小規模漁業に従事する女性は 世界的に約450万人、全漁業労働者の4割を占めるとされる。しかし、女性たちは、漁場や沿岸資源へのアクセスにまつわる意思決定プロセスからは外されがちだ。漁業に関する政策、法律、プログラムは歴史的に、漁業コミュニティにおける女性の存在や貢献を軽視し、女性たちを軽視する環境をつくりあげてきた。それらは男女不平等を拡大させ、女性たちの生計にマイナスの影響を与えてきた。カナダのウォータールー大学ソーシャル・エコロジカルサステナビリティの博士候補生マディ・ギャラパシらが『The Conversation』に寄稿した、「小規模漁業のガバナンスにおける女性の影響力」についての調査結果*1を紹介する。
 
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小規模漁業の公平性かつ持続可能性への取り組み*2には、変革の取っ掛かりが必要とされている。世界中の漁業コミュニティを記録した研究は54件しかないが、それらを紐解くと、女性が意思決定に参加できているコミュニティでは、より公平で持続可能な漁業マネジメントが実現していることが明らかとなった。女性が意思決定に参画できている漁業コミュニティでは、エリア毎の漁場権がしっかり守られ、経済的利益を向上させ、女性のエンパワーメントが高まっている。女性参画をすすめる漁業コミュニティの事例を知ることは、漁場管理にかかわる女性を増やし、関係者すべてにメリットがあるだろう。

*2国連食糧農業機関(FAO)による「小規模漁業の持続可能性のためのボランタリーガイドライン」制定など。
https://www.fao.org/voluntary-guidelines-small-scale-fisheries/en/


小規模漁業を悩ませるジェンダー平等格差

漁業における役割と責任は、男性と女性で異なるケースが多い。例えば、女性は浅瀬で、はだし、または簡単な道具を使って魚介類や海藻を獲り、販売する。魚の取引や加工に従事する者も大勢いる。こうした活動が、本人とその家族、地域コミュニティの存続や安泰を支えている。これに対し、男性は沿岸から遠く離れた場所で、船や精巧な漁具を使った漁獲にかかわる。

女性が果たしている役割や貢献は漁業の統計に含まれず、その労働は“家事の一部”とみなされがちだ。漁場管理者や政策立案者たちも、漁業関係者は男性のみと思いこむ傾向にある。社会的・文化的規範によって、漁場内で女性ができること・できないことを定めている地域もある。女性は魚のせりや市場へのアクセスが制限されるなどだ。また女性は、配偶者、母親、介護人としての務めがあるとされ、漁場での労働に参加できる時間も限られがちだ。

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世界的には、女性が意思決定に影響力を持ち、漁業権、経済的利益、女性のエンパワメントを実現させている漁業コミュニティもある。(Shutterstock)

女性の積極参加が違いを生む

私たちの研究では、意思決定において女性が果たすさまざまな役割(リーダーシップ的立場、ネットワーキング、リソース監視、ローカル行動主義など)を確認した。

正式な法律や規制に関する意思決定において影響力をふるった女性たちの事例がある。例えば、カナダ・ブリティッシュコロンビア州のセントラル・コースト地域にある「Indigenous Heiltsuk women(先住民ヘイルツーク族の女性たち)」は、団体で行動することによって、太平洋近海でニシン漁ができるようになった。

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 (Shutterstock)

自治体や非営利団体などと資源管理の取り決めをおこなう場に女性が積極参加している事例もある。スペイン・ガリシア地方の甲殻類漁業「ガリシアン・シェルフィッシュ漁業」では、女性たちが連盟を組織し、甲殻類の乱獲を防ぐ決然たる行動を取るよう行政当局に働きかけていた。

非公式の場での人脈やネットワークがきっかけとなって、女性たちが決定力をふるった事例もある。カナダ・ニューファンドランド半島ラブラドル地方では、1990年代のタラ漁の一時禁止の影響を受けた女性たちの声を届けたのはボランティア団体だった。 一方、フィリピンのダナジョン・バンクの漁場調査では、女性はコミュニティメンバーとしての義務感から会議に参加するものの、その結果に影響力を持つことはほぼないことが明らかとなっている。

慣例化されたジェンダー障壁の存在

漁場管理に積極参加する機会を与えられた女性たちは、自分自身、家族、そしてコミュニティに数多くの良い成果をもたらしてきた。ブラジルのアマゾンでは、ピラルク漁の共同管理に女性の積極参加を認める取り決めを行ったところ、漁業に従事している女性が所得を得られる確率が8%から77%に上昇し、さらに“実質上ゼロ”だった平均所得が215米ドルになるなど、大きな変化が起きていた*3。

*3 Resource co-management as a step towards gender equity in fisheries

漁場での自分たちの活動を制約する社会規範や慣例に挑んでいる女性たちもいる。漁を行う場所、漁のやり方、漁をするには男性の許可を得る必要がある、といった決まりごとがあるのだが、チリの女性漁師たちのように、沿岸資源に自由にアクセスできる権利を勝ち取った女性たちの事例がある*4。

*4 “Before we asked for permission, now we only give notice”: Women’s entrance into artisanal fisheries in Chile

こうした成功事例もある一方で、世界的には、漁業コミュニティ内の男女間の勢力関係という大きな壁に直面している女性たちはまだ大勢いる。英国の小規模漁業でもよく見られるように、男性が大きな権力を持ち、女性はその下っ端扱いされているのだ*5。

*5 Women, capitals and fishing lives: exploring gendered dynamics in the Llŷn Peninsula small-scale fishery (Wales, UK)

漁業法の多くは、女性の活動を支援するものとなっていないうえ、女性漁師の活動を制約するマダガスカルのタコ漁の規定など、女性への差別的扱いが規定されているものもある。ジェンダー問題への取り組みを約束しているメキシコやガーナなどの漁業ポリシーもあるが、まだ具体策には欠けている印象だ。

女性にも主導権を

漁業の計画・管理プロセスにジェンダーや包摂性に重要性が置かれれば、女性の積極参加が実現し、女性が主体性と権限を持つ環境が促される。そして、意思決定への貢献を続けることで女性たちが一目置かれるようになれば、「女性の代表性」への認知が広がっていくだろう。

毎年6月8日は世界海洋デー、2022年は「零細漁業・養殖業の国際年」とすることが国連総会で定められた。小規模漁業にたずさわる約450万の女性たちの声をもっと届けやすくする道を見出していかなければならない。

非公式の場ではすでに輪を広げ、ネットワーク化している女性たちがいることを認識すべきだ。そうすれば、女性たちの作業量を増やすことなく意思決定に加わってもらうことができるだろう。そして、漁業における女性の働きを認め、支えていく男性側の役割にも、もっと意識を向けていくべきだ。それが、公平かつ持続可能な漁業のあり方を実現するための唯一の方法である。

著者
Madu Galappaththi
PhD Candidate in Social and Ecological Sustainability, University of Waterloo

Andrea M. Collins
Associate Professor, School of Environment, Resources and Sustainability, University of Waterloo

Derek Armitage
Professor, School of Environment, Resources and Sustainability, University of Waterloo

サムネイル:ペコちゃんポコチャン/photo-AC

The Conversation ※本記事は『The Conversation』掲載記事(2022年6月7日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。




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