過激な活動を繰り広げ、人々の顰蹙を買うことで気候変動対策を訴えてきた環境保護団体「エクスティンクション・レベリオン(XR)*1」が、方針転換に動いているという。
 

*1 温暖化対策への政治的決断を促すため、市民による不服従行動を展開してきた市民運動。2018年設立。

霧雨が降り、うす暗い空が広がった金曜日。英国各地から数千人が国会議事堂前に集まった(家族連れも多かった)。気候変動問題への迅速な行動を“何も破壊せずに”引き出すという新たな戦術を試みるために。

「エクスティンクション・レベリオン」のデモはこれまで、交通渋滞を引き起こすのが常だった。しかし今回の参加者たちは、警官の監視のもと、歩道をはみ出すことなく横断幕をはためかせ、サンドイッチを食べ、おしゃべりをしながら歩みを進め、交通はほぼスムーズに流れていた。 今回の4日間(2023年4月21-24日)にわたる大規模な抗議デモ「ビッグ・ワン」は、社会正義や環境正義を求める​​200を超える団体の支援を受けて実施された。いつもより“静かな“デモは、多数の逮捕者が出ることなく進行した。

デモに初参加した人たち

デモに初参加という人もたくさん集まった。運動への世間一般の反発を考えると、「これまでと異なるアプローチを取ることにしたのは当然だと思う」と話すのは、イングランド南西部ノース・デヴォンから参加したスティーヴ・コンプトンだ。「戦略変更が必要でした。混乱をもたらす戦術もそれなりの意味があったとは思うけど、同じことをくり返していてもだめです。もっと多くの人を巻きこんでいく必要があります」

ロンドンの法律事務所「ベイツ・ウェルズ」(気候変動対策を促す「ビジネス宣言」に参加している)で働くフェリシティ・アリス(24歳)も、3人の同僚とともに参加、「ビジネスで地球を犠牲にするな」と書かれたボードを掲げて歩いた。「恐ろしいデモではないと聞いたので参加することにしました」。参加してみると、本業にもよい影響をもたらしそうな出会いもあったという。

ノッティンガム在住の美術教師ゾーイ・カヴァナーは、2度目のデモ参加だ。同伴した二人の子ども(11歳と9歳)は学校を休ませた。「(欠席の理由には)“気候の緊急事態”のためと書きました」。昨年、エクスティンクション・レベリオンの活動を知らないまま、団体が作ったTシャツのデザインが気に入って着ていたところ、友人たちに「気候変動の活動をしているの?」と尋ねられた。それを機に、家族で少しずつ詳しくなり、デモに参加するためロンドンまでやって来たという。

「生まれてから49年、ずっと目をつぶっていたようなもの。子どもたちには、この問題をよく理解している人たちに囲まれて育ってほしいと思います。ママだけが “ブッ飛んでる”わけじゃないって知ってほしいんです」。9歳の息子は、オレンジ色のレインコートの肩に「自分の未来のためにここにいる(I'm here for my future)」と書いた布を巻きつけている。政治家が化石燃料の使用を止めないのは「お金をもらっているからだよ」と言った。

▲デモに参加した子ども(記事本文に登場する子どもではありません)

親子で参加できるデモと破壊的なデモの両方を支持

国会議事堂の真向かい、よく抗議活動が行われる広場はフェンスで囲われていた。5月に実施されるチャールズ国王戴冠式を控え、芝生の見栄えを保つためといわれている。そのため、デモ参加者たちは広場のまわりや国会前を、ボードや横断幕、エクスティンクション・レベリオンのロゴ*2 入りの傘などを手に練り歩いた。活動家がスピーチを行い、アーティストはパフォーマンスを披露した。

*2 地球をかたどる円の中に砂時計を掛け合わせ、絶滅回避までの残り時間が少ないことを警告している。

気候変動デモに初めて参加したというエズラ・ミフスド(9歳)は、「議員の人たちも外に出て、ここで起きていることを自分の目で見てほしい」と話した。エズラの母親ソフィ・アレンは、環境・食糧・農村地域省から資金提供を受けて活動している環境保護団体「ナチュラル・イングランド」で働く科学者だ。エクスティンクション・レベリオンの抗議活動が「家族で参加しやすい場」となってうれしいと語った。「誰もが声を上げられる場が必要ですから」

その一方で、アレンは「ジャスト・ストップ・オイル」という、より破壊的な運動にも関わっている*3。気候変動対策の推進には、対決姿勢の表明が必要なときもあるとの考えだ。「私自身は直接的な行動が重要だと感じています。事態はそれくらい緊迫しているのです」。気候変動に関する科学的知見を知り、急速に変化する世界で生きていくわが子の将来を不安に思う気持ちが彼女を駆り立てているという。「何も行動を起こさなかったら、20年後に自分を恥じると思うんです」

*3 2023年4月、世界スヌーカー選手権での妨害のようす。
Just Stop Oil protester storms table at World Snooker Championship

より多くの人を巻き込むための戦略変更

幅広い参加を呼びかけた今回のデモ活動。アレンのように社会運動に関わっている人や、仕事を通じて気候変動リスクを肌で感じている人たちの参加が多く見られた。

ケント州から参加したアンディ・ビショップ(46歳)は、洪水に強いインフラ建設で温室効果ガス排出の削減に取り組んでいる。「大量のコンクリートを使ってね」とこぼす彼は、「不安におびえる一市民として参加を決めました。子どもたちの未来を思うと、恐怖でいっぱいです。どれほどの効果があるのかはわかりません。だけど、何かしているという実感はあります。一種のセラピーですね」と語った。ただし、抗議活動で逮捕されるつもりはないと断言する。「ちょっと臆病かもしれませんが、仕事も住宅ローンもある身ですから。どこまで踏み込むべきなんでしょうね」

「彼のような考えの人はめずらしくない」と話すのは、サウス・ロンドンに暮らすアーティストのフィオ・アダムソン(74歳)だ。2018年の結成以来、エクスティンクション・レベリオンの活動に参加してきたが、コロナ禍では、デモ参加よりも、近隣住民を訪ね、団体の活動趣旨を伝えることに時間を費やしてきた。気候変動の危険性は認識しているものの、エクスティンクション・レベリオンのような混乱を招くやり方に眉をひそめる人が多いことを痛感した。「考えは応援するけれど、あなたたちのやり方は気に入らないといろんな人に言われました」

なので、エクスティンクション・レベリオンの新しい試みにはーー政府が要求を受け入れない場合は攻撃的なアプローチも辞さないとしているがーー「納得している」と言う。「現在進行形で起きている気候変動、この問題に向き合うのは容易ではありません。リサイクルに努めるなど、暮らしの見直しはまだ始まったばかり。今は、もっと多くの人を巻き込むことに注力する。そのために、戦術の見直しは続けていかなければなりません」

エクスティンクション・レベリオン(英語)
https://extinctionrebellion.uk/

By Laurie Goering
This article first appeared on Context, powered by the Thomson Reuters Foundation. Courtesy of the International Network of Street Papers.

サムネイル:Jenny On The Moon/iStockphoto

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