光熱費や食費、金利の高騰により、生活費の工面に苦しむ世帯は増える一方だ。とくに深刻な影響を受けているのは、低所得者、および各種経済支援を受けている人たちだ。Facebookグループを介した新たな支援のあり方について、スウェーデンのストリート誌『ファクトゥム』の記事を紹介しよう。
 

FAK_When social support isn't enough_1
Photo by Solen Feyissa on Unsplash

スウェーデンの『ダーゲンス・ニュヘテル』紙は1月、低所得者向け食料品店「フード・ミッションズ」の登録会員数がこの一年で倍増したと報じた。支援団体「シティ・ミッション」とスウェーデン国教会に支援を求める人々の増加ぶりも、『ファクトゥム』誌で報じたとおりだ。 即日融資や信用取引を利用して苦境を切り抜けようとする人も少なくない。だが長い目で見れば、借り手をさらに苦境に追いやるこの方策は決して勧められるものではなく、誰もが利用できるわけでもない。友人や家族に助けを求めても、その人たちに経済的な余裕があるとは限らず、お金を貸すことを快く思わない人も少なくないだろう。

Facebookグループ内でのお金の貸し借りで苦境を乗り切る!?

そんななか、デジタル空間で「中間業者を介さず個人間で融資を行うサービス」が登場している。必要なのは、Facebookアカウントとスウェーデンのモバイル決済システム「スウィッシュ(Swish)」に紐づいた銀行口座だけ。こうした融資グループ(「スウィッシュグループ」とも呼ばれる)は何年も前から存在しているが、広く知られてはいない。

お金を借りたい人は、必要な金額、使用用途、他のグループでも同時に借り入れを手配しているか、いつまでに返済できる見込みがあるかを投稿する。困窮ぶりを詳しく説明する者も多い。この投稿に対し、融資できるメンバー(1人または複数人)がコメントし、電子決済「スウィッシュ」経由で送金すると、借り手やグループ管理者によって投稿はロックされる。Facebookには、 このようなお金の借り入れを目的としたグループが数多くあり、最大のものでは1万2700人超のメンバーが参加している。

グループの一つを管理するミアは、障害のある年金生活者だ。お金を借りたい人と貸したい人をつなぐ場の必要性を感じ、6年前にグループを立ち上げた。お金の借り入れを求める投稿は、水曜から木曜に増え始め、金曜にピークに達するという。連休前や、給料日や給付金が支給された翌日にもニーズが高まる。固定費の支払いや借金返済で、入ってきたお金がすぐに底をつくのだ。

運営方針について聞くと、「ルールはたくさんあります。まず、利息を求めてはいけません。そうした投稿は認めていません。私が投稿を削除しても、個別でやりとりする人たちもいますから、そこまでは関知できませんけど」と話す。ラッフル(慈善目的の福引)は禁止だが、お金のプレゼントは認めており、実際に時々行われているという。期限内に返済しない人がいれば、ミアのもとに連絡が来る。貸し手がグループ内で名前を公表することもあるが、警察沙汰になったことはない。大方のユーザーは、少額のお金を融資し合っている。

お金を借りることへの恥じらいから匿名を希望する者も少なくないが、それは断固として認めていない。借り手は本名を明かす必要があり、名前と電話番号はスウィッシュの登録情報と一致していなければならない。グループ内の公開投稿でやりとりされる限り、詐欺のリスクは限定的(のはず)だ。しかし以前、資金提供者が借り手に個別に連絡し、借り手の写真を送るよう求められたことがあったという。そんな人たちはすぐさまブロックされるが、別の名前で新しいアカウントを立ち上げるケースもあるようだ。

とはいえ、ほとんどのメンバーは礼儀正しく振る舞っており、当面グループ運営を続けるつもりだとミアは言う。困っている人は増える一方なのだ。借金を返すために借金を繰り返すという悪循環に陥る者も多く、お金の健全な扱い方を学んだ方がよいと感じることもある。「借り入れは手っ取り早い対処法なんですよね...。私がどうこう言える立場ではありませんが、常識はずれな金額の借り入れは認めていません。余計な問題を引き起こすだけなので」

お金を借りる側、貸す側の本音

『ファクトゥム』は複数の利用者に話を聞いた。3歳の娘と暮らすジェニー(44歳)は、2022年から失業状態にあり、これまでに何度か複数のグループでお金を借りたことがある。だが、生活保護で暮らす身として、返済できない恐れがあるため、できるだけ借り入れはしたくないというのが本心だ。友人や知り合いにも、急な出費があると融資グループを利用している人がいるという。

すでに家族からお金を借りていて、これ以上頼ることができない人にとっては、このような融資グループが消費者金融に代わる選択肢になると言うが、複雑な思いもある。「適度な金額を借り入れ、きちんと期限までに返済する限り、小さなセーフティネットになると思います。でも、毎月毎月、雪だるま式に借金が増えていく悪循環に陥りやすいですし、この手のグループは詐欺師のパラダイスでもありますし……」

