牧畜から発生する環境への影響(温室効果ガスの排出など)を抑制するとともに、食事に関連する病気を減らしたいなら、「英国の人は今後10年で(2030年まで)肉の摂取量を30%減らすべき」と英政府委託の報告書にある*1。(完全)菜食主義がかつてないほど広がっているようだが、果たして、肉の消費量を3分の1に減らせる目処は立っているのだろうか? オックスフォード大学プリマリヘルスケア学部の研究者クリスティナ・スチュワートの解説記事を紹介しよう。
最新の調査では、赤身肉の減少が最も著しかった。Natalia Lisovskaya/Shutterstock
*1 参照:The National Food Strategy
「肉食」に見られる近年の傾向
筆者たちはその問いを突き止めるべく、全国食事栄養調査(UK National Diet and Nutrition Survey)のトレンド分析を行った。この調査は、英国の人々の食生活に関する唯一の全国データで、調査対象者の人口統計データ(年齢・性別・民族・所得・地域など)は一般集団と類似している。調査対象としたのは、およそ1000人につけてもらった4日間の食事日記だ。回答者の肉の摂取量を正確に見積もるため、肉料理における肉以外の具材は調査から外した(例. 「夕食にビーフラザーニャを食べた」とあれば、ビーフの量だけを分析し、その他の具材は計算に入れない)。すると、1日あたりの肉の摂取量は平均で、2008年の103.7gからから2019年には86.3gと17%減っていた。赤身肉が13.7g 減、加工肉が7g減、白身肉(鶏肉、魚、豚肉など)は3.2g増だった。この結果から言えるのは、肉の摂取量を減らすペースを今より約2倍に上げないと、「2030年までに30%減」の実現は難しいということだ。
白身肉の消費は増えている。Moving Moment/Shutterstock
赤身肉の摂取減と「白身肉への逃避」
1日あたりの肉の摂取量は、ビーフ(牛肉)が5.7g 減、ラム(子羊)が3.9g減、ソーセージが 4.2g減だったが、その一方で白身肉の摂取量は増えていた。食品科学者が「白身肉への逃避(flight to white)」と呼ぶこの傾向は、他の国々でも起きているようだ。その理由は、健康ガイドラインが赤肉や加工肉を過剰摂取すると大腸がんのリスクが高くなると言い過ぎだからだろうか。それに比べると、鶏肉の摂取による健康への影響についてはエビデンスが少ないのだ。DOERS/Shutterstock
2010年にさかのぼるが、政府に栄養に関する助言を行う科学者委員会は、赤身肉と加工肉を大量に摂取している――1日あたり90グラム以上――成人に対し、最大70グラムに減らすよう提言している。筆者たちの分析によると、この推奨値を超えて摂取している人は、2008-09年の調査では53%だったが、2018-19年の調査では34%(女性の26%、男性の43%)だった。ベジタリアンやヴィーガン*2の割合も着実に増えており、「肉類や動物性食品を控えている」人の割合は、2008-09年の2%から2018-19年には5%に増えていた。
*2 ベジタリアンは菜食主義者の総称、ビーガンは肉や魚以外にも動物性食品を一切口にしない完全菜食主義者を指す。
肉の摂取量が多かったのは白人や1980〜90年代生まれの人たちで、若者(1999年以降生まれのいわゆる「Z世代」)や高齢者(1960年以前生まれ)、アジア系の人たちは摂取量が少ない傾向にあった。ジェンダーや所得階層のあいだでは、摂取量に大きな違いは見られなかった。
環境への影響を減らせる可能性
肉の摂取における変化が環境に与える影響を算出するため、1グラムの肉(ビーフ、ポーク、ラム、チキン)を育てることに関するグローバルデータベースとの比較も行い、6つの指標(温室効果ガスの排出、牧畜に使用する土地の面積など)から環境への影響を見積もった。すると、肉の摂取における変化は、家畜の飼育に必要な土地面積の35%減、淡水の量の23%減、農業全体から発生する温室効果ガス排出量の28%減に匹敵すると推定された。前向きな数字に思えるが、“健康的で持続可能な食糧システム”の目標値にはまだ不十分である。ただし、今回使用した環境データは世界の食糧生産システムの平均に基づいているため、英国での消費に関する推定値はあくまで概算である。また、回答者が摂取した肉が国内産なのか輸入肉なのかまでは考慮できていない(国内産の方が環境への影響は低い)。
肉の摂取量を減らす6つの効果的な方法
英国では人口の39%が、健康上または環境配慮などの理由から肉の摂取量を減らそうと試みているようだが*3、なかなかすぐに切り替えられるものでもない。筆者たちは、肉の摂取量を減らす上で取り入れやすい方法をリスト化し、9週間のオンラインプログラム*4を通して、参加者たちの反応から内容を改良していった。プログラム参加者から「最も効果あり」と評価されたのが下記6つの方法だった。*3 参照:PLANT-BASED PUSH: UK SALES OF MEAT-FREE FOODS SHOOT UP 40% BETWEEN 2014-19
- メインディッシュのうち少なくとも1つをベジタリアンフードにする。
- 野菜の量を倍にして、肉の量を半分に減らす。
- 1日に摂る動物性食品の上限を決める。
- 新しいベジタリアンレシピに挑戦する。
- 昼食か夕食を野菜のみにする。
- 軽食は植物ベースのもののみにする。
*4 参照:https://optimisediet.org
環境保護や公衆衛生の施策としても、肉の消費減を加速すべきとのメッセージを発信していってもらいたい。
<オンライン編集部補足>
日本人の肉の摂取量は2019年度で1日平均103.0g。2008年度の調査では77.7gだったので、増加傾向にある。(参照:厚生労働省「国民健康・栄養調査」)
著者
Cristina Stewart
Health Behaviours Researcher, Nuffield Department of Primary Care Health Sciences, University of Oxford
※本記事は『The Conversation』掲載記事(2021年10月8日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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