2024年9月、国際ストリートペーパーネットワーク(INSP)主催の年次総会「グローバル・ストリートペーパー・サミット2024」が英国リバプールで開催された。参加各国の誌面づくりや販売サポートについて知見を共有する場として毎年開催されている。
 

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INSPアワード2024の模様/Photos by Jason Lock Photography

サミット2日目の夜、この一年間の優れた記事や取り組みを称えるINSPアワード授賞式がリバプール美術館で開催された。出席者らが各部門に投票した後、INSPの役員が最優秀者を発表。表紙デザイン部門については、一般投票で受賞者を決定した。各部門の結果は以下の通り。

ジャーナリズム記事部門:最優秀賞『ビッグイシュー台湾版』

最終候補作:
  • 『エルリック・オスロ』ノルウェーに辿り着いたロマ民族
  • 『ファクトゥム』スウェーデンの依存症者向け民間診療所に関する調査報道
  • 『ストリート・ルーツ』 米オレゴン州ポートランドの拘置所内の死亡率についての調査
  • 『ストリート・ワイズ』米シカゴのジェントリフィケーション*についてのポッドキャスト
  • 『ビッグイシュー台湾版』 2022 W杯に向けたカタールでの人権侵害に関する調査
「最終候補作はいずれも非常に高い基準のジャーナリズム性を示す記事でした。その中でも、あまり報道されない問題を扱い、大きなインパクトがあり、一般の人々の議論を促すような意味のある変化につながる、調査報道の優れた価値を示すストーリーを選びました」とINSP役員のジュリアナ・ヴァレンティムは語った。

2022年カタールで開催されたW杯は、ペルシア湾岸諸国に大きな労働力需要をもたらした。『ビッグイシュー台湾版』はその裏舞台で起きている人権問題に人々の意識を向けさせることを目指し、国の繁栄は経済力だけで計れるものではなく、人々が、階級やジェンダーにかかわらず、より良い暮らしを送れているかどうかも考慮しなければならないことを伝える記事を掲載した。『ビッグイシュー台湾版』からの出席者イン・ツー・チェンは「世界は愛と希望で満たされていると思わせてくれる賞です」と述べた。

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『ビッグイシュー台湾版』のイン・ツー・チェンPhotos by Jason Lock Photography

*ジェントリフィケーション:主に低所得層の居住地域であった都心部が再開発され、より富裕な層の居住地域へと変化する現象。元々の住民が立ち退きを余儀なくされることから、米国におけるホームレス問題の原因の一つとされている。

『ビッグイシュー台湾版』Instagram
  https://www.instagram.com/bigissue.tw/


販売者サポート部門:最優秀賞 カナダ『メガフォン』

最終候補作:
  • スロベニア『Kralji ulice』のプライマリーヘルスサービス
  • カナダ・モントリオール『リティネレール』のメンタリングプログラム
  • カナダ『メガフォン』の販売者メンターシッププログラム
  • メキシコ『ミ・バレドール』のZINEプロジェクト
  • 米オレゴン州ポートランド『ストリート・ルーツ』の異常気象基金
「優れた販売者サポートプログラムとは、販売者を力づけ、コミュニティをつくり、必要とする人に収入源を提供するもので、最終候補に残った取り組みはいずれもその点を満たしていました」とINSP役員のアマンダ・ジョーンズは語った。

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『メガフォン』の代理として、INSP役員アマンダ・ジョーンズがベスト販売者サポート賞を受け取った。Photos by Jason Lock Photography

最優秀賞を受賞した『メガフォン』の販売者メンターシッププログラムは2023年初頭に導入され、ベテランの販売者と新規の販売者がペアを組み、販売者活動についてお客さんとの接し方や販売向上のための助言を行う取り組みだ。初年度、バンクーバー市内で150以上のペアが成立し、ペア双方に時給20ドルが支払われた。「私たちの取り組みや販売者を称えてくださり、心より感謝申し上げます」と『メガフォン』からの参加者デボン・トレメインは述べた。

Vendor Mentorship Program
https://megaphonemagazine.com/vendor-program/


写真部門:最優秀賞 ドイツ『ヘンペルス』

最終候補作:
  • ノルウェー『エルリック・オスロ』
  • ドイツ・ミュンヘン『ビス』
  • ドイツ・ドルトムント『『ボド』
  • ドイツ・シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州『ヘンペルス』
  • スウェーデン『ファクトゥム』
  • スイス『サプライズ』
  • 米テネシー州ナッシュビル『コントリビューター』
  • 米オレゴン州ポートランド『ストリートルーツ』
「優れた写真とは、ある事柄の理解のされ方について問いを投げかけるような、あるいはその写真が伝えようとしていることを理解するため思わず二度見させるような作品だと考えます」とINSP役員のスティーブン・ペルソンは語った。最優秀賞を受賞した『ヘンペルス』からの参加者ジョー・テインは「とても感激しています。喜ばしいことです」と 述べた。

