるたび、多くのスーパーでは生理用品売り場の棚は空っぽになった。プラン・インターナショナルとザ・ボディショップ・オーストラリアとの提携で実施した661人を対象とした調査では、回答者の51%が、コロナ禍で生理用品がより確保しにくくなっていると回答した。*5 参照:Women On Average Spend $9379 On Their Period Throughout Their Lifetime
2018年、オーストラリア政府は生理用品の商品サービス税10%を撤廃することに合意した。フェミニスト諸団体による18年に及ぶ働きかけが実を結んだかたちだ。これにより、2019年1月より、生理用品はコンドーム、バイアグラ、日焼け止め製品と同じく、非課税となっている*6。
*6 参照:'Tampon tax' scrapped in Australia after 18-year controversy
生理用品を課税対象外とする動きが世界的に広がっている。日本では現状、生理用品は軽減税率対象となっておらず、こちらのような署名活動などの働きかけが行われている。今後の行方に注目したい。
2020年、スコットランドでは、世界初の法案が議会を通過し、公民館、薬局、青少年センターを含む多くの公共の場で生理用品が無償提供されることとなった。この流れを受け、オーストラリアでもビクトリア州と南オーストラリア州の州政府が、公立校で生理用品を無償提供する法律を通過させた*7。
*7 日本でも2021年に入り、生理用品の無償提供をおこなう自治体や民間企業の動きが急速に活発化している。女性だけの問題ではなく、社会の問題として、このような取り組みが一般化することを期待したい。
子どもに連鎖する生理の貧困を絶ちたい
豪ブリスベンのウェストレイク地区に住むキム(50歳)の話をしよう。彼女は10代の頃、ネットボール(バスケットボールに似た球技)に夢中だったが、生理になると試合に出られないことがよくあった。「シングルマザーだった母は、苦労して私たちを育ててくれましたが、二人の娘と自分の分の生理用品を買う余裕がないときもあり…そんな時は外出を控えるしかなくて、とても運動なんてできませんでした」NARONGRIT/iStockphoto
「生理」が、日常生活だけでなく人生設計にも影響してきた、とキムは語る。生理についての悩みは、それから何十年経った今もまだ尽きない。生理用品がとにかく高すぎて、10代の娘のために買ってやれないこともしばしばあるのだ。「トイレペーパーかコットンを小さなタオルで包んで、代用することも多かった」と言う。
25歳の時、避妊薬注射を受け始めた。3カ月に1度、通院して注射を受けたのだが、その一番の目的は避妊ではない。排卵よりも月経を抑えたかったのだ。「注射をすれば、生理を理由に、恥ずかしい思いをしたり、仕事を休んだり、生理用品を買わなくてよくなると考えたのです」。2人の娘が10歳離れているのは、「その間、出産をあきらめていたからです」
キムの口からは、「恥ずかしい」「犠牲」「失った」という言葉が何度も聞かれた。「娘たちやこれからの時代の女性たちには、私のような気持ちを味わう女性が減ってほしい。もっと選択肢のある生活を送ってほしいと思います」
By Sophie Quick
Courtesy of The Big Issue Australia / INSP.ngo
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