有限会社ビッグイシュー日本では、ビッグイシューの活動やホームレス問題への理解を深めるため、高校や大学へ出張講義をさせていただくことがあります。
今回ビッグイシュー日本スタッフ・吉田と、販売者の吉富さんが向かったのは、大阪府立藤井寺工科高等学校。定時制課程1年生の「人権学習会」の授業でお話させていただきました。


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定時制ということで、出張講義の開始は20:15から。

「みんな違って、それぞれ幸せになっていい」という権利

はじめに吉田より、雑誌『ビッグイシュー日本版』の仕組みを説明していきました。雑誌『ビッグイシュー日本版』のバックナンバーと、認定NPO法人ビッグイシュー基金が作成している『路上脱出・生活SOSガイド』を配布すると、生徒の皆さんは興味深そうにページをめくっていました。

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吉田はスライドで解説を進めます。「ホームレスってなに?と思う人もいるかもしれません。数百人のホームレス状態の人たちとお会いしてきましたが、皆さんそれぞれの理由で、色々な背景があってホームレス状態になっています。ホームレスという言葉は、家がないという状態を表す言葉で、その人の人格を表す言葉ではないんです。」

「みんな違って、それぞれで幸せになっていい権利があると思います。それが『人権』です」 こういった言葉に、うなずいて聴いてくれる生徒さんもいました。

頼れる人や健康を失い、仕事を失い、住まいを失う。こうしてホームレス状態が続くと、自己肯定感の低下を招くこともあります。ホームレス問題に限らず、若者の自己肯定感の低下は、日本にある課題の一つ。吉田は、ビッグイシュー日本が大事にしている「セルフヘルプ」の考え方にも触れていきます。

「ビッグイシューの販売者は、雑誌を売るペースや売り方を自分で決めています。『自分で決めると、力が湧く』この考え方を大事にしています。」

販売者への質問「ホームレスに、なんでなったん?」

続いて、販売者の吉富さん半生を語るコーナー。

吉富さんは長崎県出身。高校を卒業後、自衛隊での勤務を経て、建設業やスーパーなど様々な職業を経験しました。建設業の派遣社員として働いていたあるとき、幼い頃から付き合ってきたチック症状について職場の理解を得られず退職となったことを機に、ホームレス状態へ至った経験を語りました。

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参考:吉富さんの体験談 

ホームレス経験を当事者から聞く機会はまずないため、みなさん興味津々。会場からは、「今は幸せ?帰る家、あるん?」「ホームレスになっても生きたいのはなぜ?」などの率直な質問がいくつもあがりました。吉富さんと吉田は、生徒のみなさんからの質問に一つひとつ答えていきました。

Q.どうしてお金がなくなったのですか?

吉富さん「お金が一気になくなったというより、収入を得る手立てがなくなったという感じでした。」

吉田「やむを得ない理由で仕事をクビになってしまって、それから働き口が見つからなかったんですね。でも食事はしなくちゃいけないし、生活のためにお金を使っていくとだんだん減っていったという背景があります。」

Q.今、帰る家はありますか?

吉富さん「あるある。雑誌販売を頑張ったので、今は家に入れています。」

吉田「雑誌を売って、お金を貯めて、今は家に入れているので、ホームレス状態ではないですね。」

Q.野宿状態だったとき、食べものがない場合はどうやって生活していましたか?

吉富さん「無料でお菓子やお弁当を配っているところがあって、そういうところを見つけてもらっていましたね。」

※東京や大阪などの都市では、ボランティアが食事を無償提供する「炊き出し」が行われています。『路上脱出・生活SOSガイド』をWebサイトでも案内しています。
https://bigissue.or.jp/action/guide/



Q.チック症状はどんな症状でしたか?症状の前触れや治る方法はありますか?


吉富さん「体がひきつったり、意識がなくなることもありました。前触れは基本的にはないけど、頭が重くなったりすることはあったかな。(ストレスや疲労などをためないよう)症状が出ないように自分で意識していたら徐々に少なくなりました。今は、昼間は少なくなったけど、夜に症状が出ることがあるんだよね。」

Q.ホームレスという立場になって、生きていきたいと思う理由はなんですか?

吉富さん「死にたくなかったから。死ぬ勇気がなかったんだよね。生きていたいというのが強かった。(ホームレス生活は)過酷だったよね、でもなんとか生きることしかできなかったんです。」

Q.家族には頼れなかったのですか?

吉富さん「地元は長崎県で、僕は当時東京の方いて、距離がありすぎてなかなか頼れなかったですね。お金がなくて、テレホンカードも買えなかったので電話もしようがなかった。そうするとだんだん、疎遠になっていくんだよね。今は、従兄弟とは繋がっています。」

Q.生活保護を受けないのは、なぜですか?

吉富さん「ホームレス状態になったときは40代だったので、窓口で『まだ仕事あるでしょ』って言われたら利用できないと思ってました。今は、生活保護に限らずですが、一定のルールのなかで、人に頼って生きられることが自立だと思っています。」

吉田「扶養照会といって、生活保護を申請すると『この人を養えませんか?』と家族や親類に行政から連絡する制度があります。それがあるために、生活保護を申請しないという方も多いですね。」

「自分なりのスピードで進んでいければいいと思う。」

吉田「販売を始めてよかったことはどんなことですか?」

吉富さん「やっぱり、自分で工夫して売り方などを決められることですね。売り場に立てなくて雑誌が売れなくても、自分の納得のいく理由でそうなっているので責任を持てる。自主的にやっているってことが大事だと思います。販売以外にも、今はいろんな場所でインターネット環境が整っているので、YouTubeなどの動画制作にもチャレンジしてみたいんです。」

最後に吉富さんからみなさんへ、温かなメッセージを送りました。

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「ゆっくりでいいので自分なりに頑張っていると、誰かが助けてくれることもあります。周りの人と助け合うきっかけになるように、あいさつをするとか、目を合わせるとか、小さなコミュニケーションを大事にしてほしいですね。無理に頑張らなくても、自分なりのスピードで歩いていけばいいと思います。」

ホームレス経験者の言葉だから、関心を持って聴けたと思う。

今回、講演を企画してくださったのは、前田先生。ビッグイシュー出張講義を依頼したきっかけについて伺いました。

「生活保護について授業をする機会があったのですが、その時に生徒から『ホームレスの人って、なんで生活保護受けないの?』という疑問が上がって。人によって様々な事情があることを説明したのですが、実感が湧きにくかったようでした。授業に際して、ホームレス支援団体を調べていた時に、ホームレス経験のあるビッグイシューの販売者の方が体験談を語ってくださることを知り、この企画に至りました。」

「講演中の生徒たちを見ていて、普段の授業よりも積極的に反応していましたし、やはり当事者の方からの言葉を聴くほうが、よりこのテーマに関心を持てたのではないかと思います。」

あわせて読みたい ・小学生からビッグイシュー販売者へ鋭い質問!/大阪市立八幡屋小学校6年生の”キャリア教育”の出張講義 https://bigissue-online.jp/archives/1070068342.html ・体が勝手に動く/言葉が出てしまう-「トゥレット症」を知っていますか?出会ったときは“温かい無視”を https://bigissue-online.jp/archives/1078182574.html


格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 



参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」



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https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/



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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。