“図書室”と “焼き芋屋”という場所を通じて、地域の様々な年代の人々がいろいろな目的で立ち寄る店がある。石川県金沢市にある「図書室のある焼き芋屋 ハレオトコ」だ。

今回は、夫婦で切り盛りするお店への想いや、能登半島地震に関する現状や必要な支援について、妻・山木美恵子さんにお話を伺った。
 
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東京から金沢への移住を決意した2人がつくる、焼き芋と図書室の店

東京で40年以上、出版の仕事に携わってきた夫の金岩宏二さんと、妻の山木美恵子さん。宏二さんは”東京で80歳まで働くつもり”でいたが、美恵子さんは、畑で野菜を作ってみたいという想いや、定年後に都心で家賃などが払い続けられるかの不安もあり、地方移住して “小商い”をしながら生活したいと考えるようになった。

様々な場所を検討したが、石川県出身の宏二さんが「地元・金沢なら慣れた土地であり、移住をしてもいいか」と考えるようになった。そして、2022年1月に金沢へ移住。

山木さん「小商いとして、何をやろうかと考えていました。いろんなアイテムを扱う商売だと、年を取りつつある私達にはお店を回せなさそう。でも焼き芋なら、老夫婦2人でもなんとかなるんじゃないかと思ったんです。」

こうして空き家だった住宅を購入し、地元の設計士と話をして自宅兼店舗に改装。2022年11月、「図書室のある焼き芋屋 ハレオトコ」がオープンした。

主に県内の農家から仕入れたシルクスイート、紅はるか、安納芋などをアルミホイルで包んでペレットオーブンでじっくりと焼きあげる。1日に概ね20本、多い日には50本焼くこともあるそうだ。

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普段は、店のそばを流れる犀川(さいがわ)沿いを走るランナーが補給食にと立ち寄ったり、犬の散歩をする人がペットと一緒にお芋を食べに来たり、近所に住む子どもたちが、焼き芋をおやつがわりに宿題をしに来たりと様々な人が訪れる。赤ちゃんや子ども連れの方も多いという。

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山木さんに東京と現在の暮らしの違いについて伺うと、「東京に住んでいる頃は、近所の方とはご挨拶程度の関係で、何かあったとしても、そこまで頼るのも悪いなと思っていました。今は、ご近所に知っている方がたくさんいて、会話が増え、暮らし方がずいぶん変わりましたね。安心感があります。」と笑顔を見せてくれた。

能登半島地震後、「何かあったら助け合おうね」と
声をかけあえる関係に助けられている

2024年1月、石川県能登半島を襲ったのは、震度7の大地震だ。ハレオトコのある金沢市も、震度5強を記録した。

「1月1日は、2人で初詣に出かけ、犀川沿いの散歩から家に帰ったとたんに揺れ始めたんです。私はすぐにテーブルの下にもぐって身を守りました。おさまってすぐに第2波が来ましたが、店は本棚を作り付けにしていたからか、揺れの方向が幸いしたのか、立てかけていた本が1冊落ちたくらいで、幸いなことに大きな被害はありませんでした。」

だが同じ金沢市内でも、被害の大きい地域もあったという。市民の方の変化はどのように感じたのだろうか。

「地震のあと、店に来てくれる方と『地震、大丈夫だった?』と声をかけあうことが増えました。『家にいると鬱々としてしまうから店に来ました』という方もいらっしゃいますね。話すと少しすっきりするようで、そういう場所として店が機能できているならば、良かったなと思います。」

「お客さんとの関係は、お芋を買ってもらうだけで終わらないようにしたいと以前から思っていました。お店をやっているおかげで、今回のような事態になった時に『何かあったら助け合おうね』と言い合える関係になっているのは、私たちにとってもありがたいです」

必要な支援につなげるコーディネートや、
気持ちを解放できる機会が必要とされている

震災から1ヶ月以上経ち、義援金や炊き出しの動きが広がり、一般ボランティアの受け入れも行われるようになった。

山木さんに「いま、必要とされているサポートは何か?」と問うと「衣食住はもちろんですが、被災者の気持ちのサポートにも手が回るといいな」と話してくださった。

「多くの人が生活が楽ではない時代ですよね。誰かが誰かの役に立ちたいと思ってくれていても、お金もそんなに出せないとなると、気持ちが苦しくなる人もいるのではと思うんです。現地で何もできないとしても、自分たちの暮らしのなかで、長いスパンでできることがあると思ってもらいたいです。」

「震災を、忘れないでほしいというか。これからだんだんメディアに取り上げられなくなっていくと思いますが、それを、誰がどのように掘り起こして伝えていくかというのも、考えなければいけないと思います。」

