仕事や頼れる人がいなくなると、簡単にホームレス状態になる世の中。
『助けて』と声を上げてほしい
はじめに吉田から「ホームレスには、どういうイメージがありますか?」と問いかけました。
学生の皆さんからは「“なんでホームレスになったんだろう?”と疑問に感じる」という声や、「職を失って、家もない、なんだか不吉な感じ」「怖さがあり、関わりたくはないなと感じる」と率直な意見が。
ある高校で実施した、「ホームレスの人のイメージ」についての感想
吉田「当然、そうしたイメージがありますよね。僕はこれまでお会いしてきたホームレス状態にある方々に聞いてみたんです。“なんでホームレスになったんですか?”と。そうすると、“勤めてた会社が倒産した”、“派遣切り”、“病気や災害”、“介護離職”など、一人ひとりにいろんな理由がありました。仕事の経験が豊富な方もいれば、そうでない方もいる。見た目も性格も、ホームレスになった経緯もみんな違うんです。」
吉田「“ホームレス”という言葉は、あくまで状態を表す言葉であって、その人の人格や性格を表すものではない。今日、みなさんに一番伝えたいことです。」
これの言葉を熱心に聞き、メモを取る学生さんもいました。
会社の都合や病気・災害などで仕事を失うことで収入が得られなくなり、やがて家賃が払えなくなって家を出て、その間に家族や親しい人とのつながりが途切れてホームレス状態に至る、というパターンが少なくありません。
吉田は、「仕事ができなくなって、助けてくれる人が身近にいなくなったら、誰でもホームレス状態になりうる世の中だと思います。もし、みなさんが困った時にはまず『助けて』と声をあげることが大事だと思います。」と力説。
ここでみなさんへ、認定NPO法人ビッグイシュー基金が発行している『路上脱出・生活SOSガイド』を紹介しました。これは、路上生活する人が自立の道を歩めるよう必要な情報を一冊にまとめ、配布できるようにした冊子。大阪・東京をはじめ、札幌や名古屋など各地でも作成・配布されています。
(参考:路上脱出ガイド福岡版)
仕事で稼いだお金が、ギャンブルに吸い込まれていく…ビッグイシューに出会って得られた気づき
続いて、兵庫県出身の販売者、Mさんの半生を語るコーナー。
Mさんが5歳の頃、父親が交通事故で他界。以降、母と2人の生活でありながらごく普通に少年時代を過ごしたそう。高校卒業後、一浪して大学に進学。「学費は自分で払おう」と考え、アルバイトをしながらも楽しく過ごした学生時代だったと振り返りました。
大学を卒業してからは、メーカーでの営業職を経て、リサイクル分野にて検品作業員として入社。しかし、ノルマの厳しい営業職へ異動となったことから、再び退職の道を選びました。ちょうどその頃Mさんは、友人に誘われてスロットにハマっていきます。
「負けた時の印象より、勝った時の印象が強くてやめられなくなっていきました。スロットをするために、借金までしていました。それが親に知られて喧嘩になって、そのまま家を出たんです。」
地元では仕事が見つからず、Mさんは愛知県に引っ越し、派遣会社に登録して勤務をはじめます。寮に入り、少しずつお金を貯めてはスロットに注ぎ込んでしまう生活でした。
その後、リーマンショックにより派遣会社の倒産が相次いだ頃、仕事と家を同時に失ったMさん。それでもスロットを続けるうちに所持金が尽き、路上生活へと至った経験を語りました。
「名古屋あたりもホームレスの方が多くて、水飲み場やベンチがある場所で初めて野宿をしました。炊き出しなどに行ってるうちにホームレス同士のつながりができて、生活保護や自立支援センターのことも知りました。なんとかお金を貯めて大阪に戻ってきて仕事も始めたんですが、スロットはやめられず、それがずっと足を引っ張っていたんです。」
吉田「今の生活は、どうですか?」
Mさん「スロットは完全にやめています。ビッグイシューの販売を始めてから、スロットに使っていた1000円〜2000円が大事に思えて、(スロットは)自分にとって良いことがないなっていうのがやっとわかりました。」
吉田「販売を始めてよかったことはどんなことですか?」
Mさん「雑誌を買ってくださる方は、販売者がどういう状況にいる人なのかをよく理解してくださっていて、『頑張ってね』という励ましの言葉が嬉しいですね。『ホームレス』としてではなく、人として接してもらっていると思えます。支援を受けているのではなく、雑誌を買ってもらっているというのも嬉しいです。」
吉田「今後の目標はありますか?」
Mさん「今はアパートに入居できているので、また路上に戻るのではなくて、今の生活を維持していきたいですね。」
最後に、学生のみなさんへMさんからのメッセージ。
Mさん「これから先、自分の目標に向かっていくと思うんですけど。壁にぶつかったり、悩んだ時、一人で悩まないでほしいなと思います。僕は全部一人で考えて、突っ走ってしまうことがあったので、いろんな人に相談するほうがいいと思います。」
(参考 ギャンブル依存症問題に取り組む研究会 https://bigissue.or.jp/action/gambling/)
大学生からの質問「路上生活をしていて、困ったこと・よかったことはどんなことですか?」
最後は、学生のみなさんからMさんへの質問コーナー。路上生活経験者から話が聞ける機会はまずないため、当時の生活ぶりや心境についての質問が上がりました。
Q.路上生活をしていて、困ったことや辛かったことはどんなことですか?
Mさん「他の人の視線が気になったことですね。路上に出て2〜3ヶ月すると汚れてくるので、日中も夜も視線が気になりました。また、夜間は“襲われるんちゃうかな、怖いな”という気持ちもありました。大阪では、路上生活者が襲撃されて亡くなった人がいるという話も聞きますので。そういう怖さがありました。あとは、全くお金がないので、好きなことができない生活だったなと思います。」
Q.ホームレスになってよかったこともありますか?
Mさん「ビッグイシューとつながる前の路上生活を考えると、いいことってなかったと思います。他のホームレスの方とのネットワークは広がりますけど、一般社会とは遮断されていく感じでした。社会復帰を目指したいと思っても、社会との断絶があって、這い上がりにくいんじゃないかな、いいことはないかなと僕は思います。ビッグイシューに入ってからは、お客さんや販売者、スタッフとのつながりもあります。自立に向けてのステップアップにもなっています。」
学生の“ホームレス”への理解が深まり、一歩踏み出すきっかけとなったら
今回、オンライン講義を企画してくださった八鍬先生からは、「事前学習で、“ホームレスの人を見かけたことはあるけれど、話をしたことはない”とゼミ生は語っていました。“怖い”“話しかけたら怒られそう”という声も講義前には上がりました。
ですが、講義で吉田さんのお話やMさんの半生をお聞きすることで、“人生の過程で諸事情により(一時的に)ホームレス状態となった”と捉えるようになったようで、講義の影響の大きさに驚いています。
“ボランティアをしようと思った”とアンケートに書いてくれた学生もおり、一歩を踏み出すきっかけとなったら嬉しいなと思います。」と、学生のみなさんと講義への思いを語りました。
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小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
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