「米国の大学卒業率」に関する連邦政府の最新調査*1により、大学生の40%が高校卒業後8年経っても学位や資格を取得していない(=卒業していない)ことが明らかとなった。カリフォルニア大学サンタバーバラ校のアカデミックライティング非常勤講師ロバート・サミュエルスが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介しよう。
 

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低所得家庭の学生は進学率・卒業率ともに低い傾向

低所得家庭の学生でみると、大学卒業率はさらに低下する。2009〜2021年の間に学士号以上を取得した大学生の割合は、所得が11万5千ドル以上(約1700万円)の家庭出身で66%、所得が3万5千ドル〜5万5千ドル(約850万円)の家庭出身で36%、3万5千ドル以下(約540万円)の家庭出身で26%だった。低所得家庭の学生はそもそも、高所得家庭の学生より高等教育への進学率が低いが、卒業する学生も少ないということだ。

*1 High School Longitudinal Study of 2009 (U.S.Department of Education)

卒業率は人種や民族によっても異なる。同期間に学士号以上を取得していた白人学生は50%だったのに対し、黒人学生は29%、ヒスパニック系学生では30.4%だった。また、私立高校に通っていた学生の73%が学士号以上を取得していたのに対し、公立高校に通っていた学生では42%だった。

筆者の著書『Educating Inequality: Beyond the Political Myths of Higher Education and the Job Market(教育格差:高等教育と雇用市場の政治的神話を超えて、未邦訳)』(2018)でも述べたとおり、こうした格差には多くの原因が絡み合っている。主な要因のひとつは、有色人種(黒人、ヒスパニック系、アジア系、アメリカ先住民、太平洋諸島の島民を含む)の低所得家庭の学生は、政府補助金が少なく、中退率が高い高等教育機関に進み、白人や家庭に余裕のあるアジア系学生は潤沢な資金提供を受けた大学に進む傾向にあることだ。

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Tero Vesalainen/iStockphoto

別の連邦政府データによると、高賃金の仕事につながりやすいSTEM分野を専攻する学生の割合も、白人学生で20%だったのに対し、ヒスパニック系学生で15%、黒人学生で10%と、マイノリティの学生で低い傾向にある。

米国では人種と所得に高い相関性があることを踏まえると、一つの解決策としては、卒業率の高い大学に、より多くの低所得家庭の学生を受け入れ、卒業させるよう働きかけることが考えられる。しかし、事実上の分離教育*2がまかり通っている現行の学校制度では、経済格差は縮まるどころか広がる一方である。

*2 人種や民族によって学習者を分離すること。

いまだに約268兆円もの学生ローンが未返済 有色人種の学生は学生ローンによる高額の負債を抱えた状態で大学を去るケースが多い。2019年、黒人成人の3分の1近くが学生ローンの負債を抱えていたのに対し、白人学生では20%のみだった。また、学生ローンの平均未返済額は、黒人で3万ドル(約460万円)、白人で2万3千ドル(約360万円)だった。

卒業率の低さは、負債返済能力を大きく低下させる。バイデン大統領が一部の学生ローンを免除するという異例の措置を発表したおかげで少し減ったものの、いまだに未返済学生ローンは1兆7270億ドル(約268兆円)にのぼるのが米国の現状である。

学生ローン負債額の大部分は、卒業率の低い営利大学(for-profit colleges)*3 で発生している。公立大学の学生と比べると、営利大学の学生の負債額は3千ドル(約46万円)高く、債務不履行に陥る率も2倍だ。非営利の公立大学の多くがキャンパスの多様性を高めようと努力している一方で、学生確保に走る営利大学のやり方が、経済格差や人種的不平等を深めているように思われる。

*3 私立大学のなかでもとりわけ株主資本を経営基盤とするものをいう。社会人やマイノリティ、女性をターゲットに、ビジネスやITなど実務に即した教育カリキュラムを提供。多くの学生を獲得し、成長に注目が集まっている。参照:For-Profit Colleges BY THE NUMBERS

By Robert Samuels
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo


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