社会的弱者に出版の機会を提供ーー包摂性を高めるためにメディアができること

英グラスゴーで2017年に創設されたアークバウンド・ファウンデーションは、“多様な人々に出版やジャーナリズムのハードルを下げる”をモットーとした慈善団体だ。2024年6月にはビッグイシュー販売者アンドレ・ロスタントが書いた小説『The Muffin Man』を刊行。運用マネージャーのロミ・セントジョンに国際ストリートペーパーネットワーク(INSP)が話を聞いた。

INSPホームレスや貧困問題の語られ方を変えていくうえで、出版社にはどんなことができると思いますか?

ロミ・セントジョン:まず何よりも、住まいを失うような経験をされた方々は、生活の中で何か文章を書く時間を確保することが難しい場合が多いです。チャンスに恵まれる機会もまずありません。困窮当事者・経験者には、出版社という存在が自分とはほど遠い存在に感じられるようです。

そこでアークバウンド・ファウンデーションでは「親しみやすさ」を大切にし、ホームレス経験者のストーリーをもっと聞いていきたいと思っています。ロンドンのビッグイシュー販売者アンドレ・ロスタントが書いた『The Muffin Man』の出版がその好例です。

ビッグイシューを販売する販売者アンドレ・ロスタント。(2024年9月)

とても好評で、ロンドンでは関連イベントも開催しています。こうした本にも確かなニーズがあるのです。

他にも、元受刑者と出版をつなぐ「ライティング・ウィズイン・ウォールズ(Writing Within Walls)」などのプロジェクトも多数実施しています。こうした社会的弱者にも取り組みやすいプロジェクトを提供することで、自身のストーリーを語る自信を持ってもらいたいのです。彼らには語られるべき価値あるストーリーがあるのです。

ー インクルージョン(包摂性)を高めるために出版界にできることとは?

語られるストーリーにオープンであること。また、それらストーリーの完成度や構成をどこまで大切にできるかですね。問題の実体験者が語るストーリーにいかに忠実であり続けられるかです。

いわゆる「貧困ポルノ」に陥らないよう、それらストーリーをどうやって見せるかも重要です。そのためにやるべきことは多々ありますが、希望もあります。私たちのような小さな出版社だからこそ果たせる重要な役割があり、こうしたアプローチがもっと広がっていくことを願っています。

Photo by Jack Donaghy

ーINSPならびにストリートペーパー事業とのつながりをどう捉えていますか?

私たちの活動とINSP、ならびに各国のストリートペーパー事業の活動は大きく関連していると思います。ホームレス当事者や元受刑者など支援したい対象者は同じです。さまざまな人の声を掬い上げていく、これからもよい関係性を維持しながら活動していければと思います。

2024年9月のINSP総会でプレゼンをするアンドレ・ロスタント。日本で過ごしていた時期もあるという。

アークバウンド・ファウンデーション公式サイト
https://www.arkfound.org

By Brontë Schiltz
Courtesy of INSP.ngo

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日本のビッグイシューの販売者が関わった書籍

『路上のうた ホームレス川柳』
ビッグイシュー日本版の販売者たちが詠んだ川柳を集めた作品集。
https://www.bigissue.jp/shop/senryu/

『世界一あたたかい人生相談』
ビッグイシュー販売者と料理研究家の枝元なほみさんの共著。販売者が読者の悩みに答える「ホームレス人生相談」と、枝元さんの「悩みに効く料理」レシピを収録。
https://www.bigissue.jp/shop

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