ウクライナ危機を受け、複数の自治体ではウクライナからの避難民を受け入れ、住居や就労のサポートをする体制があると発表しました。一方で、ウクライナ以外の国から日本へ逃れてきた外国人たちはこれまでずっと非常に厳しい状況に置かれています。
母国の情勢やさまざまな事情で帰国できず、日本での在留資格も得られない外国人は、自力で生きていきたいと願っても、就労が認められていません。また医療を受けるにも高額な費用がかかります。



2022年7月のBIG ISSUE LIVEでは、これまで外国人の困窮者への支援活動に携わり、学術分野では公的扶助や福祉政策について研究している「NPO法人 北関東医療相談会」スタッフ・理事の大澤優真さんにお話を伺いました。

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当日のライブ配信から

長引くコロナ禍で顕在化した、困窮する外国人たち

―― 日本で暮らす外国人が困窮している、というのはどういうことでしょうか?

大澤:外国人を取り巻く状況や、制度上の問題を取り上げる前に、どれくらい在留外国人がいるかについて説明をしたいと思います。外国人が日本で暮らすためには“在留資格”が必要です。例えば、永住者、留学生、専門的な職業に就いた方、技能実習生など28種類あります。

2021年時点で、このような在留資格を持つ外国人は約285万人ですが、そのほかに在留資格のない外国人も日本に滞在しています。ビザを更新していない、オーバーステイなどで滞在中の方が約6万人、入国管理局で収容中の方が134人、そして後ほど詳しく説明しますが、“仮放免者”が約5700人います。

これらを合わせると、290万を超える外国人が日本で生活しているのですが、長引くコロナ禍で給料が減った方・失職した技能実習生など、在留資格のあるなしに関わらず、困窮し続けている方が多くいるということです。

栃木県では、社会福祉協議会からの貸付金である“新型コロナウイルス感染症に伴う生活福祉資金”の利用申請をした外国人は、県内申請者の4割を占めたということです(県内の人口に占める外国人の割合は約2.2%)。

参考: コロナ緊急貸付金、申請4割が外国人 就労に制約、困窮顕在化 栃木県内|下野新聞 SOON(スーン) 

母国へ帰れない仮放免者たち

―― 5700人ほどいるとされる、“仮放免者”とは?

大澤:聞き慣れない言葉ですよね。外国人は、日本政府から日本での滞在許可が下りない場合、帰国するよう求められます。しかし何らかの事情で帰国できない場合、入国管理局(入管)に収容されます。このとき、病気などの理由により一時的に入管外で生活することを認められる場合があります。これを仮放免といいます。この措置を受けた人は仮放免者と呼ばれます。

仮放免者たちが抱えている問題として、母国の不安定な情勢などで帰国できないこと、日本での生活に困窮していることがあります。今、ウクライナは戦闘状態ですが、似た状況の国は他にいくつもあります。

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コンゴ民主共和国の内乱から日本へ逃げてきた男性、ミャンマーから逃れてきたロヒンギャの男性、マリ共和国のテロ組織から逃げてきた方などは、ウクライナからの避難民の方たちと違い、在留資格が認められていない。「帰れない仮放免者たち」の数は多いです。


参考:
WEB連載:日本に住んでる世界のひと 金井真紀 / 第10話 ポンゴ・ミンガシャンカ・ジャックさん~コンゴ民主共和国出身 
ミャンマーで拷問を受けて日本に逃げてきたロヒンギャ男性 帰る場所がないのに「難民」になれない苦悩 - AERA dot. (アエラドット) 


「生きていくすべがない」仮放免者の人権はどこに?

―― 仮放免者は、日本での生活でなぜ困窮しているのですか?

