有限会社ビッグイシュー日本では、ホームレス問題や貧困問題、ビッグイシューの活動への理解を深めるため、企業や学校から依頼を受け、講義をさせていただくことがあります。

今回オンライン講義を企画してくださったのは、公益社団法人京都保健会(以下、同法人)の皆さん。同法人で運営している病院や診療所では、無料低額診療事業(医療費の支払いが困難な方に対して医療費を減免する制度)を活用しています。

今回は、同法人内の事務職員向けに行われた研修会「京都民医連を支える事務職員として今できること ~人権と公正の視点でいのちとケアが大切にされる社会の実現をめざして~」のメインプログラムとして、ビッグイシュー日本大阪事務所長・吉田耕一と、販売者の吉富さんがオンラインで講義をさせていただきました。


ホームレス状態に至る背景はさまざま。自己肯定感の回復が鍵となる

はじめに吉田より、雑誌『ビッグイシュー日本版』の成り立ちや仕組み、ホームレス問題の現状をお話しました。

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吉田「私はこの仕事を始めてから、ビッグイシューの販売を希望する数百人のホームレス状態の方とお会いしてきましたが、登録の面談のときに、皆さんに“なにがあったんですか?”とお聞きするんです。すると、ホームレス状態に至った理由や経緯は人それぞれで、“経営していた会社が倒産した”、“ギャンブルに失敗して借金を抱えた”という方もいれば、派遣切りの影響で若くしてホームレス状態になったり、介護離職をきっかけに路上生活に至った方もいました。いろんな人生があって、いろんな性格の方がいるんです。私が持ってた『ホームレス』のイメージとまったく違う方もいて。つまり『ホームレス』とは状態を表す言葉であり、その人の人格を表す言葉ではないんです。」

人によってさまざまな経緯はありますが、ホームレス状態に至るまでには、仕事を失って収入を失い、家賃を払えず家を出て、その間に家族や友人など頼れる人とのつながりも失ってしまうパターンがほとんどです。

吉田「募集が比較的多いコンビニのアルバイト一つをとっても、経営者の立場からすると、保証人がいない人や履歴書に連絡先が書いていない人を採用するのは難しいでしょう。ホームレス状態になった人に、“はよ仕事さがして自立せえよ”と思うかもしれませんが、そこには本人にはどうしようもない社会的な壁があって、1人でやり直すのは簡単ではないんです。そうした状況が続くと、『俺の人生、もういいか』と、なってしまう人もいます。」

このような状態を「自己肯定感の低下」と呼んでいますが、それはホームレス状態にある方だけではなく若者にも見られる課題の一つ。

認定NPO法人ビッグイシュー基金では、自己肯定感の回復のため、販売者が趣味や交流を楽しむ活動を応援しています。街歩きをする「歩こう会」や、フットサルチーム「野武士ジャパン」、講談会など、販売者が主体となって立ち上げた活動を積極的にサポートしています。

医師からのコメント「医療だけでは解決できないことがある」

またビッグイシュー基金では、販売者や当事者のために月1回の健康相談の機会を設けています。吉田からは、ボランティアで相談会に来てくださる医師の皆さんからの感想を共有しました。
日常の医療では感じられないものを感じられる。身も心もズタズタの人を診ることもあり、医療だけでは解決できないことを痛感する。法律や居宅など、他の分野の専門家とつながる必要性を感じる
若い頃は、例えば『歯がなくても自分はそれでいい』という患者さんに対して『それはダメだ』と伝えていたが、今は『入れ歯の必要はなし。ただし、入れ歯を入れたくなるようなサポートは続けるべき』という所見を出す対応に変わり、患者さんを診るときの視野が広がったように思う。より正確に判断できるようになったと思う。
などと、病気になったら医療を、家がなくなったらシェルターを…といった対処療法ではなく、複数の側面から支援者が連携するべき、一人ひとりに合った支援を提供する必要があるといった声が見られました。

チック症状の理解を得られず離職、収入を得られないまま路上生活に

続いて、販売者・吉富さんの半生を語るコーナー。

吉富さんは長崎県出身。厳格な家庭で育ち、小学生時代から体が無意識に動く『チック症候群』と付き合いながら過ごしていたそう。高校卒業後、陸上自衛隊に入隊し、退職後はブロック工場→土建業→スーパーの正社員→建築業の派遣社員など仕事を転々とします。ある時、業務中にチック症状が現れ、職場の理解を得られず退職に至ったそう。そこから、仕事を探すため歩いて新宿へ向かった吉富さん。日雇い労働者を求めて声をかける“手配師”に仕事をもらおうとしてもうまくいかず、収入を得る手立てがないまま路上生活へと至りました。

