ギリシャ本土からかなり離れたところに浮かぶティロス島。人口800人の静けさ漂うこの小さな島は、観光マップでは目立たない存在だ。ギリシャに到着した難民の多くが難民キャンプでの生活を余儀されるなか、ティロス島では難民に住まいや仕事を提供する融合施策をすすめてきた*1。


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手つかずの美しい自然が広がるティロス島。Credit: Nikolia Apostolou

*1参照: The Greek island where Syrian refugees are welcome - BBC News



リヴァディア村にあるこの島の小学校は、39名の生徒のうち10人がスーダン、シリア、コンゴ共和国からの難民だ。難民の子どもたちは、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のプログラムにより、2020年9月にこの島にやってきた。教師は、数年前からこの学校で働いている2人と、最近この島にやってきた1人の3人だけ。ギリシャのストリート誌『シェディア』が3人の教師に話を聞いた。

― どうして 都市を離れて、この小さな離島で教師をしているのですか?

教師A:私は軍人である夫がこの島に異動になったのに合わせて、アテネからこのポストを希望しました。

教師B:最初の1年は代理の教師として偶然この島に来ました。その後、ここでの生活がとても気に入ったので、この島に残ることにしたんです。

教師C:この島に来るなんて、自分でも思ってもみませんでした。働きたい地域を選ぶ際も、ティロス島は27番目くらいでしたからね!でも今はこの島や島の人たちとのきずなが生まれたので、今ではこの学校で働くことを“選択”しています。

― 一番大変だったことは何ですか? 都市部の学校で働くのと比べて、離島の小さな学校で働くことのデメリットはありますか?

最初の壁は、私たち3人だけでどうやって学校を運営していけばよいのかということです。それぞれが同じ教室内で、同時に2つの違う授業を教えています(1年生と2年生が一緒、3年生と4年生が一緒、5年生と6年生が一緒といった具合に)。これは、都市部の学校とは大きく違う点です。

もう1つの課題は、音楽や英語など専門の教師が足りていないこと、そして配属までに時間がかかることです。例えば今年は、体育の先生が1人だけ追加できてくれただけでした。また、難民の子どもたちとのコミュニケーションにも最初は苦労しました。通訳がいませんからね。

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ティロス島の小学校。Credit: Nikoletta Skliva / UNHCR

学校で何か事故があった時の不安もあります。小さな島ではどこも同じようなものだと思いますが、専門医はいないも同然。ある女子生徒が腕を骨折したときも、診断を受けるためだけに、船で1時間かけてロードス島まで運搬しなくてはなりませんでした。

― 島の子どもたちはのびやかに過ごしていますか? 都会生活では味わえないこと、海に近いなど島だからこそのメリットも大きいのでしょうか?

こんな離島で生活している子どもたちがのびやかなのは間違いありません。都市部のように、親がいろんなことを心配する必要もありませんから。住民がお互いをよく知っていますし、よその家の子どもたちのことも同じくらい気にかけていますからね。

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ティロス島の海で楽しいときを過ごすコンゴ共和国出身の子ども。Credit: Nikolia Apostolou

海や田園地帯で遊ぶことが、子どもたちの日常です。島には、子どもも大人も参加できるサッカーのアカデミーもあります。離島生活の支援団体のおかげで、毎年スポーツイベントも開催されています。とはいえ、アテネなど大きな街で暮らすことと比べると、何かと選択肢が限られていることも事実ですけどね。

― 2021年9月、難民の子どもたちとの集合写真がTwitterやFacebookで拡散されました*2。温かい声も多く寄せられる中、子どもたちへのヘイト発言も見かけられました。難民の子どもたちはスムーズに島の生活に馴染めたのでしょうか?

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拡散された写真 Credit: Nikoletta Skliva / UNHCR 

学校や島の生活にも、だんだんなじんできているようです。時間はかかりますが、他の子どもたちと一緒に、楽しそうに過ごしていますよ。言葉の違いがコミュニケーションを難しくしているのは確かですが、お互いがオープンな気持ちで接することで、うまくバランスを取っていると思います。

*2 参照:Greek Island Opens School for Refugee Children in Solidarity Gesture

― 遠足ではどこに行くのですか? 放課後、子どもたちは一緒に過ごすのですか?

よく行くのは、古生物学ミュージアム、運動場、ビーチです。とても小さな島ですから、すべてが近いんです。皆が住んでいる家も近いですしね。放課後、子どもたちは毎日のように一緒に遊んでいます。

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ティロス島に避難先を見つけたコンゴ共和国とシリア出身の子どもたち。Credit: Maarten Kramer 

― 子どもたちは将来、島を離れて大学に進みたいと思っているのですか? それとも島に残りたいと?

ここの子どもたちは皆、夢や目標を持っています。勉強し、知らない場所を訪れ、たくさんの人に会いたいと思っています。でも、ティロス島の代わりになるところなんて他にはありません!なんだかんだいって、この島に戻ってきたがる人、この島で子育てをしたいと戻ってくる若者も増えています。

By Maria Manoleli
Courtesy of Shedia / INSP.ngo

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