コロナ禍により、収入が激減し住まいを失う人が急増している。本来、生活保護制度はそのような人々にとってのセーフティーネットとなるはずのものだ。

しかし、住まいのない生活困窮者に集団生活の施設への入所を誘導する自治体も多くあるため、利用を回避したいという人も多いのが実情。安心して住める場所を提供する「ハウジングファースト」の支援が必要な割には、シェルターの数が追い付いていない。
特定非営利活動法人TENOHASI代表理事の清野賢司さんの話に続き、コロナ禍における困窮者支援の現場の状況と、支援の様子について稲葉剛(一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事/認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表)木津英昭(ビッグイシュー基金スタッフ)が語った。

この記事は2021年11月23日開催のオンラインイベント「ハウジングファースト型シェルター実践交流会」では稲葉剛と木津英昭のセッションより抜粋・再構成したものです。

コロナ禍における生活困窮者支援の現場から/稲葉剛

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イベント主催:ハウジングファースト東京プロジェクト

稲葉は1994年より、路上生活者の生活支援に取り組み、2014年、一般社団法人「つくろい東京ファンド」を設立。中野区内で個室型シェルター(7部屋)を開設し、支援を開始。年々増え続ける空き家・空室を個室型シェルターとして借り上げ、中野区、豊島区などで支援を展開している。

「居宅すること」を判定・評価せず、条件も付けない支援が必要

つくろい東京ファンドは、「ハウジングファースト東京プロジェクト」に2016年から参加し、住宅支援の役割を担っている。
日本や欧米において、ホームレス状態の困窮者に対する従来の支援は「ステップアップモデル」が主流であった。まず困窮者は施設や病院に入ってもらうことが求められ、その上で行政や支援団体がアセスメントをする――つまり「居宅すること」について判定や評価をし、そこから困窮者の行き先が決定するというものだ。
ステップアップモデルでは、アパートへの入居がゴールとして設定されている。

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一方、ハウジングファーストモデルは、「住まいは基本的人権」であり、「住まいは無条件で提供されるべき」との理念に基づき、困窮者に対していかなる判断も下さず、条件も設けずに住居を提供する。

例えば薬物依存の人であっても、まずは個室型の住宅に入居してもらう。その上で、健康リスクを軽減していく、「ハームリダクション」の理念に基づく支援が行われる。 このように路上から直接恒久的な住まいに入居するのが理想的な支援だ。日本における現状のハウジングファースト型支援は、財政的な限界があるため、困窮者が恒久的な住まいに移るまでに一時居宅の個室型シェルターを経る「ワンステップ」方式をとることが多い。

コロナパンデミックで有効な住宅支援とは

稲葉たちはコロナ禍において、重点的活動として次の3点の支援を行った。

1.ウェブ、メールフォームによる相談窓口開設
2020年4月に出た1回目の緊急事態宣言時には、ネットカフェに滞在していた多くの若い世代の困窮者が路上に押し出されてしまった。このとき、つくろい東京ファンドでは、スマホのWi-Fi経由でも閲覧できるようにメールフォームで相談窓口を開設。困窮者からのSOSを受信すると現場まで駆けつけて相談に応じた。相談件数は4月と5月で170件にものぼった。

2.個室型シェルターを倍増し、国籍を問わず困窮者を支援
不動産業者やアパートのオーナーの協力を得て、個室型シェルターを独自に新規開設。2020年2月時点で25室だった部屋を、2021年10月には56室まで倍増させ、現在は10代〜70代の男女が入居している。

この背景には若年層の困窮者支援、感染症対策としての個室入居の必要性などがある。また、入管の施設から仮放免になった、在留資格のない外国人も困窮状態にある人が多かったため、外国人の一時居住シェルターとしても利用されている。

3.ペットともに一時居宅できる「ペット可 個室型シェルター」
これまで生活に困窮した経験のない「中間層」の人たちも、収入が激減。住まいを失い、ペットとともに行き場がなくなったという相談が増えた。役所の相談窓口では、ペットを処分した上で宿泊施設に移るよう求められることがあった。

つくろい東京ファンドではこの問題に対処するため、ペット入居可の賃貸物件を3部屋借り上げ、ペットとともに入居できる個室型シェルターを新規開設。

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ペット入居可シェルター「ボブハウス」は、映画「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」にちなんで名付けられた。
参考記事:猫のボブが日本に遺したもの:ペットと泊まれる個室シェルター「ボブハウス」