また「ボランティアも募集されているけれど、必要とする人に必要なコーディネートがされるとよいですね」とも語ってくださった。

ハレオトコでは、地域の人々と一緒にできることとして、店の出入り口のガラスに水で消せるクレヨンを使って“ハートマークを描く”企画を始めた。お客さんがガラス面の自由な場所に、好きな色でそれぞれにハートマークを描き残していくものである。

ハートプロジェクト

「これは私たちが応援しているサッカーチームの色」
「しっぽと肉球4つ(と小さいハート)」(柴犬の飼い主さん)
「童心にかえったわ」
「(羽は)うちのコッコちゃんの」(チャボの飼い主さん)
ハートを描きながらの皆さんのつぶやきを聞くのも楽しかったそう。

「アートとか、ちょっとした気持ちを解放する機会がもっと広がるといいですね。生活を営むだけでなく、楽しみになるようなこと―たとえば“みんなで何かをやる”“つくる”といったことが、地域の人々から自然発生するのが一番いいのですが、なかなか余裕がないこともあります。地域の外から何かを“楽しむ”きっかけを作ってもらえるのもありがたいなと思いますね。」

借りに来て、返しに来てくれる。
図書室だからこそ、生まれるやりとりが楽しい

長年、出版業界で仕事をしていた2人が、書店ではなく「図書室」を立ち上げたのはなぜかと聞くと、「売ってしまったら、お気に入りの本が手元からなくなってしまうでしょう?」とほほ笑んだ。地域の人々とふれあいたい想いと本への想いが込められていた。

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「図書室に出している本は、私たちの蔵書のうちの1000冊くらい。まだ並べていないものが200冊くらいあります。出版の仕事をしていて、手放せなかった本やつくるのに関わっていた本も置いています。自分たちが10年間開かなかったような本でも、誰かにとって“今、読みたかった本”になるかもしれないですしね。並んでいる本を見てもらうと、自分たちのこともなんとなく伝わるだろうという思いもあります。」

「買うのと違って、本を借りたら、また返しに来てくださいますよね。本屋さんや図書館では本の感想を聞いたりするようなおしゃべりってできないので、ここではそういうお客さんとのやりとりをするのが楽しいんです。返却がてら、お芋を買っていってくれることもありますしね(笑)。」

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“買うと誰かのためになる”から、
買い続けてくれる人がいると思う

ハレオトコの図書室にある本のなかで、雑誌「ビッグイシュー日本版」は“買える雑誌”の一つだそう。

山木さんは、「ビッグイシューは、東京で仕事をしている時から、本郷三丁目や目白の販売者さんから買っていました。取り上げている内容もいいなと思いますし、自分ごとになるように考えさせてくれる記事の作り方も好きですね。実は以前、『のんびる』という雑誌のライターをしていて特集記事の担当をした時に、販売者さんへ取材をさせていただいたこともあるんです。」とビッグイシューへの想いやつながりを語ってくれた。

「石川県に移住するにあたって、販売者さんがいない地域なので、私たちの店で売る意味があると思い、委託販売制度に申し込みました。いい雑誌だから、ぜひお知らせしたいという気持ちがあって、販売しています。うちに置いていることでビッグイシューを知ってくれる方もいますが、ホームページなどでうちが扱っていると知って買いに来てくださる方が多いですね。好きなアーティストが載っていると『この号ありますか?』と電話をくださって、取り置きさせてもらうこともあります。あとは、社会課題に関心が高い方も多い印象です。社会のいろんな立場や状況にいる人たち“隣人”への想いが強い方が、読者の方には多いなと思います。」

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最後に、雑誌「ビッグイシュー日本版」の販売に迷われているお店の方へメッセージを伺った。

「ビッグイシューの売り上げに助けられることもありますし、特集などのテーマに関心のある方に来てもらえるようなお店になれるのがメリットだと思います。

そうした方が、お店のことを他の人にも伝えてくれたりと、つながりづくりやイメージアップにもいいんじゃないかな。

“これを買うと誰かの支援にもなる”という意味合いのものって多くはないと思うので、自分が楽しいだけじゃない、+αの部分があるから買い続けようと思ってくださる方もいらっしゃいます。北陸地域ではビッグイシューを販売する場所が少ないので、販売してくれるお店がもっと増えるといいなと思います。」


●図書室のある焼き芋屋 ハレオトコ

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住所 石川県金沢市城南1−3−5
電話 076―256―1585
営業時間 10時〜17時
定休日 月曜・火曜・金曜

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ビッグイシューの委託販売制度について
より広く、より多くの方に『ビッグイシュー日本版』を知っていただき、ご購入いただける機会を増やしたいと考え、委託販売制度をご用意しています。カフェやお店など人の集まる場所をお持ちの方は、ぜひご検討ください。
ビッグイシューの委託販売制度


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https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/



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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。