社会経済を脱炭素や環境の持続可能性へと変革するグリーントランスフォーメーション(GX)が注目されている。7月27日に岸田首相を長とするGX実行会議(※1)が設置された。資料によれば、「エネルギー安定供給の再構築への方策、脱炭素に向けた経済・社会、産業構造変革への今後10年のロードマップを取りまとめる」という。この中には省エネのいっそうの推進や再エネの最大限の導入などの方策もあるが、ここでは原子力政策に焦点を当てる。


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GX会議、原子力推進に勇み足
高速・高温ガス炉も研究段階

 政府は温暖化対策を取り決めたパリ協定を受けて、2021年6月にグリーン成長戦略を閣議決定した。そこでは原子力について・高速炉の開発、・小型モジュール炉(SMR)の開発、・高温ガス炉の開発、・核融合炉の開発の4つを目標として掲げた。

 高速炉や核融合は70年も前からアイディアが出され、研究開発もそれなりに進められてきたが、実用化にはほど遠い状況だ。核融合では実験炉ITERがフランスで建設されていることから、開発が進んでいるような印象を与えるが、実際のところ、発生するプラズマを維持することができない。原発でいえば核分裂の連鎖反応に持っていけないでいる状態だ。

 高速炉は、フランスではスーパーフェニックス(実証炉)、日本では「もんじゅ」(原型炉)が廃止となった。高速炉が実用炉として導入される見通しはまったくない。高温ガス炉は試験研究炉の段階だし、SMRはどこにも建設されていない。掛け声だけの閣議決定だ。

運転期間と定期点検期間の延長
安全性を高めた基本設計は無理

 GX実行会議では「革新軽水炉」という名称で大型軽水炉の新設を目指すという。そのための支援の方向が示されている。経産省の原子力小委員会に設置された革新炉ワーキンググループ(※2)の議論では、2030年代の早い時期に建設に入るという図を描いている。本命は大型軽水炉の新設・リプレース(建て替え)のようだ。第6次エネルギー基本計画では言及できなかった新増設・リプレースをこっそり入れ込んでいるのである。日本では革新軽水炉のイメージが明らかではないが、現在の規制基準をすべてクリアした大型軽水炉なのだろう。しかし、実際には建設を受け入れる自治体は出てこないだろう。そもそも福島原発事故の原因や経過などの究明はなお途上にあり、安全性を高めた詳細設計などできようもない。

※2 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉WG


 加えて、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した燃料価格の高騰を口実として、来夏以降に許可済みの17基の再稼働を政府が前面に立って進めるというのだ。運転期間の延長も目指す。60年を超える運転を意味しているとも取れるが、止めていても老朽化は進むのに、原子力事業者は福島事故で停止している期間をカウントしないことを求めているようだ。

 さらには、定期検査の間隔を延長するよう原子力事業者に働きかけようとしている(制度上は可能)。

 運転期間延長などはごり押しできても、政府が求めるほど原子力利用が進むかは疑問だ。仮に原子力利用が増えれば、事故の危険性が増え、放射性廃棄物が増加する(核融合ではトリチウムの発生が非常に多い)。これでは第二の福島原発事故を準備しているようなものだ。福島の教訓を忘れず、原発回帰を許さない取り組みを進めたい。

(伴 英幸)


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(2022年10月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 440号より)


伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
http://cnic.jp/ (web講座を動画で公開中)





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