「われわれ金持ちに、早急に課税を!」と大富豪たち自身が声を上げ、各国政府にプレッシャーをかける動きがいくつも起きている。そのひとつ、2021年初めにドイツ語圏の国々で立ち上がった「タックスミーナウ」(#Taxmenow)でも、富裕層への公正な税負担を各国の政治家に訴えかけている。これまでに53人の富豪が賛同し、うち24人は名前を公表している。活動の動機や目指すところについて、タックスミーナウの代表理事ピーター・リースに話を聞いた。(ドイツ・ハンブルクのストリートペーパー『ヒンツ&クンスト』掲載記事)


―― あなたは、プラットフォーム 「Verivox」*¹の共同創業者として、2015年の売上で富豪になりました。いつ頃からタックスミーナウ の活動を意識したのですか?

2020年5月、ドイツの総合化学会社BASF(ビーエーエスエフ)の相続人マリーン・エンゲルホルンと話をしたときです。彼女は若干29歳ながら、すでにタックスミーナウの活動に関わり、富裕層への増税を要求していました。私も長い間、アンフェアな課税のあり方に疑問を抱いていましたし、家族ともよくこの話題をしていました。

*¹Verivox
電気やガス、インターネット、携帯電話、金融、保険商品の価格比較ができる。1998年設立。
https://www.verivox.de



ピーター・リース。taxmenowのInstagram投稿より。

―― タックスミーナウが求めるものとは?

最重要ポイントは、税金をめぐる公正性を高めることです。ドイツでは、富裕層の上位になればなるほど、税金の負担や社会的責任を回避しやすくなっています。しかし、大きな資産を持つわれわれ富豪こそ、もっと大きな負担を担うべきです。

―― 具体的に何を批判しているのですか?

累進所得税のしくみでは、99%の人々は所得が増えるにつれて納める税額が増えていきます。ところが、最上位の1%の人たちとなると、突然その負担が激減するのです。 米国のIT長者などトップ大富豪1000人となると、自分たちの資産価値や会社の株式相場を考慮すると、支払う税金はほぼゼロで済んでいるのです。彼らは実際の労働から所得を得ているわけではないので、投資所得などの富が増えても、ほとんど課税されないのです。全くばかげた話です。

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78design/photo-ac

―― 最新の調査によると、1%の超富裕層がドイツ全体の富のおよそ35%を所有しているとか…*²

はい。そして、ドイツ人の半数の預金を合計しても、全体の富の3〜4%にしかなりません。これには民間の債権は含まれていません。ほとんどの人は、洗濯機の故障ひとつが死活問題ですし、(コロナ禍のように)子どもの学校が休校になると(預け先がなくなり)やっていけなくなる親もいるというのに。

 *² 参照:Richest in Germany own around two thirds of country’s wealth

―― 具体的な目標は?

社会のトップ富裕層への税負担を増やし、特に貧困層に大きな打撃となっている付加価値税(日本の消費税にあたる)を抑えたいのです。所得税が課されるレベルを、現在の年収1万ユーロ(約135万円)から、2万ユーロ(約271万円)ないしは3万ユーロ(約406万円)に引き上げるべきです。富の再分配が叫ばれていますが、過去20年のお金の動きといえば、下の層から上の層への動きばかり。至急、その流れを正さなければなりません。

―― この格差社会を推進する力はどこから起きているのでしょう?

80年代に米国のレーガン大統領や英国のサッチャー首相が推進した新自由主義の経済政策の流れだと思います。この波がドイツにやって来たのはもう少し後になってからでしたが、90年代後半の赤緑連立政権(1998-2005年)や2005年以降の第1次大連立政権下でさらにもてはやされました。ヘルムート・コール政権下(1982-98年)ではトップ富裕層に53%の税金が課されていたことを覚えている人などほとんどいません。今日そんな税率を求めれば、富豪たちは激怒するでしょう。

――一緒に活動されてるエンゲルホルンは、とあるインタビューで「私のように、お金を得ることを何ひとつしていないのに、桁外れの富を相続し、それによって信じがたいほどのチャンスや力を手にする者たちがいる。まったくもって不公平です」と語っています。

そう、不公平なのです。でも残念ながらドイツでは、トップ富裕層の1%は他の人たちとは異なるルールで暮らしています。特権階級ならではの権力を持ち、政策を決定し、同じく大金持ちの民間メディア所有者たちの助けを得て、メディアでの論調も決定しています。 ドイツで一番人気のタブロイド紙『ビルト』をご覧ください。日々、洗脳的な記事を掲載しているので、読者はまるで自分が富裕層側にいるかのように、(格差を推進する政党に)投票しています。社会的責任を取ることなく、私有財産を守ることを良しとする世論をつくり出しています。私たちはこんなふうにして、新自由主義の国になるよう、利己的な人間になるよう啓蒙されているのです。

