ビッグイシュ―が「住まいの問題」をテーマにしたトークイベントをすると聞くと、貧困が原因で住まいを失ってしまった人たちへの支援を想像するかもしれない。しかし貧困だけでなく、高齢者、障害者・病気がある人なども住まいを確保することが困難なことがある。また住まいがあっても、居住環境の維持が難しい人もいる。今回は、その2つについて支援活動を展開する団体に話を聞いた。
アメリカに本部をおく「ハビタット・フォー・ヒューマニティ」は、1976年に設立し、今では世界70カ国以上で「住まい(=habitat)」の問題に取り組む国際NGOとして活動している。 「ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパン」(以下:ハビタット・ジャパン)は国際NGOの日本法人として、日本でも「住まいの問題」を改善する取り組みを行なっている。これは、都内で住まいのない人に入居のためのサポートをするほか、住まいがある人には部屋の清掃や片付けを通して、安心・安全に暮らせる住まいを取り戻すための支援だ。
2022年3月のビッグイシューライブでは、「ハビタット・ジャパン」の笠江菜生さん、高橋範子さんをゲストに、国際NGOが日本の住まいの問題に対して、どんな取り組みをしているかを中心に話を聞いた。
この記事は2022年3月25日に配信されたBIG ISSUE LIVE #12「国際NGOが取り組む、日本の住まいの問題」の内容を編集したものです。
聞き手:NPO法人ビッグイシュー基金 職員・川上翔
住まいの問題解決支援となる、2つの柱
「ハビタット・ジャパン」の日本での活動は2001年に開始。以来、貧困をはじめ、災害や時に紛争などにより住まいを失った方を支援するために、住居の建築に必要な資金を国内で集めるとともに、「グローバル・ビレッジ」と呼ばれる海外住居建築ボランティアプログラムに参加するボランティアを国内で募り、各国のハビタットが取り組む住居建築事業地にボランティアを派遣し、住居建築を支援している。「グローバル・ビレッジ」には、日本からは多くの大学生がボランティアとして活動に加わり、これまでに24ヵ国に14,500名以上のボランティアを派遣し、家の建築あるいは修繕を支援してきた。東日本大震災で多くの人が住まいを失った時には、修繕支援を中心に被災者の住宅支援に着手してきた。その後、国際NGOとして、日本での、災害時ではない、平時での住まいの支援の在り方を模索する中、一人でも多くの人がきちんとした住まいを持てるよう、建築や修繕といったハード面の支援から、ソフト面の支援に形を切り替えていった。
そして、2017年、東京23区内で居住支援を行うプログラム「プロジェクトホームワークス(PHW)」が開始。これは次のような2つの柱に沿ったものとなっている。
1つ目は、アパートの取り壊しや高額家賃により転居が必要な人や、すでに住まいがなくなり、ネットカフェ、シェルターなど一時的で不安定な場所から、アパートのような恒久的な住まいに移行する人の入居支援。不動産店や部屋の内見の同行なども行う。「ハウジングファースト東京プロジェクト」と連携して支援をしている。
2つ目は、不用品やごみが溜まってしまった部屋をボランティアと一緒に協力して片付けて、安心して住める状態に戻すという支援。清掃や壊れた家具の修繕もDIYで行う。この活動は、シンガポールや香港といった国のハビタット事務局でも取り組まれている活動だ。
プロジェクトホームワークス(PHW)支援の流れ
ハビタット・ジャパンで、国内居住支援PHWを担当する笠江さんによると、支援の流れは次のようになっている。当日のスライドから
「相談者(ホームパートナー)から相談を受けて、入居に必要なものを、ハビタットのスタッフが協力して揃えていきます。特に住民票の取得で私たちの支援を必要とされている方が多いです」。アパートは自分名義で契約するため、住民票は必須。笠江さんによると、昔の住民票が失効した人、戸籍がない人からの相談も少なくないという。
相談に至る経路は、個人での問い合わせのほか、つくろい東京ファンドやTENOHASIなどの支援団体からがほとんど。ビッグイシュー販売者の入居支援も行っている。
「私たちハビタットにできることは、(人的資源が限られているため)限定的。そのような状況で、相談者に最大限応えるためにできることは、と考えた」と、笠江さん。
入職当時を振り返りながら、「当初は私たちの入居支援に対して、協力的な不動産店を開拓することがとても重要でした。ノウハウはないので、飛び込み営業のように不動産会社を回ったのですが、協力してくれる会社は驚くほど少なく、厳しかった」と。また、「相談者がこんな状況で支援もなく、ひとりで部屋を探すのはどれほど大変か」と、つくづく感じたという。
その後、ハビタット・ジャパンは東京都から居住支援法人(※)の指定を受け、現在は数ある協力不動産店との連携もうまくいっているという。「孤立した相談者にとっては、住まい探しに安心感や心強さが必要」と、自立に向けた住まいにつなぐ取り組みについて話した。