大澤:仮放免者は就労が認められていません。働いて賃金を得てはいけないのなら、何か手当や保障はあるのかというと、何もない。生活保護も受けられません。また、移動制限があり、居住地の都道府県外に許可なく行くことはできません。1ヶ月〜数ヶ月ごとに入管に出頭する必要があり、即時に再収容されるケースもあります。働くこともできず、食べていくこともできない、病院に行けない、家賃も払えない。この状態では生きていけないと思います。

―― ひと言でいうと、人権がない状態ですね。外国人と医療、また生活保護といった社会保障制度について教えてください。

大澤:さまざまな背景で困窮したとしても、そこから抜け出せないのはなぜかというと社会保障制度がないからです。制度上、国民健康保険に加入できない外国人は約10万3000人います。この方たちは、医療費や薬代は全額負担、またはそれ以上の自己負担となっています。国立系の病院では、外国人というだけで2倍、3倍の費用を請求しています。

高額な医療費の請求、生活保護も受けられない

―― 病院側が、全額負担のさらに2倍、3倍の額を設定しているわけですね?どうしてそうなっているんですか?

大澤:初めは、医療目的で日本に来る、お金持ちの訪日外国人のために、日本政府が診療価格を設定したマニュアルを作り、それを元に運用されていました(訪日外国人をターゲットにした「渡航受診者の受入支援(インバウンド)」という、政府の経済戦略として)。

やがて、医療機関は日本に在住している無保険の外国人にまで2倍、3倍の高額請求をするようになりました。その結果、困窮している外国人がさらに医療を受けにくくなってしまったんです。

生活保護については、日本国籍のある人には最後のセーフティーネットとして機能しています。外国人には生活保護法が適用されず、恩恵的な、準用措置として永住者や定住者などの外国人にだけ、生活保護の利用が認められています。

準用措置の生活保護が受けられない外国人の数は、全体の48%にあたる約135万人です。専門職で就労している外国人、留学生や技能実習生、在留資格のない仮放免者などに対しても準用措置を認めていません。もしこの方たちが困窮した場合、貧困状態から抜け出すことは難しいと思います。

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入管法により、活動に制限のある外国人は準用措置の対象とはならない。

出典:急増する困窮外国人のいのちを守れ!「本国が保護すべき」という論理を超えて(大澤優真) imidas https://imidas.jp/jijikaitai/f-40-223-21-08-g853

寄付金を軸にする支援の限界

―― 支援団体だけで、困窮する外国人の受け皿になることはできるのでしょうか?

大澤:すでに限界と言えます。「NPO法人 北関東医療相談会」では手術が必要な方や、糖尿病など継続的な治療が必要な方の相談をたくさん受けています。心臓病だと1回の手術で100~200万円が必要で、本当にお金がかかります。

―― もしホームレス状態の方が医療を受けたいとき、無料低額診療事業*を行っている病院で診療を受けますが、入院・手術が必要な場合は生活保護を受け、医療扶助から治療費を出してもらいます。生活保護が利用できない状況だと八方塞がりです。

*無料低額診療事業とは、生活に困窮している人が必要な医療を行ける機会が制限されないように、無料または低額な料金で診療を受けられる制度。社会福祉法に規定されている。

大澤:数百万円という治療費になると、支援団体だけでは無理で、寄付に頼らざるを得ません。寄付を必要としている仮放免者はたくさんいらっしゃいます。私たちの団体の活動の元手は助成金と寄付金ですが、寄付金は集めても集めても足りないという状況ですね。

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「人として認められていない」かに思える、仮放免者に対する現状


生活実態調査のデータから、仮放免者の貧困を可視化

―― 普段の生活の中で、なぜ外国人が困窮していることが見えにくいのでしょうか?

大澤:これまでご紹介してきた事例は、仮放免者の中のごく一部の人の話の話なのではないかというご指摘がありますが、支援現場の感覚としては、そうではないと感じます。今年、「仮放免者生活実態調査」報告を行い、仮放免者の困窮の状況を数値として示すことができました。2022年3月の記者会見を大手メディアに報じていただき、その後、国会でも取り上げていただきました。

参考: 入管収容から仮放免の外国人、7割が収入ゼロ 困窮で医療機関も受診できず NPOが生活実態調査【動画あり】:東京新聞 TOKYO Web


「仮放免者生活実態調査」報告
出典:https://npo-amigos.org/post-1399/


大澤:「仮放免者生活実態調査」報告で明らかになったことは、87%が20代~50代の働き盛りの年齢層の方だったということです。また、永住許可要件を満たす10年以上の滞在者は66%います。働けるし、定住傾向のある方が多いことがわかったわけです。

