3月20日に2年ぶりに福島第一原発の施設内を見学した。筆者含め9人が参加した。集合場所は東京電力廃炉資料館で、そこから東電のバスに乗って、第一原発へ行き、所定の手続きを経て、構内バスで見回った。



決められた見学コース
事故原因に触れない謝罪ビデオ


東京電力廃炉資料館は、元は原発のPR館だったところを福島原発事故後に改装したものだ。事故を起こして大変な迷惑をかけたことへの謝罪ビデオを見た。とはいえ、津波対策を先送りしたために事故に至ったことは触れていなかった。このことについては、事故当時、政府地震調査委員会の長期評価部会長だった島崎邦彦氏の近著『3.11大津波の対策を邪魔した男たち』(青志社)に、東電の隠蔽工作が生々しく暴露されている。館内には時系列に沿った事故の経過や東電職員の体験証言や、廃炉作業の装備や炉内調査のロボットなどが展示されていた。しかし、じっくり見聞きする時間がないまま、専用バスで第一原発へ向かった。
到着すると、入構カードをもらい、現場で働く作業員とは別の流れで、一人ずつ両扉のゲートを通って中へ。そこで個人線量計を貸与され、男性は胸のポケットに、女性は腹部のポケットに入れて、構内専用バスに乗り込んだ。見学コースは決まっており、車内からALPS(多核種除去設備)、壊れた原子炉建屋、固体廃棄物焼却建屋、免震重要棟(事故時に現地司令所が置かれた)などの外観を見た。一度だけ下車したが、それは1号機~4号機が見渡せる「30m盤」と言われる高台だった。高台と言っても地形的にはもともとの高さの場所であり、福島原発ではこれを掘り下げて原子炉建屋などを建設したのだった。

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高台の正面に見える1号機 写真提供:東京電力

1号機、2号機の原子炉
支える土台の一部は鉄筋だけ

間近で見る大きく破壊された原子炉建屋は圧巻だった。2年前より建屋周りの瓦礫撤去が進んで、整理されたように見えるが、3号機の壊れた壁から見える中の様子は爆発の凄さを物語っていた。1号機はオペフロと呼ばれる最上階の鉄骨が剥き出しの状態になっていた。また、燃料を出し入れする巨大なクレーンや付属設備が、使用済み燃料プールの真上に潰れたように覆いかぶさっていた。燃料プールに貯蔵されている392体の使用済み核燃料を取り出すためには、それらの機器をすべて撤去する困難な作業が立ちふさがっている。燃料取り出し開始時期は2027年~28年度と予定されている。当初計画から10年遅れだが、さらに遅れるだろう。

ポケット線量計の警報があちこちで鳴り始めた。気持ちの良いものではない。被曝線量が10マイクロシーベルト(μSv)に達したことになる。近くに設置されていた線量計はなんと毎時73.7μSvを示していた。早々に現場を離れてバスに乗り込んだ。

その後、海洋放出のために建設中のポンプ設備を車中から垣間見た。全長1kmのトンネル工事は830mまで掘り進んだとのことだった。そうした現場をくわしく見たかったが、希望は叶えられなかった。見学の最後に、案内員が無色透明になったALPS処理水に線量計を当てて見せていた。浄化されているとミスリードしてほしいようだ。事故で多大な迷惑をかけていると言いながらも、処理水を放出する姿勢からは、東電の反省が感じられない。

一方、外からは建屋の中でどのような作業が行われるのかは見えない。東電によれば、1号機ならびに2号機の原子炉を支える土台の一部が鉄筋だけになっていることがカメラを使った調査でわかってきた。改めて事故の凄まじさが伝わってくる。(伴 英幸)


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(2023年5月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 454号より)

伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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