米国では、社会的養護(保護者のない児童や、被虐待児など家庭環境上養護を必要とする児童などに対し、公的責任で社会的に養護を行うこと)制度のもと保護された若者が21歳になるとの対象から外される。
だが、彼らが自立へと移行するための支援プランは十分とはいえない。ワシントンD.C.で、一度ホームレス状態を経験し、今は同じような境遇の若者のために奮闘する一人の女性を取材した。
Written by Jennifer Ortiz
Photo:Jennifer Ortiz
翻訳:島田明子
構成:オンライン編集部
Courtesy of INSP News Service www.street-papers.org / Street Sense-USA
21歳の誕生日の朝、荷物をまとめてシェルターに入った。
シャノン・マックは社会的養護制度によって9年間守られてきたが、21歳になったことで、制度の適用対象から外れた。21歳の誕生日の朝、マックは身の回りの持ち物をまとめた。
性的マイノリティである彼女のために、担当のソーシャルワーカーが車でLGBTQの若者向けの保護施設「ワンダ・オールストン・ハウス」まで荷物を運び、その場で彼女と別れの挨拶を交わした。
「それで終わりです」とマックは言う。「もう一度里親に預けられたような気分でした。見知らぬ家族のもとへとね」
コロンビア特別区の公的支援機関である「チャイルド&ファミリー・サービス・エージェンシー(CFSA)」の報告によると、2010年から2014年まで、ワシントンD.C.では年間平均160人の若者が年齢を理由に社会的養護制度の適用から外れている。
また、米住宅都市開発省が2014年にまとめた報告書「社会的養護制度対象年齢を過ぎた若者のための住宅事情」では、対象外年齢となった若者の11%~37%がホームレスの経験があると記している。さらに、およそ25%~50%の若者は、制度の適用から外れると、「不安定な住宅事情にさらされる」という。
マックは、ワンダ・オールストン・ハウスでたった5か月間しか過ごせなかった。彼女には、現在7か月になる息子がいるのだが、ある夜、息子を病院に連れて行き深夜に戻ってきたところ、門限を過ぎていたために中に入れてもらえなかったのだ。翌朝、荷物をまとめるように言われたマックは、そのまま住む場所を失った。
CFSAのコミュニケーションズ・ディレクター、ミンディ・グッドによると、CFSAは21歳に達した若者に対し、支援の延長としてアフターケア・サービスを紹介している。
そうしたサービスの一端を担っているのが、D.C.内の5つのNPOで構成される「ヘルシーファミリー/スライビングコミュニティ・コラボレーティブ」で、若者たちの家探しや職探し、金銭管理を手伝い、職業訓練やカウンセリングの紹介を行っている。若者たちは、24歳になるまでこうしたサービスを受けることができる。
貯金の方法、就労に向けた準備…… 移行期に必要なさまざまな知識
マックもコラボレーティブの支援を受けているが、ずっと同じケース・マネージャーが担当しているわけではない。したがって、ケース・マネージャーと馴染みになることもできず、信頼関係を築くこともできなかったと彼女は話す。
しかし、CFSAのヒアリングで証言してから、(制度適用外となって以降3人目となる)今のソーシャルワーカーは以前よりも助けてくれるようになったという。
昔付き合っていた女性や友人たちの家を泊まり歩いた後、マックは2月初旬、ホームレス状態の子どもたちを受け入れている「コヴナント・ハウス」に、90日間の期限付きで仮住まいを確保することができた。今ではその期限はとうに過ぎているが、職業訓練プログラムに参加する準備を整えるため、滞在期間を延ばしてもらっている。
「期限が過ぎているという事実を常に突きつけられているように感じます。追い払われそうになっている感覚がありますが、本当に次のプランはないんです」とマック。
「コヴナント・ハウスを出てしまったら、正直どこにも行くところがありません」
ミンディ・グッドによると、CFSAでは社会的養護制度対象の若者たちが“18歳になるころまでに”その後の生活に向けた準備を始める。
だが、実際にはもっと早くから始めるべきだと彼女は感じている。移行プランには、コラボレーティヴを紹介し、「いざという時に頼れる、児童養護の枠組み外の大人との有意義なつながり」を若者一人ひとりが確実に築けるようにすることも含まれる。だがマックの場合、そのプランが十分に組まれていなかったのだ。
マックが21歳に達した時、制度外でつながりのある大人は一人もいなかった。彼女は、CFSA側がもう少し協力的で、移行期に必要なさまざまなガイダンスを受けられたらよかったと話す。
「貯金の方法とか、就労に向けた本格的な準備といった面で助けてほしかったです」と、マックは言う。「適用外の年齢になった人の中には、今でも過去を振り返って思い悩んでいる人もいます。制度から外れる時にカウンセラーがついてくれるといいのですが」
学習クラス、カウンセラー、娯楽施設も備えた移行期の若者のための自立センター設立を目指す
マックは今、NGO「ヤング・ウィメンズ・プロジェクト」でパートタイムで働いている。子どもの時にグループ・ホームに滞在したことがあり、その時にこの組織のことを知ったそうだ。
彼女は同プロジェクトのフォスターケア・キャンペーンにかかわり、21歳に達しつつある若者やホームレスの若者の代弁者となっている。
「キャンペーンがが特に力を入れているのは、若者自立センターの設立です」とマック。
「気軽に立ち寄ることができるドロップインセンターのようなものと考えてください。GED(General Education Development Test:高校修了資格に相当する)クラスを提供し、カウンセラーを置き、娯楽施設も備える予定です。職探しを支援すると同時に、諸団体に協力してもらって、移行期の若者を雇用し、彼らと大人が対話できるような場所を作りたい思っています」。
彼女は、年齢制限によって制度から「押し出される」若者たちのニーズや気持ちが理解できると言い、同じような状況にいる人の助けになりたいと願っている。
コヴナント・ハウスは、マックが知る限り、社会的擁護の対象外年齢となった若者のニーズに応える唯一の自立支援施設だという。
ディレクターのタマラ・ジョンソンによると、コヴナント・ハウス・ワシントンでは2014年、そうした若者53人を受け入れた。ジョンソンはまた、コヴナント・ハウスを利用する若者の多くがGEDプログラムやキャリア・サービスも利用していると述べる。
社会的養護制度の庇護下にあった時期も、マックの境遇は不安定だったと彼女は言う。
担当機関が彼女の処遇を変えなければならなくなった時、「バス・ステーションでひと晩過ごし、次の日の朝に電話してくるように」求められたと彼女は言う。新しい里親と反りが合わず、その家庭から逃げ出した時のことを、マックは思い出していた。
マックは、自身の経験を他の人たちに伝えることによって、対象年齢外となり社会的養護下から出される若者たちが直面する現実を広く知ってもらえることを願っている。
支援側が理解すべき点は、制度から外れた若者たちは「自分たちの未来を築こうとしているが、困難な過去がある場合にそれは簡単なことではない」ということなのだ。
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