山口県上関町で柏原重海町長の病気辞任を受けて11年ぶりに町長選挙が行われた。柏原町長はもともとは上関原発計画を推進する姿勢だったが、2011年の福島原発事故以降、原発に依存しない町づくりを進めてきた。このため、原発計画に反対する人たちもある程度評価して、対立候補の擁立を見送ってきた。
埋め立て、住民が13年間阻止
「原発は起爆剤」と新町長
だが、今回は町議会議長だった西哲夫氏が「原発は起爆剤」だと立候補した。これに、「上関原発を建てさせない祝島島民の会」（以下、祝島島民の会）から木村力氏が対抗した。背景には岸田政権の原発回帰政策がある。選挙の結果、西氏に軍配が上がるや、中国電力（以下、中電）が建設続行へと加速しだした。
上関原発計画が浮上したのは1982年、実に40年前のことである。以来、祝島島民の会を中心とした反対運動が建設を止めてきた。計画は改良型沸騰水型炉（ABWR、電気出力約130万kw）2基を建てるというもので、敷地が狭いので海を埋め立てて建設するという。2008年に中電は海の埋め立て（公有水面埋立）申請を行い、山口県から許可を得て、09年11月に着手した。しかし、反対運動による激しい阻止行動によって工事に入れない状態のまま、福島原発事故が起きた。以降、工事は中断したままである。
工事の進捗がないなか、中電はこの間、埋め立て完了時期の延長を2回も申請し、そのたびに山口県知事は許可を与えてきた。今回は27年6月6日までに工事を終える延長申請である。08年から19年が経過することになる。
中電、新型原発の開発未着手
新設しても市場活用の見通しなし
一方、上関原発の建設許可申請を中電は09年に行った。ところが、原子力安全・保安院（当時）による審査が5回ほど行われた段階で福島原発事故が起きて、事態が一変した。当時の民主党政権下で「上関原発は新規計画であり、建設を認めない」との判断が出された。新設された原子力規制庁は、19年に筆者らとの意見交換で、「中電が審査を望むのであれば、申請書の出し直しか、補正書を提出する必要がある」と述べている。だが、中電は埋め立ての延長申請は継続するものの、建設時期については白紙状態である。福島原発事故以降、従来の上関原発の建設時期などを白紙にし、2022年の「経営計画の概要」でも白紙のままである。
岸田政権は、脱炭素社会に向けた戦略を協議するGX実行会議で、次世代型原発の新設を打ち出した。その中で一押しなのが、革新軽水炉で三菱重工がアイディアを提出している電気出力120万kwの加圧水型原発だ（SRZ-1200）。溶融燃料を受け止めるコアキャッチャーを備え、また、炉心損傷時に放射能を環境に出さないように貯留タンクを備えるといった対策が施されているのが「革新」の主な中身だ。上関で計画されていた従来のABWRは相手にされていない。さらに、三菱は関西電力など４社と共同開発する計画で、中電は蚊帳の外だ。
中電の島根原発は沸騰水型炉だ。仮に上関計画を続行するなら、開発を待って、経験のない加圧水型炉に転換するか、ABWRを「革新」するかの選択肢しかない。しかし、そのような動きはまったくみられない。
そもそも再生可能エネルギーが主力電源になっていく中で、新規原発が市場で活用される見通しはほとんどない。中電が工事に向けた調査などの動きをするたびに、漁業を主な生業とする祝島島民の人たちは苦しめられ続けてきた。中電は申請を取り下げて上関原発計画から撤退するべきだ。
（伴 英幸）
（2022年12月１日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 444号より）
伴 英幸（ばん・ひでゆき）
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』（七つ森書館、2006年）
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