「高レベル放射性廃棄物の地層処分政策に関する基本方針」の改定版が、2023年4月28日に閣議決定された。基本方針の策定は「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(最終処分法)」(第3条)で定められたものだ。
北海道、寿都町と神恵内村
2年経て文献調査まとまらず
改定された主な内容は、処分地選定に向けた文献調査に入る地域を増やすために、地方自治体や関係団体(たとえば商工会など)に誘致の働きかけを加速するというもので、今後、全国100ヵ所の自治体を訪ねるという。また、最終処分関係閣僚会議に、閣僚として農水相や環境相などが加わる体制も整えた。
文献調査は処分地選定の第1段階で、その後に概要調査、精密調査と段階的に調査地点を絞っていく。現在、北海道の寿都町と神恵内村で文献調査が行われている。どちらも2020年11月に調査が始まった(本誌163回で取り上げた)。文献調査期間は2年程度とされており、20億円の交付金が出る。すでに2年が経過しているが、報告書がまとまる気配がない。
経産省はようやく技術面の評価項目をまとめた。今後は社会経済面の評価項目をまとめる方針だ。その上で、それらの評価項目に従って、文献調査の報告書を実施主体のNUMOが作成する。
寿都町では反対運動が起きたが、片岡春雄町長が「肌感覚」で賛成多数だとして応募。その賛否が争点となった21年の町長選では僅差で再選されたものの、現在も地域の分断が続いている。神恵内村は商工会からの誘致請願を村議会が決議し、間髪入れず経産省が文献調査を申し入れ、高橋昌幸村長がこれを受諾した。22年の村長選では寿都町と同様に処分地選定が争点となったが高橋村長が再選。両地域とも、自由にものが言えない雰囲気だという。
「受け入れ難い」とする宣言条例
他地域も応じる自治体はゼロ
北海道では高レベル放射性廃棄物を「受け入れ難い」とする宣言条例が制定されており、これに従い、北海道の鈴木直道知事(この4月に再選)は一貫して調査に反対している。最終処分法はそれぞれの段階から次の段階に進むに際して、「市町村長ならびに知事の意見を聴き、これを尊重する」と定めている。「尊重」の意味は、反対であれば次の段階には進まないと説明されている。あるいは選定プロセスから外れるとも説明している。従って、このままいけば両地域は、文献調査の次の段階である「概要調査」には進まないことになる。
政府が基本方針を改定して文献調査地域を増やそうとしたのはこうした背景があるからだろう。両地域が選定プロセスから外れても、文献調査地点があれば、処分地選定作業はつながっていくからだ。漠然とした政府の考えによれば、文献調査10ヵ所、概要調査5ヵ所、精密調査2ヵ所と調査地域を絞り込みたいようだ。相対的により適した地域を選びたいからだ。5月14日に長崎県対馬市の建設業協会が文献調査応募の請願を市議会に提出。同日、市民による応募反対の請願も提出された。ここでも分断が始まってしまうことが懸念される。今後の行方が注目される。
共同通信が原子力発電の立地する13道県22市町村に実施したアンケートによれば、最終処分場の選定調査に「応じる」と回答した自治体はゼロだった(23年4月20日付)。このような状態だから政府の働きかけによっても新たな地域がすぐに現れることは考えにくいが、仮に新たな地域が出てきたとしても、新たな分断やもの言えぬ雰囲気を作るだけだろう。政府は拙速に進めるのではなく、両地域での双方の意見をしっかりと聴き、処分地選定のあり方自体を問い直すべきだ。(伴 英幸)
(2023年6月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 456号より)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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