また生活支援として、2020年秋からスマホの無償貸し出し事業「つながる電話」プロジェクトも行っている。シェルター退去後の新たな物件の契約や、就職のときに必要となる、通話可能な電話番号のあるスマホを無料で借りることができる。

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これより部屋や仕事を探すときに必須となる電話番号を持つことができるようになった。

今後の課題:現状の制度では限界がある

ハウジングファーストプロジェクトで提供しているのは個室シェルター型。(ワンステップ)。
自分に合った部屋を探せるうえに、本人名義で部屋を契約することができるメリットがあるが、生活保護を利用している場合はアパートの転宅一時金支給に際し、福祉事務所の許可を得る必要がある。また生活保護を利用していない場合は、転宅費用の捻出というハードルがある。

※ビッグイシュー基金の「ステップハウス」は家賃の一部を転宅費用の一部として積み立てることができる。

一方で、ステップを経ず最初から恒久的なアパートに入居する欧米型のハウジングファーストを実践するためには、いつ困窮者が訪ねてきてもすぐに入居できる空き室を維持する必要があるため、支援団体に多くの資金と運営体力が求められる。そのためおのずと数が限られてしまうのが問題だ。

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このような課題がある中で稲葉たちは他の支援団体とともに困窮者の声に耳を傾け、行政に現状を訴え制度変更を訴えてきた。

・住宅確保給付金の対象者拡大、求職要件の緩和、支援期間の延長
・東京都による住居喪失者へのビジネスホテル提供
・生活保護における「原則個室対応」「扶養照会の運用改善」

様々な申し入れにもかかわらず、まだまだ外国籍の人なども含め取り残される人たちもいる。「住まいは人権」「生活保護は権利」をスローガンに、路上で暮らさざるを得ない人が少しでも減るよう今日もアクションを続けている。

生活困窮者支援は「ダイバーシティ」のるつぼ/木津英昭

木津はソーシャルワーカーとして、これまで20年間に渡り障害者支援をおこなってきた。コロナ禍の2020年秋にビッグイシュー基金に入職し、1年が経過。前職とは違い、よりスピード感のある支援が必要とされる現場での経験を踏まえて、困窮者支援の現状を語った。

多世代、多国籍…多様な背景を持つ困窮者

ビッグイシュー基金での2020年9月〜2021年8月までの1年間の相談件数は1,100件にのぼった。そのうち20名が生活保護を申請後、東京都が借り上げたビジネスホテルに宿泊、14名が個室型シェルターを利用した。

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コロナ禍における相談現場で特徴的だったのは、シェルターを利用した14名が外国籍、戸籍がない方、身体障害または精神障害を持つ方、出所者、高齢者、未成年者、ひとり暮らし歴がほぼ無い方、セクシャルマイノリティーなど、まさにダイバーシティのるつぼであること。一人ひとりに向き合ったアプローチが必要となる。

多様な困窮者と向き合う際に必要なこと

このように多様な困窮者と向き合う現場での経験から、支援担当者が考慮しておくべき点として、次の2つを挙げた。

1.緊急性が高い
困窮者からSOS、支援を求められたときに、緊急性のある相談が非常に多いのが特徴。例えば「全所持金が数十円」、「今かけている公衆電話が最後のお金です」など、ギリギリの状況の困窮者の方からの連絡がある。
他の福祉支援と比べると、最速の判断で支援を開始しなければならない。

2.専門家につないで終わりではない
困窮者に必要と思われる専門家につないで支援が終わるわけではない。のちにトラブルが起こることもあり、継続的で粘り強い支援が必要となる。
また、公的制度の利用につなげようとしても、困窮者本人の気持ちが追いついておらず、丁寧な相談支援が必要になることも多い。

個室型シェルター支援のメリットと課題

困窮者が個室型シェルターに入居した場合、支援者はチームで対応するため、柔軟なサポートができることが多い。
しかし都が借り上げたビジネスホテルでの宿泊支援においては、1対1のサポートが必要となるため、相談から現場対応までのすべてを担当者が1人でカバーしなければならないことが多く、負担が大きくなる傾向にある。

ただ個室型シェルター支援は、住まいを失ったすべての困窮者が受けられる状況には至ってはいない。稲葉と同じく、数とマンパワーの課題を挙げた。
生活保護でアパート生活がスタートしても、困窮者、支援者にとってそこはゴールではない。困窮者が安心した暮らしを手に入れ、自立を実現するための効果的な支援としてできることを、今後も考えていきたい。

記事作成協力:Y.T

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

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