マーティン(仮名)は、ジェシカと過ごす時間にお金を払う。ジェシカは、障害者の性体験をサポートする「セクシャル・コンパニオン」で10年以上のキャリアを持つ。今日も二人は裸で横たわり、見つめ合い、相手の体温を感じ、肌に触れ合い、強く抱きしめ合った。


セクシャル・コンパニオンの仕事について、ジェシカはこう説明する。「プライバシーのない障害者施設の入居者、障害ある息子さんの性の目覚めに戸惑われている親御さん、介護スタッフにセクハラ行為をはたらく高齢者などに対応します。障害者と性的関心をつなぐための仕事で高い需要があるのに、誤解されることも多いです」

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photo: Joaquin Corbalan/iStockphoto

セクシャル・コンパニオンでは何より「心のケア」を大事にすると言うジェシカは、「顧客と過ごす時間は、恋人のような関係性を心がけています」と語る。気配り、共感、愛情を惜しみなく注ぎ、約90分間のアポイント中の行為は自然の流れにまかせている。ジェシカ自身はキスと本番はしないと決めているが、線引きは人それぞれだ。

自分の体や性的表現を知るための時間

ジェシカと一緒に過ごすことで性的な充足感を味わう、または、自分にはどんな性行為ができるのかを発見し、将来のパートナー関係に活かしてもらいたいと考えている。しかし、その境地に達するには、何度か肌を重ねる必要があるという。

「私と出会うことで初めて、相手への触れ方にもいろいろあることを知る人が多いです。とにかく色々試して、慣れてもらうことを大切にしています。ロマンスや性欲のはけ口というよりも、自分の体や性的能力を知り、表現するための時間です。やってみなければわからないことも多いですから。過度に刺激しても、痛みしか感じないこともありますからね」

「重い障害がある人を車椅子から下ろして服を脱がせるのは、容易ではありません。専門知識が必要ですし、時間もかかります。言葉だけではない思いやりやコミュニケーションが求められます」

顧客の中には、暴力的・虐待的な性体験を持つ女性たちもいる。他者への信頼を少しずつ取り戻したいとの思いからジェシカのもとを訪れ、タントラ・マッサージ(スピリチュアルな癒しを目的とした古代インド発祥のマッサージセラピー)を受けるのだ。性体験にまつわるつらい過去がある男性客も珍しくない。「よくあるのが、おせっかいな親戚や家族によって風俗店に連れていかれたというケースです。良かれと思ってやったことなのでしょうが、本人にとっては逆効果だったのです」

障害者が身近だった経験を経て“普遍的な欲求”に気づく

ジェシカは幼い頃から障害者たちと交流する機会が多くあった。実家の近くには、身体や心に障害を持つ人向けのカールスホーへ・ルドヴィスブルグ財団の施設があり、そこの入居者たちとよく教会で一緒になったのだ。「おかげで、障害者との交流に臆することがまったくありませんでした」と言う。高校卒業後は、シュトゥットガルトにある障害者施設で1年間のボランティアプログラムに参加した。そこで初めて、重度障害者の性的ニーズに対応する必要性を意識した。

「入居者の中には、昼寝中にうつ伏せになって性器をマットレスにこすりつける、おむつをはずした束の間に自慰行為を始める人もいました。職員はそんな彼らに苦笑し、大急ぎでおむつ交換を済ませていました」と振り返る。「この話題を取り上げようとしたのですが、相手にされませんでした」。その後、看護学の勉強中にアルバイトをした職場でも、同じような経験をしたという。

魂の子ども

ジェシカがセクシャル・コンパニオンの仕事を始めたそもそものきっかけは、タントラ・マッサージの講座を受けたことだった。「友人が申し込んだ講座だったのですが、足の骨折で参加できなくなり、私が代わりに受講したんです」。すぐにさらなるテクニックの習得にはげみ、そこで習得したマッサージスキルを今でも活用しているという。

現在は、90分135ユーロ(約18,400円)でサービスを提供している。まれに健康保険が適用されるケースもあるが、ほとんどの顧客は料金を自己負担している。

仕事中のジェシカは、プロの顔だ。シュトゥットガルト郊外にある彼女のヒーリングサロンは「魂の子ども(soul child)」と名付けられている。「私が誰に対しても分け隔てなく接しているという意味を込めて、顧客の一人がつけてくれた名前です」

仕事が終わると、ジェシカは家族が待つ家に帰る。この仕事を始める前に出会った夫は、ジェシカの仕事を理解している。帰宅するとまずシャワーを浴びるのは、家庭の中に仕事を持ち込まないためのルーティンだ。「仕事中も本当の私ですし、その場でできるベストを尽くしています。でも魂のもっと奥深くにあるものは、家族の前だけでしか見せられません」と微笑んだ。

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ジェシカ・フィリップス/Credit: Anne Brockmann


By Anne Brockmann
Translated from German by Sarah Gallery
Courtesy of Trott-War / INSP.ngo

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