進む原子力回帰、原子力基本法改悪ー事故の教訓を顧みない愚策、60年超の運転可能に

政府は原発回帰を進めるための法案類を、束ねて(※)今国会に上程する。束ねられるのは以下の5つの改正法案だ。このうち、「電気事業法」と「原子炉等規制法」については第190回(448号)の原発ウォッチで言及した。


※複数の法律を改正しようとする際に、まとめて1本の法律案として国会に提出すること。

5つの法案まとめて国会へ。またも説明ないまま閣議決定

その後の経過を追っておきたい。2月に行われた原子力規制委員会では地質学者でもある石渡明委員が60年を超える運転について反対した。その理由は「より安全性を高める知見が出たわけではないので、運転延長は原発のリスクを高める。また、規制委員会の審査が厳しくされた結果、(運転停止していた期間が60年にプラスされ)運転期間の延長が認められるのは納得できない」というものだった。他の委員からも「せかされて議論をしてきました」(杉山智之委員)、「(60年超えの規制議論が後回しになったことに)違和感を覚えています」(伴信彦委員)といった意見が出ていた。

結局、規制委員会は石渡委員の反対を押し切って多数決で運転延長を認めることになった。法案提出の締め切りが迫っていたためだ。委員の意見やパブリックコメントを通した批判を受けて、岸田首相は「説明できる準備を進めた上で法案の閣議決定を行うべきだ」と述べたが、その準備を整えることなく、2月28日に束ね法案の閣議決定を行った。

図1

原子力基本法の改悪はより根本的な問題をはらんでいる。この法は最初1955年12月19日に成立した。第2条の基本方針には、平和の目的に限る、民主的な運営、自主的に行い、成果の積極的公表を謳っている。福島原発事故を受けて、さらに、国際的な基準を踏まえた安全の確保、日本の安全保障に資することが追加された。安全保障は当時野党だった自民党の主張を入れたものだった。

再処理・最終処分進める記載、脱原発、国民6割の意志無視

これらに加え、今回の改悪では、「目的」に「地球温暖化の防止を図る」が加えられた。温暖化対策に原子力を活用することには反対意見も多い中、あえて書き加えたといえる。また基本方針の中に新たに「国の責務」と「原子力事業者の責務」が加えられている。

「国の責務」では、「原発の活用ができるよう必要な措置を講じる責務がある」「住民の理解を得るために必要な取り組み、ならびに立地地域の課題解決に向けた取り組みを進める」。さらに、「国の基本的施策として技術開発促進、人材確保、原子力事業者が安定して事業を行えるように事業環境を整備する」、果ては「再処理や最終処分を進める」等々が記載されている。

「事業者の責務」では、「原子力防災態勢の充実強化、立地地域の信頼確保やそれに向けた国の取り組みに協力する」「運転期間はエネルギーとしての原子力の安定的な利用を図る観点から措置する」などと書かれている。

基本法にこのような具体策が国の責務とされることで、有無を言わさず原発を推進し、原子力産業を維持しなければならなくなる。

世論調査によれば国民の約6割は将来的な脱原発を支持している。未曾有の福島原発事故から12年。未だなお未解明の課題が多々あり、被曝など事故の影響が続いている。にもかかわらず事故はなかったかのように法律を改悪することは、事故の教訓を顧みない愚策にほかならない。改悪理由の記載もなく、原子力委員会での議論もなく、いきなり閣議で決めたのは委員会無視・国民無視だった。別の見方をすれば、斜陽の原子力産業界の焦りがにじみ出ていると捉えることができるが、そうであるなら、なおさら改悪を認めるわけにはいかない。(伴 英幸)

(2023年4月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 452号より)

伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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