グレタ・トゥーンベリ(19)の呼びかけにより、今や気候変動対策を求める若者たちのムーブメント「未来のための金曜日(フライデー・フォー・フューチャー)」は世界的な広がりを見せている。ドイツ・シュトゥットガルト支部の広報担当者ニーシャ・トゥーサン=ティーチオウトに、同市拠点のストリート誌『トロット・ヴァー』が話を聞いた。
Credit: Ruben Andert
独シュトゥットガルトの「未来のための金曜日」の共同設立者ニーシャ・トゥーサン=ティーチオウト。広報担当として、メディア対応や講演活動にあたっている。
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― グレタ・トゥーンベリは、これまでの気候変動政策を「ああだこうだ(blah blah blah)」と一蹴し、まったくもって不十分だと指摘しました。そんなグレタを「建設的でない」と批判する声もあります。彼女に対するこうした反応をどう思いますか?
ニーシャ・トゥーサン=ティーチオウト:グレタはこれまでさまざまな非難を受けてきました。この発言をしたグラスゴーでのCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会合)でも、それ以前にもです。社会運動家たちは何十年も前から、責任を果たしていない政策を非難してきました。それをなぜいまさら、グレタの口調を批判するというのでしょうか。彼女の言い分はもっともです。COPが過去26回も開催されてきたというのに、温室効果ガスの排出は増え続けているのですから。
―気候変動によって人類がすぐに絶滅することはなくても、多くの種がいなくなるでしょう。砂漠化がすすみ、飢餓、大規模移住、紛争を引き起こします。どうすれば対抗できるのでしょう?
「私たちが求めるのは? 気候正義*1! いつ必要なの? いますぐ!」
私たちがデモで叫んでいるこの合い言葉が、その答えです。
*1 Climate Justice/経済先進国や富裕層の持続可能でない行為のしわ寄せが、途上国に住む人々や経済弱者に及んでいる現状を是正すべきとの考え。
気候危機はどこから来ているのか。歴史を振り返ると、私たちが社会や経済をどう動かしてきたかにその根があることが分かります。資源が限られた地球で果てしない成長を目指すなど、持続可能ではありません。自然の開発は、結局のところ人類の搾取とつながっています。
気候危機は、遠い未来の問題ではありません。大惨事はすでにあちこちで起きています。この問題と立ち向かうにはまず最初に、気候にダメージを与えている経済政策を見直し、化石燃料の使用を減らし、集約型の牧畜をやめ、災害防止策を強化し、すでに深刻な影響下にある国々と実践的な連帯を示す必要があります。
地球の気温が2度上昇すると、サンゴ礁の99%が消滅する。気温が1.5度上昇すると(2030年にはそうなる見込み)、サンゴ礁の70〜90%が消滅する。サンゴ白化現象が起きると、白い石灰石の残骸だけが残る。
dknaus@trott-war.de
根本から変えなければならないのは、経済成長ばかりを目指す姿勢ではなく、経済を民主化することです。それはひいては、男性支配の植民地支配的な古い考え方からの脱却にもなります。
― スウェーデンの人間生態学者アンドレアス・マルムは、著書『パイプライン爆破法(原題:How to Blow Up a Pipeline)』の中で、行動を起こす手段として、(人を傷つけない範囲での)暴力の行使を提案しています。生態系の破壊を早急に止めるには、そんなやり方も正当化されると。「未来のための金曜日」は、暴力には反対の姿勢をはっきりと打ち出していますが、マルムのアプローチについてはいかがですか?
歴史を振り返ると、解放運動はさまざまな形の行動を取ってきました。例えば、米国の公民権運動、英国では女性の参政権を求めた運動、インドでも同様の運動がありました。これらの運動には、必ず反抗や妨害行為がありました。何かを変えるには、さまざまな手段を取る必要があります。もちろん、人々を危険にさらすことなくですが。
*『パイプライン爆破法(原題:How to Blow Up a Pipeline)』
―「未来のための金曜日」の活動家カーラ・レームツマ(24)は「行動の急進化」という表現を使い、世間から批判されました。気候問題の議論を促したい意図からにせよ、ほかに言いようはなかったのでしょうか?
「急進化(radical)」はラテン語で「根」を意味する「radix」に由来しており、「過激化(extreme)」とは異なります。気候問題の「根」に目を向けよう、とカーラは語りかけているのです。気候危機の原因は何なのか、どうすれば危機を緩和できるのかを問いかけ、我々の生活を守る別の仕組みを追求していこうと。
必要なのは、形だけの政治ではなく抜本的なアプローチです。二酸化炭素の排出にわずかな課税をしても、何も変わりません。危機の原因はもっと根深いものです。近所の人たちが車に乗っているからでしょうか、企業の石油採掘によりごく一部の裕福な人たちが利益を得ているからでしょうか。こういったことを納得のいくまで話し合うのは大きな挑戦ですが、それが危機を脱する方法なのです。
― 人々の共感を“急進化”するには、より広く「人類の問題」であることにフォーカスすべきなのでしょうか?
重要な問いです。でも、グローバルな危機を個々人の責任にするのはよくないと思います。多くの人は自分の生活を守ることが先決で、環境や政治的な問題に関心を持つ余裕などありません。もちろん、気候正義の追求は、自然のためだけでなく、人類に資する活動です。気候危機は社会全体の危機ですから。なぜ私たちは、環境に有害となる生活様式があたり前のしくみの中で暮らしているのか――この問いにも、しっかりと向き合わなければなりません。
― 環境に優しい商品や方法を選びたくても、金額がネックになる人も多いようです。今後、社会はどう変わっていけるでしょう?
「全員が竹の歯ブラシを使えば、気候危機は解消する」というものではありません。このグローバル危機を解消するには、個人の手に委ねるだけでなく、もっと大きな社会のしくみを変えていく必要があります。
地球規模での二酸化炭素排出の大部分に責任を負うべきは、ごく一部の資産家や大企業です。ですが、気候正義を達成するには、あらゆる人々(自動車工場で働く労働者など)を巻き込んでいく必要があり、私たちは労働組合とも協力し合っています。
気候危機の解決は、この世の多くの不公平を正すことでもあります。影響を受けているさまざまな社会の人々の声を聞き、幅広い議論をしていかなければなりません。
By Daniel Knaus
Translated from German by Laura Prieto Calvo
Courtesy of Trott-war / International Network of Street Papers
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国際記事:「気候危機で問題なのは人間の存在でなく行動」グレタ・トゥーンベリ
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