※居住支援法人とは:住宅確保要配慮者(低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯、その他特に配慮を要する者)が、賃貸住宅への入居を円滑にすることができるように、相談・家賃債務保証・見守りなどの支援を行う団体や企業のこと。申請後、都道府県が指定をする。(住宅セーフティネット法第40条)。
一個ずつ、ゆっくりと、思い出の品と、不用品を仕分け
2つ目の柱、今ある住まいを「もう一度住みやすい家に戻す」という支援では、物があふれた危険な状態や、不衛生な状態を、笠江さんらはボランティアとともに改善していく。この支援では、地域の包括支援センター、障害のある人からは保健センターを通じて相談が寄せられることが多いという。
「ホームヘルパーさんが日常的な支援に行く場合、部屋に入れないほど物があふれていることがあります。その状態だとヘルパー支援が入ることが難しいため、相談を受けて、まずハビタットがボランティアと共に片付け・掃除支援に入ります」
ハビタット・ジャパンでは、2021年度はのべ約60軒の清掃・片付け支援にあたった。
部屋を訪れた際は、片付けていない部屋を他人に見られることに抵抗があり、支援を嫌がられることも。信頼を築くため、時間をかけて相談し、片付けを進めていくケースもある。
「1世帯に対し、支援に複数回入りることもありますが、初めに目標を一緒に設定します」と、笠江さん。「過去に業者に頼んだ方で、物を全部捨てられてしまってトラウマになった方がいました。一緒に時間をかけて一個ずつ仕分けて、不用品をまとめていくというやり方が、ハビタットに求められているのではないかと思っています」。
丁寧な整理、ごみ出し、そして水回りや床、室内の清掃には労力が必要だが、ボランティアの力が欠かせない。大学生のほか、企業からもボランティアとして参加してもらっている。コロナ禍以前には、ハビタットの活動を知る外国人の参加者も多かったという。
病気・トラウマ・障害による「片付けられない」症候群
相談者の背景にあるものを探っていくと、実は本人の意志と関係なく、部屋が物であふれてしまっていることもある。セルフネグレクト、認知症、溜め込み症、これらは本人にはどうすることもできない原因の病気やトラウマ、障害によるものある。
「こうした個人の背景にある、さまざまな事情は、活動を通じて私たちも分かってきたことです」笠江さんは続ける。「相談者は怠けているんじゃないか、と思われてしまうかもしれない。でも誰もが、片付けられない状態になる可能性もある」と、支援を必要とする人への理解や協力の重要性を話した。
身近にある住まいの問題を感じ取ってほしい
笠江さんは以前、保育士として働いていた。「住まいの貧困、住まいの問題について、ハビタットに来るまではわからなかった。活動をする中で、さまざまな家・部屋の中にある問題に気づいた。当事者が声を上げることや周りの人が気づかない限り、周囲に伝わりづらく見えにくいのが居室内の問題なのではないか」と話す。「たくさんの人に、こうした片付けの問題を知ってもらい、ボランティア活動を通じて、自分と無関係ではない身近なこととして感じ取ってほしいと思います」。
ハビタット・ジャパンにボランティア参加するには
ホームページやSNSで一般募集を行っているので、18歳以上なら誰でも参加可能。所属する大学にキャンパスチャプターがある場合は、そこに相談してみることもできる。https://habitatjp.org/
※ウクライナ避難民への支援
ハビタットは世界70か国にオフィスがある。ウクライナに隣接する国としてルーマニア・ポーランド・ハンガリー・スロバキアなどにも事務所を構えている。ロシアのウクライナ侵攻が始まった2月24日からハンガリーとルーマニアのスタッフがウクライナへ緊急援助物資支援を開始。避難所への暖房器具配置などに奔走している。
ポーランドにおいてもワルシャワ市役所が、市内でウクライナ避難民の受け入れ世帯を募集。ハビタットがそのマッチング支援、避難民の移動グッズの支援などの協力をしている。
戦争終結後に、避難民がウクライナ本国に帰国できるかどうか難しい可能性も考慮し、ハビタットでは現在、周辺国での定住を視野に入れた中長期的なシェルター、空き家改修や居住支援を検討しているという。
国際NGOとして多国間ネットワークで連携し、短期的な物資や移動の支援と、長期的な居住支援の両面で支援計画が進められている。
・ウクライナ危機:避難を強いられる人々への緊急支援
・プロジェクトホームワークスに参加する
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記事作成協力:都築義明
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。