2024年2月、チリの歴史上最悪の火災被害が発生した。大規模な森林火災が何日も続き、131人もの人命が奪われた。しかし、この数字は全体の被害の氷山の一角でしかない。やけどを負った人、家や生計を失った人、今後は心的外傷後ストレス障害(PTSD)など精神的ダメージに苦しめられる人も出てくるだろう。医療サービスが麻痺したことで、既存の患者たちの状況も悪化した。煙の吸引による長期的な影響についてもまだ分かっていない。
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なぜこれほどまでの事態に発展したのか? 今回の惨事は単なる「気候災害」でも「自然災害」でもない。気候危機への準備不足、人間の判断不足が招いた災害だと主張するのは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、グローバルヘルス研究所の公衆衛生研究員ヤスナ・パルメイロ・シルバだ。シルバが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。
火災が起こりやすい状況でも被害を減らせる
もちろん気候の影響もあろう。この夏、チリは非常に火災が起こりやすい気象条件だった。細長い地形のこの国の中部は、温暖な気候で火災が起こりやすいと同時に、湿度も高く草木がよく育つため、ひとたび火災が発生するとよく燃える。火災前後は気温も35度超えの日が3日以上続いた地域もあった。長期的な大干ばつで乾燥し、湿度は比較的低く、激しい風が吹いていた。人間活動による気候変動に加えて、エルニーニョの影響もあったと考えられる。だが、火災の発生リスクが高い状況であっても、その発生自体を、被害の拡大を、そして死者の発生を防ぐことはもっとできたはずで、それには社会的要因を考慮しなければならない。私の同僚イラン・ケルマンは、災害を「人が持てるリソースを用いて危機的状況やその影響に対処しようとしたにもかかわらず、その能力を超えたとき」に起こるものと定義する。チリの災害はまさに、深刻な気候危機と社会的下準備の不備が重なったゆえの結果だった。
チリ政府と地元当局は、4件の火災が同時発生し、燃料であるパラフィンとベンジンが検出されたと主張する検事もいるため、火災の一部が意図的に引き起こされた可能性を示唆しているが、まだ逮捕者は出ていない。
「災害だから」ではない。「準備不足だから」住民が死んでしまう
最も壊滅的な火災が発生したのは、土地利用の大きな変更を進めていた地域だった。都市計画に関する規制が不十分だったため、建築規制を守っていない住宅や、いざという時に緊急サービスにアクセスしにくい狭い通りができてしまっていた。また、酷暑に備えた準備も不十分だった。熱波や火災に関する市民啓発も、避難計画も十分に実施されていなかった。携帯電話にテキスト、音声、振動で警告を発信する全国緊急警報システムにも課題が見つかった。火災の影響で複数のアンテナが正常に機能せず、多数の人がメッセージを受け取っていなかった。その上、送信されたメッセージには「避難せよ」とあるのみで、実際どこに逃げたらよいかわからない人も多かった。これにより交通渋滞が発生し、身動きが取れないまま火災に巻き込まれる人もいた。
備えていた村ではほぼ被害なし
気候変動の影響で、チリでは今後さらに巨大な火災が起こる可能性がある。しかし、適切な準備と計画があれば、人命被害を軽減することはできる。今回の火災から学ぶべき興味深い事例が、チリ中部キルプエ市近郊のボタニア村にある。この小さな村は炎に囲まれながらも、ほとんど被害を受けなかった。その理由は、住民たちが事前に準備を整えていたことに尽きる。地域主導のプロジェクトにより、廃棄物の処理、草木の管理を徹底し、可燃物を減らしていた。気候変動によって災害が起きても、必ずしも大規模被害を引き起こすわけではないことをまざまざと示した。被害を回避させたこの村から教訓を得るべきだ。
チリ政府はこの度、災害リスクを減らすための国家戦略を策定した。さらに、気候変動による災害リスクを計画段階での規制に組み込めば、多くの人命を救える可能性が高まる。1970年代以降の耐震建築規制が、この地震多発国で大きな役割を果たしてきたように。
気候変動が起きている今、まずは災害の発生自体を防ぐ仕組みを整える必要がある。しかし、ほとんどのリソースが災害発生後の対応に充てられ、「事前準備」の観点が抜け落ちやすい。「気候変動」と「社会的な準備不足」という二つの脅威が重なると大勢の健康と生活が深刻な危険にさらされる。そんな中にあっても、被害を防げた村は存在したという事実を良き教訓としていかねばならない。
By Yasna Palmeiro Silva
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo
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