興味本位からミアが運営するグループに加わったというステファン(45歳)は、月に数回、幼い子どもがいて困っている親にお金を貸している。「月に数百クローナ(数千円)でも借りられれば、全然違いますからね」と話す。「お金のピンチに陥ったときに経済的にサポートしてくれる友人や家族がいない人の選択肢になればと。生活保護の手続きにはかなり時間がかかるようですし、公的なセーフティーネットは十分ではありません」。実際に貸したお金が返済されないことも何度かあったが、大ごとにはしなかったという。

3人の子どもがいるシングルマザーのルイーズ(30歳)は、ゼロ時間契約*1で働いている。借金があるため、金融機関のローンは申し込めない。複数のFacebook融資グループに参加し、お金を借りる・貸すの両方の目的で利用している。自分の境遇について詳しく説明できればと思うが、テンプレートどおりの融資申し込みしかできないグループもあるという。「本当にヤバくなるとお金を借りています。親きょうだいなど、助けてくれる人が身のまわりにいないんです。自分が大変なときでも、もっと大変な状況にある人に少額の援助をしたこともあります。アパートを失いかけたとき、食料やクリスマスプレゼントをくれたり、私の持ち物を買ってくれたりしました。そのおかげで、今も自分の住まいがあるのですから」。公的支援は昨今の物価上昇に見合っていないため、Facebook経由の融資グループは重要な役割を果たしているとルイーズは考えている。教会に支援を求め、食料品パックをもらったこともあるが、「傷んだ果物と小麦粉と米」しか入っていなかったという。

*1 自宅待機し、雇用主から要請があった時だけ働く契約。

“その場しのぎ”の共助の拡大が政治判断を狂わせる

2022年秋、こうした新しい支援のあり方を調査した論文が、学術誌『ソーシャル・メディスン(Social Medicine)』に掲載された。論文の共著者で社会学者のエミリア・コールは、教会や援助団体による支援とは異なり、対人的なやりとりがないオンライン空間での支援には問題があるとの考えだ。 「その場しのぎの援助は受けられても、長い目で見ると、状況を変えることにはなりません。匿名で金融取引ができるシステムと、正規のソーシャルワーカーが資金繰りをより広い視点で考えてくれるシステムとでは、まったく別の福祉です。お金がないことは“症状”であり、多くの場合、困窮の原因ではありません」

この論文はギヴィング・ピープルのような公開グループを調査したものだが、その結論はFacebook上の融資グループにも当てはまる、とコールは言う。こうしたグループが存在することで、本来、経済的支援を担うべき機関が人々の困窮状況を正しく把握できなくなる。長期的には、借金して何とかやりくりしているのに、問題なく生活できていると誤解され、生活手当額の見直しが阻止されるおそれもある。

厳しい経済状況を受けて、スウェーデンでは今年、困窮者の収入をもとにした生活手当の算出率が過去最高の8.6%に引き上げられた(通常は1~2%の上昇)。銀行口座への入金はすべて「収入」とみなされるため、借入金も手当の支給額に影響する。ただし、何を収入とみなすかの方針決めは各自治体によって異なり、自治体内でも査定方法が統一されていないことがある。「この問題に光をあてることが重要です。すべてのFacebook融資グループを合わせるとかなりの規模になり、多くの人々がかかわり、たくさんのお金が動いているのですから」とコールは指摘する。

公的支援と非公式な金融サービス、目指すべき社会とは

保健福祉庁とヨーテボリ市の2つの公的機関に問い合わせたところ、このような融資グループの存在を把握していなかった。オンラインでお金を借り入れた場合は生活手当の支給額にも影響が出るだろう、と社会管理局南西地域の責任者ヨルゲン・ラーソンは言った。制度上、借りているお金であることは考慮されないという。また、このようなグループの存在は、「資金繰りの余裕がない人々が増えている兆候」だと述べ、「十分な生活手当を受けられない低所得者の一部」がこのような非公式な金融サービスを利用していることへの懸念を示した。

社会管理局ヒシンゲンのクリスティーナ・アルベリン局長も、実態を把握しきれていないと前置きしつつ、生活手当の受給者でオンラインでもお金を借りている人は、その収入についてソーシャルワーカーに率直に話すべきだと語る。「常に個々人の状況を見て判断しています。ケースバイケースで検討していかなければ」

社会的支援を求める人たちが誠意を持って扱われるようにする、ソーシャルワーカーにはその大きな責任があるとコールは指摘する。でないと、人々が支援を求めることを躊躇してしまいかねないからだ。「私たちはどんな社会を望んでいるのでしょう。 自発的な援助に頼っていた時代に戻るべきなのでしょうか? お金を借りることが許されなくなったらどうなりますか? 早くに助けを求めなかったがために、どん底に落ちてしまうかもしれないのです」

By Anna Skoog
Translated from Swedish via Translators without Borders
Courtesy of Faktum / International Network of Street Papers




*ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?

ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。

ビッグイシュー・オンラインでは、提携している国際ストリートペーパーや『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの良質の記事を翻訳して皆さんにお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。

ビッグイシュー・オンラインサポーターについて


『販売者応援3ヵ月通信販売』参加のお願い
応援通販サムネイル

3か月ごとの『ビッグイシュ―日本版』の通信販売です。収益は販売者が仕事として"雑誌の販売”を継続できる応援、販売者が尊厳をもって生きられるような事業の展開や応援に充てさせていただきます。販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/



過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。