刑期を終えて出所する人たちの中には、帰る家も着る服もなく、車での迎えを頼める人もなく、薬物依存が残っていようとも適切な治療を受けられない人も多い。その結果、ホームレス状態や薬物の過剰摂取に陥り、再犯リスクを高めてしまっている現実がある。


カナダ・ブリティッシュコロンビア州で出所者の社会復帰を支援している「アンロッキング・ザ・ゲーツ」は、元受刑者であるモー・コルチンスキーとパム・ヤングが代表を務める団体だ。そもそもは、ブリティッシュコロンビア大学人口公衆衛生大学院の研究プロジェクトとして始まった活動だったが、その後、非営利団体として組織化した。

出所後の計画づくり、面談、交通手段、地域社会で利用できるサービスの提供、および、アウトリーチ支援も行っている。「社会復帰を目指す人たちには、立ちはだかる数多くの障害があります。私たちはそれらを乗り越えるサポートすべてを手掛けています」とコルチンスキーは話す。


ブリティッシュコロンビア州では不正薬物の問題も深刻だ。薬物の過剰摂取による死者は、昨年だけで1,716名。その3分の2が、出所から2年未満の元受刑者だった。そこにコロナ禍が重なり、アンロッキング・ザ・ゲーツでは休日返上で対応に追われる日々が続いた。「電話受付は週7日休みなし。かつてないほど忙しい1年になりました」とヤングは言う。バンクーバーのストリート紙『メガホン』が設立者の2人にインタビューした。

ー 「アンロッキング・ザ・ゲーツ」の活動が始まった経緯、支援内容についてお聞かせください。

コルチンスキー:2008年にアルーエット矯正施設に収監されている女性受刑者たちにインタビューしたところ、出所前後のサポート改善を要望する声が多く寄せられたんです。それがきっかけとなって、この活動につながりました。「元受刑者? しかもまだ自分が依存症から立ち直ろうとしている身で、他人の力になろうだなんて......」多くの人から批判の声も聞かれました。ですが今では、元受刑者でチームを結成し、州刑務所および連邦刑務所に収容されている多くの人を男女問わずサポートしています。

私たちが大切にしているのは、相談者を中心に考えること。通常、相談者が求めるのは、安全な場所、衣類、そして仕事の確保です。衣食住は出所したその日から自分で確保しなければならず、それすら難しい場合もあります。ですから、支援の手を差し伸べる必要があるのです。昨年の依頼者は500人近くにのぼり、200人以上に住居を確保しました。

ヤング:何よりも大切なのは相談者との関係構築です。出所者には他人への不信感が強い人が多いですから。その分、実際に助けてくれた人とは強い絆が生まれやすくもあります。ホームレス状態になってしまった人や支援から取りこぼされた人たちをカバーするため、アウトリーチ活動も始めました。チームが現場に出向き、必要であれば安全な薬物の供給*などを行っています。また、逮捕状が出ているのに隠れて暮らしている人たちを見つけ出し、弁護士を紹介し、前に進めるようサポートしています。薬物の過剰摂取リスクがありながら放っておくのは、とても危険ですから。

*合法的に薬物を提供する「ハームリダクション」の取り組み。薬物等の使用者に対し処罰ではなく支援を行うことで、健康・社会・経済上の悪影響を減らそうとする公衆衛生上の政策。を目的として行われる。欧州、豪、カナダなど世界80以上の国や地域で実施され効果を上げている。


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「アンロッキング・ザ・ゲーツ」ではアウトリーチ活動にも力を入れている。服役経験のある2人は相談者との関係性が築きやすいと語る/Daniella Baretto

コルチンスキー:自分は長い間服役していたのですが、その間に、出所しては入所を10回以上繰り返す人もいました。「もう二度と薬はやらない」と言いながら、出所前になると、精神的に駆られ、覚悟が揺らぐのです。

出所の際に、「これからはちゃんと生きるんだぞ」と言って見送るだけ、そんな投げやりな釈放の結果、出所者たちが命を落とす事態となっている。そんな現実にはもう耐えられません。アンロッキング・ザ・ゲーツでは成功事例が増えているので、それがまた次なる支援への原動力になっています。

ヤング:私はコルチンスキーと同じ時期に服役していました。彼女が活動を始めるにあたり、声をかけてくれたんです。この活動に熱い思いを持っていますし、私自身の自信にもなっています。当事者の苦労に心底共感できるのは経験者ならではのことなので、このようなピア・サポートが果たす力はとても大きいと思います。

ー 受刑者はどのようにしてあなた方の活動を知り、連絡を取るのですか。

コルチンスキー:刑務所内にポスターを貼っているので、希望者は所内の電話から問い合わせできます。刑務所にも釈放にも休日はありませんから、いつでも連絡がつくよう体制を整えています。

ヤング:紹介で来る方も多いです。検事や弁護士、矯正施設からも問い合わせがあります。コロナ禍で、矯正施設との関係は以前より良くなりました。誰も迎えに来なくなったときでも、私たちは対応していましたから。

ー コロナ禍の影響は?

