ホームレス問題や活動の理解を深めるため、ビッグイシューでは路上で雑誌を販売する体験と販売者の講義がセットになった研修プログラム「道端留学」を、学生や社会人向けに提供しています。
今回「道端留学」を体験したのは、ある一部上場企業でサステナビリティ戦略を担当する6名の社員の皆さん。



この部署は2020年に設置され、自社製品を製造する際のCO2削減やプラ削減に向けた活動推進や、CSV活動の企画・運営、SDGsの考え方を社内に浸透させるための研修会の実施などを行っています。

「ビッグイシューの活動を知り、販売体験を通じて、社内にも多様な価値観を広げたい」と、道端留学への参加を希望してくださいました。

「ホームレスになっても、また就職すればいいのでは?」の誤解

はじめに、ビッグイシュー日本のスタッフ・吉田より、ホームレス問題の現状や、ビッグイシュー日本設立の背景、販売の仕組みについて説明していきました。

その中で吉田は「ホームレスになっても、また就職すればいいのでは?と思われがちなんですが、それは簡単ではないんです。」と誤解されがちなポイントを力説。

ホームレス状態になり、住所がなくなると、アルバイトの面接にも受かりにくくなってしまう現状があります。保証人が立てられない事情があると会社側も不採用にせざるを得なかったり、年齢制限のある仕事が多かったりと、社会構造的な問題が背景にあります。こうして社会とのつながりが得られないままホームレス状態が続くと、自己肯定感の低下を招くことも。一度ホームレス状態になると、1人では立ち上がりにくい現状があるのです。

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自己肯定感の低下については、ホームレスに限らず日本の若者にもあてはまる問題。ビッグイシューでは、一人一人の自己肯定感の回復のため「セルフヘルプ」の考え方を大事にしていることを伝えていきました。

吉田は「『自分で決めると、力が湧く』この考えが大切だと思っています。販売者のみなさんは、販売場所や販売の頻度をご自身で決めているんです。自分で販売して、売れたら嬉しいし、売れなかったら悔しい。そういう体験を『自分ごと』としてできるのが大事だと思います。」 販売者のTさんの「自分で決めることで『売りたい』という意欲も湧いてきます」とのコメントに対し、会場からは感嘆の声がもれました。

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最後に吉田からは「ホームレスの数が減ってきていると言われていますが、ホームレスになるリスクを抱えた人や、ネットカフェなど不安定な居住環境で生活している人は増えています。こうした貧困問題や格差社会の広がりについて発信し、多くの人に知ってもらうことが大事だと思います。」とお伝えしていきました。

1時間の販売体験、試行錯誤で売り方を考える

その後、販売者Tさんの「ホームレスに至るまでの体験談」を経て販売体験。 販売者のTさん・松井さんから販売レクチャーを受けたら、3名ずつに分かれて移動開始です。

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SNさん、SKさん、MTさんの3人が向かったのは、渡辺橋駅周辺の販売場所。みなさんからは、「いや〜、売れるかな〜」と心配そうな声も。販売場所に到着すると、赤いキャップを被り、ネックホルダーをかけて、準備万端。交差点の角に1人ずつ分かれて立ちます。

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ここから、約1時間の販売体験がスタート。

「こっちの方が売れるかな?美術館が近いから人が通るかも」と、人の流れを見て立ち位置を変えたり、会釈をしてみるなど、販売の仕方を試行錯誤する参加者のSNさん。

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開始2分で2冊販売したのは、MTさんです。MTさんはこの日、合計7冊もの売り上げ。これには販売の先輩・Tさんも、「いや、これはすごい。」と驚きます。

同行した吉田と、「企業がSDGsに取り組む意義」について語ってくださったSKさん。「お客様のニーズに合ったものをつくり販売すること以上に、これからは企業が社会課題を知り、そこに自社の力をどのように活かせるかを考えることが必要だと思うんです。」と、力説する場面もありました。

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「購入までの、”もう一歩“が踏み出せない。自分もそうだと思った。」

約1時間の路上販売体験を終えたみなさん、最後は、販売者のTさん、松井さん、ビッグイシュースタッフを交えて、振り返りの時間です。

参加者からは、「もっと売れると思ってたけど、そう甘いものではないと思った。」 「雑誌を掲げて販売しようと思っていたけど、それが大変。お辞儀するような感じで売っていた。」 「自転車が通ることもあって、売りにくいと思った。」といった、”路上“でものを販売する大変さを感じたという感想が上がりました。

また、「人と目が合わないことも多く、近くの施設の警備員さんが近づいてきたりして、周りの厳しい目も感じた。『もし、今日の売り上げがなかったらどうしよう』という気持ちも感じられた。」という周りからの目や、売り上げが生活に直結していることを実感したよう。

「路上に立ってみて、いろんな人がいると感じた。『無関心なんだな』と思ったり、気にかけてくれてるのはわかるのに、一歩踏み出せないんだなと感じる人もいた。自分も、実は販売者の松井さんを見かけていたのに、購入できなかった。 関心があるはずなのに、一歩踏み出せないのは、自分も同じだなと振り返りました。今後は購入したいと思います。」と、ビッグイシューの販売が「自分ごと」に近づき、行動を変えていきたいといった声も聞かれました。

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ほかにも、「街ゆく人や、SDGsを掲げて取り組んでる人にも、『社会課題を扱っている雑誌だ』ということを、もっともっと知ってほしいと思った。」と、社会へ発信することの大事さを実感したという感想もありました。

記事作成協力:屋富祖ひかる

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ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 



参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」



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