―― エンゲルホルンは、自分の富の9割を手放し、大衆のために再分配したいとも述べていました。

彼女のような次世代の遺産相続人が育ってきています。とても賢くて、道徳的で、自分が手にしているのは特権だとしっかり理解している人たちです。大学生のときに、自分のような遊び方ができない、コーヒーを買うのも躊躇するような友だちの姿を見てきたのです。こうした聡明で若い人たちが、真の変革に希望を持たせてくれます。

―― 多くの富裕層がするように、慈善団体への寄付ではダメなのですか?

タックスミーナウにかかわっている人の多くが寄付をしています。私もです。しかしながら、篤志活動だけでは、公共の利益となる活動の資金難を解決できません。少数の大金持ちの気まぐれに頼るのではなく、民主的にリソースを配分できるしくみが必要です。 社会がきちんと機能する、労働者に教育が行き届くことは、富裕層を含むすべての人々のためになるでしょう。「国にこんなことできっこない」などとぼやいている場合ではありません。

―― ドイツ以外の国々でも、タックスミーナウと似たような動きが起きています。

はい。国際的な「ミリオネアーズ・フォー・ヒューマニティ」や米国の「パトリオティック・ミリオネアーズ」など、ネットワークづくりがじわじわと勢いづいています。これ以外の国々でも、同様の動きが起きつつあります。

―― 今年1月のダボス会議オンラインで、100名を超える富豪たちの国際団体が、資産額が500万ドル(約6億3千万円)超の人への税率2%、5千万ドル(約63億円)超に税率3%、10億ドル(約1200億円)超に税率5%を求める公開書簡を出しました。*³

はい、多くの富豪が署名しました。この世界では、偉大なる億万長者たちが、所得の8%しか税金を払っていません。これは甘く見積もった数字です。多少税率を引き上げたところで、この人たちが貧しくなることはありません。それをはるかに上回る額の利益や株式配当を得ていますから。

*³ 参照:More than 100 millionaires make an unusual plea: 'Tax us now'


―― その公開書簡によると、毎年25億ドル(約3100億円)が調達でき、世界で飢餓状態や貧困に苦しむ人たち23億人を救え、追加費用なしで新型コロナウイルスのワクチン接種を世界中で実施できると。

多くの富豪が、これまでどおりのやり方は持続可能じゃないとの結論に達したのです。これまでは変革が先延ばしにされてきました。ドイツだけで大金持ちは10万人はいるんです。世論調査では、回答者の少なくとも7割が「富裕層への増税」を求めています。政治家の皆さんは何をぼさっとしているのでしょう?

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torstensimon/Pixabay

―― あなた方が提唱している税制度が導入されると、失うものはありますか?

何ひとつありません。それどころか、幸福度が高まるでしょう。ここ最近、友人の多くは気が滅入っています。どこの街を歩いても路上生活者が増えていて、罪悪感のようなものを覚えているのです。

―― 富豪の仲間内から批判的な声はないのですか?

まあ、「全財産を手放す気か?」と皮肉っぽく言われたことはありますよ。でも多くの人は、税負担の仕組みに問題があることをよく分かっています。税金対策で国外移住している人たちですら、内心では私の考えに賛同すると言っています。

―― ドイツ自由民主党(FDP)ははなから富裕層への増税をきっぱり排除しています。直近の総選挙でも票を入れませんでしたよね? (FDPは連立政権の1つ)

はい。個人的には社会民主党(SPD)を支持しています。責任を負わずに自由ばかりを求め、特権階級の資産を守り抜くことにばかり関心を持っている党には賛成できません。

―― ここ、ハンブルク市でタックスミーナウの活動に参加している人はいますか?

まだいません。

―― それは意外です。統計によると、ハンブルクはドイツで最も富が集中している街で、カウントの方法にもよりますが、年収100万ユーロ(約1億3千万円)以上の人が900〜1200人いるとされています。

私の父はハンブルク出身なので、私は“ハーフ・ハンブルク人”です。この場を借りてお伝えしたいのは、「ハンブルク市民の皆さん、ハンザ同盟(中世、ヨーロッパ北部の商業圏を支配した北ドイツの都市同盟)の商人たちの精神はどうなったのですか? 富を抱え込めなど、聖書には出てきません!」


タックスミーナウの公式サイト (ドイツ語のみ)
https://www.taxmenow.eu

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By Jochen Harberg
Translated from German by Peter Bone

Courtesy of Hinz&Kunzt / International Network of Street Papers 


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