車上生活者の生きざまを描いた映画『ノマドランド』が突きつけたように、2008年の金融危機以降、高い住居費を節約する手段として「車上生活」を選ぶ人が増えている。パンデミックによって、その数はさらに増えている。トンプソン・リバース大学ヒューマンリソース学部のアンガス・J・ダフ准教授が『The Conversation』に寄稿した記事を紹介しよう。

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カリフォルニア州ビッグサー海岸を臨む/著者提供

筆者たちは2020年に、キャンピングカーでノマドライフを送る人々の生活について調査し、移動可能な生活と仕事で彼らなりの生活を成り立たせている実態を発表した*1。なぜ彼らはこのライフスタイルを選んでいるのか、さらに理解を深めるため、その後も調査を続けてきた。筆者自らキャンピングカーで米国南部を移動し、車上生活する人たちに会い、85人に話を聞くことができた。彼らはどんな人たちで、なぜ車上生活を送っているのか、非常に興味深い洞察を得た。

*1 Exploring flexible home arrangements – an interview study of workers who live in vans

キャンピングカーで暮らす人たちは男女半々、平均年齢42歳

カリフォリニア州やアリゾナ州では、車上生活している人々をあちこちで見かけた。サンフランシスコの公園そばやサンディエコの街なかに車を停めて、ごくふつうに風景に溶け込んでいる場合もあれば、アリゾナ州クォーツサイトなどではたくさんのキャンピングカーが結集している場合もあった。

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多くのキャンピングカーが停まっていたサンディエゴの駐車場/著者提供

85人のうち、女性が53%、男性が47%とほぼ同数だった。世代も幅広く、平均年齢は42歳。若者もいれば定年退職者もいて、その割合は同じくらいだった。完全に車の中だけで生活していた人が78%、家を所有または賃貸しながら定期的に車での移動生活を送っている人が22%だった。後者のほとんどは定年退職者だ。

車上生活を選んだ理由

車上生活を選んだ理由を順位付けしてもらったところ、上位から次のような結果になった。
  1. 自由
  2. 生活費の節約
  3. 冒険心
  4. 自然との結びつき
  5. ミニマリズムな生活
  6. 不快な気候を避けるため
  7. 新生活を始めるため
  8. さまざまな場所で仕事をするため
  9. リモートワークのため
  10. 自立した生活を送るため
  11. パートナーと一緒になるため
  12. パートナーから離れるため


何よりも「自由」を求めていることがわかった。10万ドル(約1300万円)のメルセデス・ベンツのキャンピングカーで生活する定年退職者も、5千ドル(約70万円)のキャンピングカーで仕事をしているカナダ人の若者まで、みんな、自分の好きな場所へ“住まいごと”移動したいのだ。

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Shutterstock

2番目に多かった理由が、「生活費を最小限に抑えられる」だ。「生活費はこれまでより大きく膨れ上がっているのに、給料はほぼ変わらない。ミレニアル世代としてはきついものがあります」との声もあった。「車上生活によって生活費を抑えられるので仕事を減らせる」「家賃支払いをなくすことで収入をフル活用できる」と考える者もいた。「定年後の限られた蓄えや収入をより有効に活用できる」という定年退職者もいた。

その次の3つの理由「冒険心」「自然との結びつき」「ミニマリズムな生活」からは、冒険的なアウトドア生活に価値を置いていることがわかる。車上生活だと思いのままに行動でき、いつだって好きな時に自然に触れ合える。車の中に必要なものをすべて収めたシンプルな生活(まさにミニマリズムの本質だ)を送ることで、自分の好きな場所で新たな冒険を始められる。さっと荷物を積んで新しい場所に移動できるということは、一番目の理由「自由」をももたらす。

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Shutterstock

6番目の理由は「不快な気候を避けるため」だ。話を聞いた人の多くは、暖かい時期は米国の北部の州やカナダで過ごし、その地の観光業や農業の仕事をし、冬になるとアリゾナや南カリフォルニアなど温暖な地に移動する、まさに“ノマド生活”を送っていた。車上生活であれば、気候や季節に応じて仕事の機会を得ながら移動することが可能だ。少し肌寒い夜に少し寝具を足すだけで快適に眠れる。

キャンピングカー暮らしはブームではなさそう

車上生活を選択した多くの人が、「自由」であるために「自給自足」し、自分が望む場所で生活できる状態を求めていることが明らかとなった。また、性別や年齢にかかわらず、「より手頃」かつ「制約の少ない生活」を求める人たちの実用的な選択肢になっていることもわかった。キャンピングカー生活を始めたばかりの人もいたが、キャンピングカー生活歴は平均2年半だった。単なるブームではないようだ。

住宅危機が深刻化する中、生活費を抑える手段としてキャンピングカー生活を選ぶ人は今後さらに増えるかもしれない。この生活スタイルを政府や自治体はどう受け入れるのか、駐車場や施設の拡充などサポートする姿勢を見せるのかが問われている。

映画『ノマドランド』予告


著者
Angus J Duff
Associate Professor, Human Resources, Thompson Rivers University


※本記事は『The Conversation』掲載記事(2022年12月18日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
The Conversation

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