1970年11月、巨大なサイクロンが東パキスタン(現在のバングラデシュ)を襲った。ガンジスデルタ*1の水位は10メートル上昇、いくつもの町が水没し、少なくとも30万人が亡くなったとされる、過去最大級の犠牲者を出した熱帯低気圧だった。バングラデシュは1991年にも13万9千人が命を落としたサイクロンが発生するなど、大勢の犠牲者を出すサイクロンに何度も襲われてきた。人口が大幅に増加しつつある昨今も相変わらず巨大サイクロンや洪水に見舞われているが、死者数は数十人規模にとどまっている。この事実を契機に、筆者たちは研究プロジェクト「回避された災害(Disasters Avoided)」を立ち上げた。私たちは災害に関する報道を頻繁に目にする一方で、“回避できた被害”や“救われた人命”といった良いニュースはどれだけ伝わっているのだろうかーー。
 

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Supratim Bhattacharjee/iStockphoto

*1 インド、バングラデシュ両国にまたがる、ガンジス川、ブラマプトラ川によって形成された大デルタ地帯。

まず最初に、「回避された災害」の事例を探した。竜巻、地震、干ばつ、山火事、伝染病、地滑り、火山の噴火、熱波など、環境的に大きな危険を引き起こしながらも、事前の防災対策を行っていたために、それほど多くの死傷者や混乱を招かなかった事例を洗い出した。その中でも、人が住んでいるすべての大陸における十数例について詳しく調べた。非常にローカルな事例のひとつが、2016年7月に米国コロラド州の山中で、キャンプファイヤーの不始末から起きた山火事だ。死者は出なかったものの、2千人が避難を余儀なくされ、8軒の家屋が全焼した一方で、同じ森の中にありながら大きな被害を免れた家も8軒あった。それらはすべて、耐火性の材料を使用し、燃えやすい植物を取り除き、積み上げた薪を家から離して保管するというアドバイスに従うなど、NGO「山火事パートナーズ(Wildfire Partners)」の認定を受けている家屋だった。住人たちは、生活の再建に一から取りかからなければならない隣人とは対照的に、すぐに自宅に戻ることができた。

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Photo courtesy of Malachi Brooks on Unsplash

もっと規模の大きな事例もある。バングラデシュでサイクロンによる死者が減少しているのには、長期的な教育、準備、注意喚起、避難、シェルター確保などの施策によるものだ。学校を安全な避難場所にする、ボランティアの人たちが村々を自転車で回って警告を発するなど、さまざまな取り組みにより状況を改善させているのだ。今後、死者数をさらに減らしていけるだろう。 1200万人近くが沿岸部に暮らすベトナムも、毎年のように大洪水に見舞われている。洪水に強い家屋4000戸を提供し、沿岸部に高潮対策のマングローブを植林する5年計画のプロジェクト*2も進行中だ。2019年には熱帯低気圧マットゥモ(台風22号)がクアンガイ省を襲い、多くの家屋を破壊したが、新しく建てられた洪水に強い家屋の多くは破壊を免れ、住人たちも無事で、農業を中心とした生活を続けることができた。

*2 http://gcfundp-coastalresilience.com.vn/#sec1

6つの提言

それぞれの災害回避事例から得られた知見や教訓から、他の地域にも活用できる6つの提言をしたい。

1. 災害の根本原因、ならびにその回避に取り組む意識
「災害は自然がもたらすものではない」との認識を持つことも大切だ。実際、筆者たちは「自然災害」という言葉は使わない*3。災害の大半は、政治の力・リソース・危険に対する経験や知識のいずれかまたは全部が不足していることから、危険な場所に家を建てる、危険な場所での仕事を強いられるといった人間の選択によって引き起こされている。
*3 #NoNaturalDisasters https://nonaturaldisasters.com/

2. 適切なタイミングで適切な投資
お金の使い道および効果を明らかにすることも重要である。

3. 望ましい統治
社会、環境、人々の生活に恩恵がもたらされるよう投資や資金を適切に管理する。それによって、十分な情報に基づいた、説明責任を伴う施策が確実に実施される。

4. 多様なデータ活用
質の高いデータを収集・分析し、それらに基づいて意思決定し、行動に移すこと。人口動態や経済状態に関するデータはもちろんのこと、人工衛星やドローンによる観測データ、現場での計測結果、さらには一般の人々の認識や経験も活用すべきである。

5. すべての人を巻き込んだ意思決定
自然界の威力に耐えうる社会のつくり方について、多様な人々を巻き込み、共通認識を得ること。

6. 現実的な目標設定
利用可能なリソースで達成できる目標を定める。可能であれば、「仙台防災枠組(2030年までの国際的な防災指針)」「国連の持続可能な開発目標(SDGs)」、気候変動協定、都市や人道的アジェンダなどの世界的取り組みに照らし合わせた目標を設定し、運用すること。

「回避された災害」のすべてが、こうした先を見越した対策がなされていたからというわけではない。被災地に人があまり住んでいなかったからといった、運によるものもある。安全な場所への避難など「短期的アクション」で回避できたケースもあれば、災害後の柔軟な生計支援など「長期的アクション」が有効だったケースもある。ただし、上の6つの提言にあるような長期的計画・準備を強化することで、よりよい結果が導かれるはずだ。

引き続き、研究プロジェクト「回避された災害」では、民間セクターでの成功事例を収集し、イノベーションの重要性を説いていきたいと考えている。「回避された災害」の基本にあるのは、多様な人々や組織が協調して行動することで事態を改善させられるということだ。すべての人がお互いを思いやった行動をとることで、大惨事を回避することができるということを伝えていきたい。

Disasters Avoided
https://disastersavoided.com/

By Ilan Kelman, Ana Prados, Brady Podloski and Gareth Byatt
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo


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