2021年10月より配信中のドキュメンタリー映画『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』のトッド・ヘインズ監督に『ビッグイシュー・オーストラリア』がインタビューした。

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All photos courtesy of The Velvet Underground (2021) / Apple TV

音楽シーンに多大な影響を与えたロックバンド

「ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは商業的に成功したわけではないが、レコードを買った3万人が全員バンドを始めた」これはもともとはブライアン・イーノの発言だが、スタジオで語り継がれるうちに伝説的な意味合いを帯び、音楽の世界ではよく知られたセリフだ。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは、アート・ロック(60年代後半に登場した芸術的要素を持つロックバンド)を代表する4人組のロックバンドだ。1964年にソングライターのルー・リードと複数の楽器を演奏できたジョン・ケイルがニューヨークで結成し、その翌年に新たなメンバー2人が加わった、彼らの反体制的で前衛的なポップ音楽は、グラムロックやパンクロック、ニューウェイブの誕生をもたらした。大衆から広く認知されていたわけでもないのに、音楽のあり方に大きな影響を与えた。

このバンドの存在は、意欲的な映像作家も生み出した。その1人が若き日のトッド・ヘインズだ。この度、彼が監督を務めたドキュメンタリー映画『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』が、カンヌ国際映画祭でのプレミア上映を経て、2021年10月よりApple TV+で配信されている。ヘインズ監督は、『エデンより彼方に』(2002年)や『キャロル』(2015年)でアカデミー賞にノミネートされ、カーペンターズをバービー人形を使って描き波紋を呼んだ『スーパースター』(1987年)、グラムロックをテーマにした幻想的な『ベルベット・ゴールドマイン』(1998年)、6人の俳優を起用してボブ・ディランの半生を描いた『アイム・ノット・ゼア』(2007年)など数々の実験的作品を発表してきた。

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All photos courtesy of The Velvet Underground (2021) / Apple TV

監督自身のヴェルヴェット・アンダーグラウンドとの出会いは1980年、ロード・アイランド州で大学生活を始めたばかりの頃だ。大学の初日、友人が『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』のレコードを貸してくれたのだ。青春映画のワンシーンのようだ。「はじめて夢中になったレコードでした。運命のようなものを感じました。けっして大げさに言っているわけではありません。このバンドなくしては、私の音楽人生はないも同然です。自分の音楽ルーツをたどると、このバンドに行き着きます」

アンディ・ウォーホルの目にとまり注目を集める

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは、ポップアートの芸術家アンディ・ウォーホルに気に入られたことで、バンドとして力をつけていった。ウォーホルは自身のスタジオ「ファクトリー」にバンドを招き、ドイツ人モデルのニコをもう一人のヴォーカリストとして参加させた。

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All photos courtesy of The Velvet Underground (2021) / Apple TV

「ヘロイン」「毛皮のヴィーナス」「僕は待ち人」といった楽曲に代表されるように、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは麻薬やサド・マゾヒズム、都会の路上風景といった、暗くて映画的なテーマを扱うことを得意とした。当時流行していたヒッピーたちの“フラワー・ムーブメント”の中でも、ひときわ異彩を放った。「彼らの音楽にインスパイアされ、いくつもの作品が連鎖的に生まれました」とヘインズは言う。「このバンド自体が、さまざまな影響や関心が入り混じったひとつの“結果”でした。あの時代のニューヨークは、そんな創造的な熱狂やエネルギーがあふれていましたからね」

当時の前衛的な映像製作家たちによる素材が映像に

彼らの最初の公式ドキュメンタリーとなる今作は、2013年にリードが亡くなるまでパートナーだった音楽家・芸術家のローリー・アンダーソンが、リードの遺品整理をしていた際に、ヘインズに映像化をもちかけたことで始まった。製作にあたってヘインズは600時間以上もの映像に目を通すなど、膨大な情報の選別・保管の作業を行った。そのほとんどはアンディ・ウォーホル美術館の協力により入手したものだ。

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All photos courtesy of The Velvet Underground (2021) / Apple TV

おかげで、過去に類を見ない、バンドの存在と同じくらい非常にユニークなロック・ドキュメンタリー作品が仕上がった。当時を描いた多くの実験的映像作家(マヤ・デレン、スタン・ブラッケージ、ケネス・アンガー、ジョナス・メカスなど)の作品や、ウォーホルの有名な『スクリーン・テスト』からメンバー4人の映像を使うことで、あの時代と場所を呼び起こす。観客は、なんとも心地よい60年代のニューヨーク・アートシーンにどっぶり浸かることができる。

「ロックバンドのドキュメンタリーと聞いて人々が思い描く普通の作品にならないことは最初から明らかでした」とヘインズは言う。「このバンドはニューヨークの前衛的な映像製作家たちと独特な関係を築いていました。視覚的パワーをフルに活かし、このバンドに命を吹き込むような映像作品にしようと考えました」

当時を映し出した映像の数々が、彼らの音楽にしびれるほどマッチし、圧倒的存在感と力をよみがえらせている。解散から半世紀が経っても、彼らの音楽がどれだけ風変わりで、どれだけ人々を夢中にさせるものかをまざまざと見せつけられるようだ。

「幸福と愛」ではない世界観をようやく人々が理解し始めた

このバンドの魅力は、奇妙さや矛盾を浮き彫りにしたリードの存在にある、とヘインズは見ている。「リードは、この世界であるがままに生きることの難しさを表現しました」と、怒りっぽい性格で誤解されることも多いリードの人柄を評する。「明らかにマゾヒスト的気質があり、男性であることや自分らしくあることに疑問を投げかけ、複雑な性的アイデンティティや好奇心に向き合ってきた人物です」

「幸福と愛がすべて、愛さえあればどんな問題も克服できるといった60年代的姿勢とヴェルヴェット・アンダーグラウンドが違うのはこの点です。このバンドは独特の表現方法を持っていた。だからこそ、人々に受け入れられ、理解されるのに、長い時間がかかったのだと思います」

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All photos courtesy of The Velvet Underground (2021) / Apple TV

ヘインズはこの物語を伝える機会に恵まれたことを幸運に感じている。「非常に名誉なことです。本当にこの映画を自分が作ったのか確かめたくて、ときおり自分をつねっています。憧れだったジョン・ケイルが自分の名を知ってくれたなんて、夢みたいです!」

By Luke Goodsell
Courtesy of The Big Issue Australia / INSP.ngo

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