街角で雑誌販売をするビッグイシュー販売者は、人通りが見込める場所に立つことが多い。そのため、その場所は、選挙時には選挙活動にも使われることもよくある。

選挙期間になると、ビッグイシューを応援してくださる方の中には「選挙活動で人が集まりすぎて、販売者が販売しづらいのでは?」「候補者は販売者のことをいないものとしているのではないか?」とご心配をいただくことがあるため、実際のところを東京9名・大阪13名の販売者に聞いてみた。




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Mihajlo Maricic/iStockphoto

*この記事内の調査は、2021年に行われたものです。また、ビッグイシューの販売者の選挙中の状況を紹介するものであり、ビッグシューの販売が選挙活動に優先されるべきなどという主張ではありません。

「選挙活動で困った経験はあるか?」→22人中14人が「困ったことがある」

「選挙活動で困った経験はあるか?」の問いに対し、22人中14人、約63%が「ある」と回答。内訳は以下の通り。

1.「人が集まりすぎて販売スペースがなくなってしまったことがある」:6人
人通りが多いのはありがたいことだが、密集しすぎて販売ができなくなることがあると答えた人が6人いた。特に「特定の党(応援の動員力があると思われる)が来ると人があふれる」という声も見られた。また、同率で

1.「通行人の視線が演説に集まり、販売に気づいてもらいにくい」:6人
という意見が挙げられた。普段から通行の邪魔にならないよう配慮している販売者たちであるが、候補者の活動時間は、通行人の関心がそちらに奪われてしまい、販売していることに気づいてもらえなくなっていると感じることが多いようである。

次に
2.「選挙活動の音が大きすぎて雑誌購入を呼びかけられない」:4人
との回答も散見された。普段声を上げている人も、声がかき消されてしまうと感じる人もいれば、スピーカーの向きによってかなり大音量になって、演説そのものがつらいという人もいた。

また、東京では1件もなかったが、大阪では
2.・選挙活動をしている人に、販売場所から移動してほしいと言われたことがある:4人
という回答が見られた。

移動要請をしてきた候補者の所属する党を覚えているか聞いてみたところ、4名中3名が、大阪府議会で過半数議員が所属する党を挙げた。
一日でも販売ができないことは、その販売者にとっては死活問題となる。
ホームレス状態からなんとか抜け出そうとしている販売者の心が折れてしまわない環境であることを願ってやまない。

※ビッグイシューの販売を新たに始めるときは、所轄の警察署や警視庁と協議の上で行っています。弁護士の見解はこちらをご覧ください→https://www.bengo4.com/c_18/n_796/

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「選挙活動でよかったことはあるか?」→22人中21人が「ある」と回答

とはいえ選挙活動で困ることしかないのか、というとそうではない。
回答してくれた22人中21人が、「いいこともある」と回答した。内訳は以下の通り。

・選挙活動をしている人たちが雑誌を買ってくれたことがある:21人
いいこともある、と回答した全員が選挙活動をしている人(候補者やスタッフ)が雑誌を買ってくれたことがあると回答。さらに、そのときの候補者の党を覚えているか?という問いに対しては、21人中13人が、日本で最も歴史の長い党の名前を挙げた。

また、5人は「ひらがな」の名前の党を挙げた。政権与党の名前を挙げたのは3人であった。
一部サンプルの調査ではあるが、路上で雑誌購入をする候補者は、議席数には比例しないようである。

・演説を聞いていた人が雑誌を買ってくれたことがある:8人

候補者は買わずとも、演説を聞いていた人たちはどうだろうか。22人中8人が、「演説を聞いていた人たちが買ってくれた」と回答。

こちらも、そのときの候補者の党を覚えているか?という問いに対しては、こちらも7人が日本で最も歴史の長い党の名前を挙げた。政権与党、都知事や府知事のいる党の名前はひとつも上がらなかった。

販売者が選挙活動について感じること

最後に、選挙活動や選挙演説について感じることを販売者たちにフリーアンサーで聞いてみた。

「(応援で)国会議員の人が来ても、販売者のことは見向きもしない」「どの候補者にも期待できない」と、悲観的・絶望的な声もある一方で、「各党、これからの日本に大切な目標を掲げています。どれも素晴らしい目標ですが、どこまで実現できるのでしょうか」と冷静に問いかける声、「話しかけさえすれば、こちらに気づいてくれます」とやや前向きな声も聞かれた。

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住まいを失ったことで選挙権のない販売者もいるため、そんな人々を「自分にとって意味がない」と感じる候補者もいるのかもしれない。しかし、彼らも元々は住まいも選挙権もあった人たちである。

「選挙権なくなったんですか、じゃあ用はないです」ではなく、その背景を知り、改めて選挙権を持つことができる社会を目指すことが、政治家の取るべき姿勢ではないだろうか。

コロナ禍で生活困窮者がこれまでになく増えている。今、既存制度のままでは支援からこぼれ落ち、路上生活を余儀なくされてしまう人々がいることを改めて知ってほしい。ビッグイシューとしても、そういった人たちを応援する事業のひとつが「ビッグイシュー」であることを、各党・各候補者、応援演説に動員される人、および選挙権を持つ人たちに少しずつでも伝えていきたいと考えている。

この記事を最後まで読んでくださった皆さまには、選挙活動の邪魔にならないように立っているビッグイシュー販売者を見かけたらぜひ声をかけてみてほしい。そして、誰もが本当に安心して生きられる社会を共に目指してくれる政治家を選んでいただけるよう、お願いしたい。




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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。