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写真部門で最優秀賞に輝いた『ヘンペルス』Photos by Jason Lock Photography

HEMPELS
https://www.hempels-sh.de/


販売者貢献部門:最優秀賞『Hus Forbi』

最終候補作:
  • ハンガリー『フェデル・ネルクル』
  • デンマーク『Hus Forbi』
  • スロベニア『Kralji ulice』
  • オーストリア『メガフォン』
  • 米ワシントンD.C.『ストリートセンス・メディア』
「販売者による優れた貢献はストリートペーパーの存在価値を引き上げます。社会的排除やホームレス問題について、よりリアルなエピソードを知ることができ、ストリートペーパーにより大きな信頼性をもたらしますし、販売者が自分たちの声を届ける機会を手にできます。かれらの実体験が価値ある道具となり、より深い知識につながるのです」とINSP役員のサラ・ブリッツは語った。

『Hus Forbi』の販売者ナタリアの実体験として、子ども時代の環境から売春をせざるをえなくなるまでの経緯について、このテーマを取り扱うときのステレオタイプ的な報道にとどまらないストーリーを綴った。『Hus Forbi』からの参加者サイモン・ニールセンは「ありがとうございます。私たちにとって大きな意味を持つ賞です。皆さんと同じく、毎日このために取り組んできたのですから」と述べた。

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『Hus Forbi』のサイモン・ニールセンPhotos by Jason Lock Photography

『Hus Forbi』
https://husforbi.dk/


キャンペーン部門:最優秀賞『Lice v Lice』

最終候補作:
  • 米クリーブランド『カーブサイド・クロニクル』米国のオピオイド流行に関する調査
  • 北マケドニア『Lice v Lice』北マケドニアの民事登録法修正を目指したキャンペーン
  • スロベニア『Krajli ulice』200号記念展示までの200ステップ
  • ギリシャ『シェディア』10周年意識向上キャンペーン
  • 米オレゴン州・ポートランド『ストリート・ルーツ』ホームレスコミュニティプログラム“シビル・サークル”
「キャンペーン部門は、調査報道、政治家やコミュニティに与える影響、ストリートペーパーの社会的弱者に対する重要性など、様々な分野をカバーしています。明確な目標、強力なメッセージ、現実に与える影響を鑑みて、最優秀賞を決定しました」とINSP役員のニコレタ・コソヴァックは語った。『Lice v Lice』は、販売者の実体験を踏まえ、北マケドニアの無国籍者を取り巻く環境改善を目指したキャンペーンを実施。その結果、民事登録法の修正に至り、社会的弱者の生活の質を大きく改善する画期的変化となった。

『Lice v Lice』
https://licevlice.mk/


表紙デザイン部門:最優秀賞 イタリア『スカルプ・デ・テニス』

最終候補作:
  • ドイツ・ハノーファー『アスファルト』
  • ドイツ・ミュンヘン『BISS』
  • ドイツ・ハンブルク『ヒンツ&クンスト』
  • 北マケドニア『Lice v Lice』
  • ハンガリー『フェデルネルクル』
  • スイス『サプライズ』
  • デンマーク『Hus Forbi』
  • オーストリア『メガフォン』
  • チェコ共和国『ノヴィ・プロスター』
  • スウェーデン『ファクトゥム』
  • フィンランド『Rohee』
  • イタリア『スカルプ・デ・テニス』
  • ギリシャ『シェディア』
  • カナダ・モントリオール『リティネレール』
  • 米クリーブランド『カーブサイド・クロニクル』
  • 米デンバー『デンバーボイス』
  • 米シカゴ『ストリート・ワイズ』
  • メキシコ『ミ・バレドール』
  • オーストラリア『ビッグイシュー・オーストラリア』
「これは私たちの母語を使った最初の表紙で、非常に力強いものになりました」と『スカルプ・デ・テニス』からの参加者ロベルト・ガリアノーネは述べた。

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表紙デザイン部門最優秀賞に輝いた『スカルプ・デ・テニス』のメンバー

『スカルプ・デ・テニス』
https://blogdetenis.it/

Global Street Paper Summit 2024 について

By Brontë Schiltz
Courtesy of INSP.ngo


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https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/



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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。