ヤング:コロナ禍当初は、シェルターも治療施設も人の受け入れをストップさせました。だんだん状況はゆるやかになりましたが...。また、刑務所が大量の受刑者を釈放したため、相談者の数も2、3倍に膨れ上がり、私たちは大忙しでした。

ー 薬物の過剰摂取が深刻な問題となっていますね。

コルチンスキー:コロナ禍よりも深刻と言えるのが、薬物の過剰摂取問題です。とにかく命を守ることを最優先すべきなのですが、行き場がなければそれも難しい......。特に北部のへき地に向かう人は、バスが週に1回しかないため、出所後に何日間もホームレス状態になる可能性があります。安全に自宅に戻り、治療を受けられるようにし、命を守ることが最優先課題です。

ヤング:出所後に薬物の過剰摂取に陥る人はたくさんいます。私自身、19年間依存症を抱えていましたし、相談者や知人で亡くなった人たちも数知れません。昨年6月には、私の息子も薬物の過剰摂取で命を落としました。情熱を持って取り組んでいるこの活動ですが、さすがにこの時は打ちのめされました。

コルチンスキー:息子さんの死には本当に大きな衝撃を受けました。治療や支援を求める人の数はますます増えています。出所者の受け入れを拒否する施設も多く、出所者はどうすればよいのでしょう。出所者が再起のチャンスを掴むにはあまりに障壁が多く、怒りすら感じます。私たちは、誰一人拒まないサービスの提供に努めています。

ー よりよい支援のために、構造的にどのような変化が必要ですか?

ヤング:住宅ならびに依存症者の治療施設の数を増やす必要があります。薬物依存状態にあるからといって、命を軽んじてはなりません。

コルチンスキー:出所前の段階から支援を行うことです。私の場合、11カ月半の刑期中は薬をやりたいとは思わなかったのに、最後の2週間になると薬物のことに頭がとらわれるようになりました。そんな経験があるので、刑務所内で強迫観念にとりつかれそうな段階からサポートすることに力を入れたいのです。出所時に頭の中が整理されていれば、社会復帰に向けて軌道に乗れる可能性が高まりますから。

また、依存症者は家族や地域の人々をたくさん傷つけ、苦労をかけています。出所して薬を断てたとしても、なかなか許してもらえない。ですから私たちは、地域の人々を癒す活動にも力を入れています。

ー 活動を支援したい場合、どのような方法がありますか。

ヤング:ウェブサイトから寄付を募っています。金額によって、出所時に着る衣類の寄付(25〜100ドル)、洗面用品入りのリュックの提供(100ドル)、出所日の1対1でのサポート(200-300ドル)があります。


コルチンスキー:リュックはとても役に立ちます。出所時、所持品は透明のビニール袋に入れて渡されるのですが、リュックがあれば出所者とは分からないので、じろじろ見られずに済みますから。

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「アンロッキング・ザ・ゲーツ」では、衣服、洗面用品入りのリュックの提供、出所日の1対1でのサポートといったかたちでサポーターになれる/Daniella Baretto


ー 最後にメッセージをお願いします。

コルチンスキー:資金調達が大きな課題です。すでに先住民健康局をはじめとし、数々のサポーターに資金協力いただいていますが、もっと資金を増やせれば、より幅広い活動ができます。社会に変化をもたらしたい方から、私たちに応援をいただけるとうれしいです。

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出所者の社会復帰を支援する非営利団体「アンロッキング・ザ・ゲーツ」の代表パム・ヤング(左)とモー・コルチンスキー/Daniella Baretto.

ヤング:設立からまだ1年なので、今後まだまだやれることがたくさんあると思っています。苦しんでいる人には私たちが手を差し伸べたい。刑務所からの出所者に限らず、連絡をくれた人にはできるかぎり協力したいと思っています。元受刑者という体験をフルに活かし、大きな夢を持って活動をすすめていきたいです。

公式サイト
https://unlockingthegates.org

By Jenn McDermid
Courtesy of Megaphone / INSP.ngo

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