自分のお気に入りのシャツを作るのに、どれくらいのカーボン・フットプリント(二酸化炭素排出量)がかかっているか考えたことはあるだろうか。綿のシャツで2.1kg、ポリエステルのシャツだとその2倍以上(5.5kg)の二酸化炭素を排出している。実に、地球全体の二酸化炭素排出量の約5%がファッション業界によるものなのだ。RMIT大学ベトナムの准教授ラジキショール・ナヤクが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。
1kgの綿を栽培するのに平均1万リットルの水が必要/Karl Wiggers/Unsplash
天然繊維にも環境に大きなダメージを与えるものがある。オーストラリア放送協会(ABC)の調査によると、当局の規制が行き届いていないノーザンテリトリー準州にて、数百ヘクタールもの熱帯サバンナが許可なく綿花農場を作るために伐採されていることが明らかとなった*1。
*1 ‘Turning a blind eye’に写真多数あり。
今よりもっと環境にやさしい服作りをめざし、従来とは異なる、環境に考慮した繊維素材の研究が進められている。コーヒーかすやリサイクルされたペットボトルなど廃棄物から作られる繊維、海藻・オレンジ・蓮・トウモロコシ・キノコなどから作られる繊維もある。
ペットボトルからポリエステル繊維を作ることで、ごみの量を減らせる/Shutterstock
環境にやさしい繊維素材の使用をリードしているブランドに、パタゴニア、マッドジーンズ、ナインティパーセント、プラントフェイスドクロージング、アフェンズなどがある。だが、本当の転換期が訪れるのは、大手企業がこの動きに加わるこれからで、今がファッション界が変わるチャンスだ。
サステナブル素材の利用で先頭に立つアウトドア衣料メーカー「パタゴニア」/AP Photo/Bebeto Matthews
大量の水や農薬を必要とする従来の繊維
従来の繊維には、天然繊維と合成繊維の2つのタイプがある。もちろんサステナビリティ(持続可能性)の観点からは、生分解性であり、自然環境に存在している天然繊維(綿や亜麻など)が、石油や天然ガスから作られる合成繊維よりも好まれる。ただ、一部の天然繊維(特に綿)を栽培するには、大量の水や環境に有害な農薬が使われている。綿を1kg収穫するのに、平均1万リットルの水が必要だ。一方の合成繊維は、使用する水は圧倒的に少なく済む(綿の約100分の1)が、大量のエネルギーが必要となる。
地球全体の二酸化炭素排出量の約5%はファッション業界によるもの/Shutterstock
化石燃料から作られる化学繊維(ポリエステル、ナイロン、アクリルなど)はファストファッションに欠かせないものだが、大きな問題は土に還るのに気の長くなるような時間がかかることだ。しかも洗濯や日常の着用でも流出・放出され続けるマイクロプラスチックは環境を汚染するだけでなく、食物連鎖に入り込み、動物や人間の健康をリスクにさらすおそれもある。2種類以上の繊維を組み合わせて紡績される「混紡」は、分別やリサイクルがいっそう難しい。
Shutterstock
ゲームチェンジャーになりうる新しい繊維とは
従来の繊維が過剰消費される中、海藻、トウモロコシ、キノコなどから作られる新しい繊維を採用し始めているファッションブランド(ステラ・マッカートニー、バレンシアガ、パタゴニア、アルギニットなど)が登場している。蓮、パイナップル、バナナなどの天然繊維も注目を集めている。それぞれ、蓮の繊維は茎から、パイナップル繊維はパイナップルの葉から、バナナ繊維は葉と茎をつなぐ葉柄から抽出される。オレンジの皮、コーヒーかす、廃棄された牛乳のタンパク質から繊維を抽出する方法も盛んに研究されており、実際に服作りに活用され始めている。こうした新しい繊維は、資源の大量消費(特に淡水)、有毒な農薬の使用、エネルギーの大量使用(特に合成繊維)といった前述したような問題を気にする必要がない。さらに、衣服の洗濯時にマイクロプラスチックが放出されることもなく、ライフサイクルの最後には生分解される。
原材料やエネルギー、および化学物質の消費を削減できる「再生繊維」も、目覚ましい成長を遂げている。飲料ボトルなどのプラスチックを再利用して衣服を製造する取り組みなどだ。こうした技術進歩は、原材料への依存や、プラスチックによる環境汚染を減らす一助となるだろう。さらには、生地のリサイクル・加工時に適切に色を組み合わせることで、染色工程を省くこともできる。
ファッション企業には、新しい繊維や生地生産の研究への投資をすすめ、サステナブルな繊維素材の普及に本腰を入れて取り組んでもらいたい。機械メーカーも、サステナブルな繊維や糸などの大規模な収穫・製造技術を開発すべきだ。と同時に、消費者である私たちにも、商品について詳しく知り、ブランドに責任を求める重要な役割が期待されている。
著者
Rajkishore Nayak
Associate Professor , RMIT University Vietnam
※本記事は『The Conversation』掲載記事(2023年1月19日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
※2023年9月8日に公開した記事を加筆・修正しています。
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