路上に座る女性の前で、2人の男が立ち止まった。「今夜どこで寝るの?」と尋ね、隣に座って何か耳打ちする。女性が動じることなく無視していると、捨てゼリフを吐いて去っていった。「ああいう輩は相手にしない方がいいんです」女性は言う。こんなちょっかいを出される場面は、路上ではめずらしくない。ストリートペーパー『トロット・ヴァー』(ドイツ・シュトゥットガルト)が、一向に減らない路上生活者への嫌がらせや襲撃について考察した。


「路上生活者への襲撃は、センセーショナルな事件が起きたときなどに話題になりますが、それで終わってはいけません」と語る犯罪学者ダニエラ・ポリッヒは、路上における構造的暴力や、通報されずに終わっている暴行沙汰の事情に詳しい。「路上で多少の嫌がらせを受けても、DV・性暴力の被害者と同じで、『これは警察に通報してよい問題か?』と躊躇しがちです」。とりわけ路上生活者たちは、自分なんかが助けてもらえるだろうかという不安が強い。「そのため、取り急ぎその場から離れて、さらなる被害を避けようとします」とポリッヒは言う。そうすると、加害者は“お咎めなし”となりがちだ。

路上生活者を襲う人たちとは

路上生活者たちは、所持品や寝床をめぐる争い、公共空間からの締め出し、周囲の店舗オーナーや警察官との軋轢など、常に気を張っていなければならない。安全を感じられないことは、誰の目にも明らかだ。しかし、そんな路上生活者たちを好ましく思わない偏見に満ちた人たちが加害者になりうる。不遇な状況にある人が加害者になるケースもある。自分より弱い人を叩いて強さを確認したい「安心感を得たいがための攻撃」だ。

路上生活者の寝袋に火をつけるような犯罪は、単なる好奇心から起きていることが多い。「加害者に犯行の理由を問うと、『ちょっとやってみたかった』といった答えが返ってきます。その背後にあるのは、非人間的な扱いです」と言うのは、このあたりの事情に詳しいアマデウ・アントニオ財団*1 の広報担当ロベルト・リューデッケだ。「路上生活者を人間ではなくモノとみなしている事例が増えています。抑えが利かず、実験の対象物のように見ているのでしょう」。こうした考え方が深く根付いていたのが、国家社会主義(ナチズム)の時代だ。

*1 右翼的な過激思想、人種差別、反ユダヤ主義に対抗し、「民主的な市民社会」を推進している団体。1998年設立。

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ここに隠れるように暮らしていた人がいたが、加害者からするとよい標的となりかねない
Credit: Bo Tackenberg


「路上生活者への差別は右翼思想と結びつきやすい」とリューデッケは言う。「右翼思想の支持者の中には厳しい状況にある人たちも多く、そんな自分も路上生活者よりはマシだと思いたい。そこで、自分とは違う存在だと線引きするかのように路上生活者に暴力を働く。集団ではなく、単独で犯行に及ぶことが多いです」

「小規模な右翼政党が、自分たちのプロパガンダとして路上生活者を利用しようとしています。例えば、冬になると寝袋を配布するのですが、対象はドイツ人の路上生活者だけ。そこには社会から疎外されたホームレスの人たちをも分断させようとする意図が見えます。彼らが意図する成果は挙がっていないようですが」

アマデウ・アントニオ財団の内部調査によると、右派による暴力の被害者でトップ3に入るのが路上生活者だという。ただし、路上生活者が命を奪われるようなことがあっても、死因を明らかにしようとする家族がいないケースも多いため 、実態はもっと多い可能性がある。

路上生活者への暴力行為に対してできること

対策として、ホームレス状態にある人たちの組織化や、ホームレスの人たちが安心して過ごせるエリアの確保なども考えられるが、それはそれで、そのエリア外の人たちとの摩擦を生みやすいという問題をはらむ。

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住まいのない者にとって、ペットは安心感を与えてくれるよき仲間。人と動物が一緒に暮らせる公共の場所を設けるべきだ
Credit: Bo Tackenberg


社会学者のティム・ルーカスは、警察当局と路上生活者の緊張関係を緩和する方法を提案する。「すべての人の安全を確保するには、中立かつ公平な治安維持を行う必要があります。警察とは別に、暴力を受けたときに報告しやすい窓口を教会などに設けるべきだと思います。治安にあたるべき警官から暴力を振るわれることもあるのですから」

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ヴッパータール大学の社会学者ティム・ルーカス Credit: Bo Tackenberg

人は自分だけのスペースを確保できて、はじめて安全を感じられるものだ。「家がない人たちは、路上であれシェルター内であれ、プライバシーがほぼありません。だからこそ、まずは安心できる住まいを提供する支援、ハウジングファーストの取り組みを推進していかなければならないのです」と犯罪学者のポリッヒは断言する。

By Anne Brockmann and Daniel Knaus
Translated from German by Lisa Luginbuhl
Courtesy of Trott-war / International Network of Street Papers

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