しかし現状、仮放免者で食料の確保すら厳しい方は65%もいます。6人に1人は、1日1食です。40%の方が家賃を滞納しており、いつ追い出されてもおかしくない状況。ガス水道光熱費の滞納をしている方は35%、ライフラインが止まり、命の危険があるということです。

また、医療費の負担が苦しいと答えた方は87%いますが、やっぱりという私の実感に近いです。数字上でも、仮放免者は生きていけない状況であるということがわかると思います。

日本で暮らす外国人の命と生活も侵害されてはいけない

―― 最後に、困窮する外国人の命を存続させるために考えるべき課題を教えてください。

大澤:まずは、データを整備することが重要だと思います。日本人の貧困率と子どもの貧困率が発表され始めたとき、多くの人が思っていたよりも高い貧困率に驚き、改善しなければと、社会課題化していった経緯があります。外国人の貧困率も、国籍によっては高い傾向にあるとされてきました。今回の仮放免者生活実態調査を行ったのも、データで可視化したいという思いからでした。

次に、仮放免者には今すぐ就労可能な在留資格を出すべきだと考えています。働いて、生活費を稼げるなら、困窮から抜け出しやすくなります。2021年から、ミャンマー人の仮放免者には特例措置で就労可能なビザが出ています。同じことを仮放免者全員に対して許可するべきだと思います。

また、生活保護の利用や、医療保険への加入を認めて、普通に医療を受けられるようにすることも重要です。

最後に、入管体制の改善です。地域によっては、ウクライナからの「避難民」をサポートしているところもあります。同じような境遇にある、他国の仮放免者にも平等にサポートがあってほしいですし、地方自治体で取り組みが必要だと思います。

―― 法改正が必要な課題もありますが、特例として行政が素早く対応することができるのなら、もっと救える命があると思います。

大澤:今年、京都弁護士会が政府に出した意見書で、仮放免者に対して医療・生活保障を行うべき法的な根拠が示されました。これまでなかったような意見書だと思います。自治体の議会でも、これを根拠に質問などが可能になるはずです。

出典:意見書|京都弁護士会
https://www.kyotoben.or.jp/pages_kobetu.cfm?id=10000225&s=ikensyo

人権・移民・共生社会への転換

―― 日本人が外国人とともに生き、働き、暮らしていく社会には、尊重される人権や生存権を基盤にした保障が必要だと思います。

大澤:人口が減り、働ける人たちが減っていく中で、日本人と外国人が社会を一緒に作り上げていけるような土台ができてほしいと思っています。仮放免者の問題はなかなか理解されにくいです。今は、目の前で命と健康が損なわれていく状況が続いていますが、今後良い方向へ変わっていくことを願って活動していきたいと思います。

技能実習生が作った農作物、コンビニの店員さんなど、すでに日本で生活をしている多くの外国人と関わって、私たちは暮らしているわけです。「日本は移民国家ではない」というのは建前であって、これから必要なのは、人権を重視した共生社会のための移民政策だと思っています。



この記事は2022年7月16日(土)にYouTubeでライブ放送されたBIG ISSUE LIVE #15「コロナ禍と貧困 困窮する外国人の支援現場から」を再構成したものです。

記事作成協力:都築義明

ライブ配信アーカイブ




【ゲスト】大澤優真
NPO法人 北関東医療相談会事務局スタッフ・理事、一般社団法人つくろい東京ファンド生活支援スタッフ 。ソーシャルワーカーとして、困窮する外国人と日本人の支援を行う。 ホームページ:https://npo-amigos.org/
【司会・進行】川上翔(NPO法人ビッグイシュー基金 職員)

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上記ドキュメンタリー映画『牛久』のトーマス・アッシュ監督インタビュー記事が掲載されています。
https://www.bigissue.jp/backnumber/427/


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