路上生活を続けるうちに、雑誌『ビッグイシュー日本版』の存在を知り、東京や大阪で販売を継続しながらコツコツとお金を貯め、現在はアパートに入居しています。

吉田「今後の目標はありますか?」

吉富さん「雑誌の販売以外にもクラブ活動に参加しているので、外部の方とお会いすることもあります。そのつながりを大事にしたいですね。」

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オリジナル講談を披露する吉富さん

吉富さん「今、参加している講談会では『自分の人生を語れなかったら、他人の人生は語れないよ』と言われるんです。なので、今は自分の人生で経験したことを物語にしています。」

販売者へ質問「必要な時に、受診できていますか?」

最後は、吉富さんと吉田へ、質疑応答のコーナー。吉富さんの生活や、医療に関する質問も寄せられました。

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Q.今はどのような生活で、保険証などは持っていますか?必要なときに受診できていますか?

吉富さん「ビッグイシューの販売を始めて15年経ち、今はアパートにも入居して保険証も持っています。歯科の先生に入れ歯を作ってもらったりと、医療の大事さを痛感しています。」

吉田「ビッグイシューも当初は医療で連携できるところが少なかったので、販売者が体を壊しても、無料定額診療の制度を使ってスムーズに医療につなげることが難しく、役所や施設などを経由して手続きするか、我慢するか、生活保護を利用してもらうなどしか選択肢がなかったのですが、今はお医者さんや医療機関との連携も進み、必要な時にスムーズに医療とつながれるようになりました。住まいについては、たとえば取り壊しが決まっている物件を期間限定で借り上げて、一時的に入居できるようなサポートなども、行政や家主さんと連携して進めています。」

※NPO法人ビッグイシュー基金では、協力的な家主さんから固定資産税分のみで提供された空き物件を活用して、ホームレス状態の方が初期費用や保証人を立てることなく一時的な居所として利用できる「ステップハウス」を運営しています。 https://bigissue.or.jp/action/stephouse/

Q.生活保護を利用したいと思ったことや、実際に利用されたことはありますか?

吉富さん「生活保護の利用は、僕の場合は病気や怪我で働けなくなった時に利用するようにして、それまではビッグイシューの販売やアルバイトで生活していこうと思っています。今後はどうなるかわからないですが、今はそのように考えています。」

吉田「ビッグイシューとしては、生活保護の利用は選択肢の一つとして、初回の相談のときや、健康面が心配になってきた方など必要そうな方に勧めるようにしています。 ただ生活保護を利用したくない方もいて、その理由の大半は『扶養照会』という制度があることですね。自分の家族に行政から『この人を養えないか?』と連絡がいくならば、申請したくないという方が多いです。ただ最近は、扶養照会の連絡がいかないような制度になってきているとも聞きますので、変わってきているのかなと思います。」

「人間らしく生きることの喜びを支援していると知った。」

今回、講義への参加者は約40名。皆さんは、どのように講義を受け止めたのでしょうか?アンケートの一部をご紹介します。

「講演を聞く前はホームレスの印象はスライドにあったように不潔、リストラにあったという印象を持っていました。講演を聞かせていただいて1人1人にホームレスになってしまった事情があってホームレスの全ての人を一括りに考えてはいけないという印象に変わりました。」

「ビッグイシューを販売されている場面を見かけたことがあったがいつも素通りしていた。今回、成り立ちや仕組みを詳しく知れたこと、またホームレスの現状など直にお話が聞けたことで見る目が変わった。」

「ビックイシューという言葉は聞いたことはありましたが、無料で配布しているというような全く間違った認識をしていました。働きたいという気持ちに応えながら、人間らしく生きることの喜びの支援をされていることを、今回のお話で学ぶことができました。」

「実際に販売員として活動されている方の生の声を聞いたことで、医療を提供する側の人間として、持つべき姿勢を具体的にイメージすることができました。」

記事作成協力:屋富祖ひかる

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住まいを得たビッグイシュー販売者へ率直な質問「ビッグイシュー以外の仕事をしようとは思わないのですか?」/富田林市立中央公民館出張講義レポート


格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 



参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」



人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか

より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。

図書館年間購読制度 

※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/ 




『販売者応援3ヵ月通信販売』参加のお願い
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3か月ごとの『ビッグイシュ―日本版』の通信販売です。収益は販売者が仕事として"雑誌の販売”を継続できる応援、販売者が尊厳をもって生きられるような事業の展開や応援に充てさせていただきます。販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/


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https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 



参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」



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