2015年INSPグローバル・ストリートペーパー・サミットでは、世界中からストリートペーパーの代表者らが何百人とシアトルに集結し、情熱的に意見や改革案を出し合った。その中に、デンマークの『フス・フォービ(Hus Forbi)』販売者ヘンリック・ソンダーガードと、地元の『リアル・チェンジ(Real Change)』販売者の中でも特に意欲的で成功しているシャロン・ジョーンズもいた。シアトル大学近くの芝生の上で、2人は販売者としての課題やメリットについて語り合った。
文:ポール・ストルーブ・ニールセン、ヘンリック・ソンダーガード
シャロン・ジョーンズは小柄ながら、意志が強く人当たりのいい雰囲気の女性だ。笑顔が温かく親しみに溢れているので、こういう女性こそが『リアル・チェンジ(Real Change)』(アメリカ北西部のワシントン州シアトルで発行されているストリートペーパー)を数多く売り上げ、そのアンバサダーとしても適任なのだとすぐに納得がいく。
『リアル・チェンジ(Real Change)』は2015年INSP(国際ストリートペーパーネットワーク)グローバル・ストリートペーパー・サミットの共催者で、デンマークのストリートペーパー『フス・フォービ(Hus Forbi)』がINSPに加盟していることもあり、私(ヘンリック・ソンダーガード)は理事のひとりとして参加した。シャロンにもこのサミットで出会った。
シャロンと私にはいくつか共通点がある。まず、2人ともメディアに顔が出ていることだ。シャロンはそのカリスマ性のある外見で、シアトルでホームレス問題が話題に上るといろいろな意味で注目の的となる。私は、しばらくの間リアリティ番組のスターだった。「マイ・オーディエンス」という番組に出てから「ホームレス・ヘンリック」として、デンマークでは知られる存在となった。当時、私はホームレスで、アパートの提供を受けてそれを受けるように観客たちから勧められた。今もそこに住んでいる。
今現在ホームレス、以前ホームレスだった、または社会的弱者であれば、デンマークで『フス・フォービ(Hus Forbi)』の販売者になれる。シャロンの場合は、社会的弱者に分類されるのだろう。私と同じく、彼女も住むアパートがある。しかし、シャロンは、住宅問題が深刻なシアトルで自らの生活の軸を路上に置き、ホームレスの人たちと共にいる。この街では、公園や、交通量の多い道路の囲まれた小さな緑地でも、ホームレスたちがテントを張っている。郊外には、よく組織されたテント村があるくらいだ。シャロンはよく、テントに住む人たちに声を掛ける。
公園に住む
「シアトルに来るまで、ホームレスを見たことがなかった。すぐそこの、あの公園にホームレスの人たちが住んでいて、『ここでなにをしてるんですか? どうしてここに?』って聞いたんだ。一度も路上で生活したことがなかったからね。私はワンルームのアパートに住んでいるんだけど、前はホームレスの人たちを家に連れてきてたりしてたよ。彼らはテレビを見たりしてしばらくの間寛いでたね。でも、毎回、靴は脱ぐようにお願いしてた。だから、10年以上同じカーペットを使ってるけど、今でも新品に見えるよ」と、シャロンは言う。
シャロンは、2004年からずっと『リアル・チェンジ(Real Change)』の販売を続けている。
「仕事がなかなか見つからなくて、そしたら、友達が『リアル・チェンジを売るっていう方法があるじゃない!』って言ってきて。その当時、1冊1ドルだったんだよね。『仕事は欲しいけど、1ドルの雑誌を売るために雨の日も雪の日も外に立つのは嫌』と答えたはものの、結局、そのオフィスに行って、今は、手にあるものが何であれ、それを売ってるよ。600部以上の売り上げのある販売者で構成されるトップ600クラブにも名前を連ねてる。とにかくどこに行ったってこの雑誌を売ってる」と、シャロンは話す。
「制限はないのか?」と私が聞く。デンマークでは、1週間で販売できる部数は175部と上限が決まっている。というのも、販売者には生活保護費が支給されていて、販売活動も追加収入を得るためだけの活動だからだ。
シャロンの答えは、リアル・チェンジの場合、何部売ってもいいことになっているというものだった。
続けて、販売している時に周りの人から好意的な対応をしてもらえるか聞いてみた。デンマークではスーパーとトラブルになることがたまにある。スーパーとしては、入り口のところに立っていて欲しくないからだ。
「たまに、コーヒーやサンドイッチを差し入れてくれる人たちがいる」と、シャロン。「ある男性は聖書をくれたんだけど、現金が挟んであったわ。それと、人に向かって大声を出さない。『リアル・チェンジ、リアル・チェンジ!』って言うだけ。販売者の中には、追いかける人もいるんだよね」
人との出会い
シャロンに言った。「僕も同じだ。人と会うのが楽しくて。みんなおしゃべりしに来てくれるよ。それがご褒美だね」
「ほとんどの人がいい人だよ。そのまま立ち去ったとしても、『おはようございます』って声を掛ける。向こうは話したい気分じゃないかもしれないけど、こっちはもう声に出しちゃってるし。そうでない人たちとはいろんな話をするよ。どんなささいなことでもね」と、シャロンは言う。
「君は強いんだね、きっと。600部売るだけじゃなくて、ましてや、フス・フォービは月刊誌でリアル・チェンジは週刊誌なのに、その上清掃の仕事もしてるんだから」
「私は生活保護を受けていないから。パイク・マーケットでオフィスの清掃をやってるんだけど、同僚には私より体の弱い高齢者の方もいるよ。バッファロー・ワイルド・ウィングス[編集注:地元のレストラン]でも清掃の仕事をしてるけど、本業はリアル・チェンジの販売かな」
「お客さんたちはみんなすごく親切で、服とかいろいろくれるよ。向こうから私に会いに来るんだ。雑誌を買いにね。まるで磁石のよう。私は、たくさんの人をリアル・チェンジの世界に引き込むんだ。ただそこにいて憐れんで欲しくなんかないからね。今も屋根のあるとこに住めて、リアル・チェンジに感謝しなくちゃね。リアル・チェンジがなければアパートになんか住めてなかっただろうから」
愛を広める
「私はたくさん祈りを捧げるよ。イエス様を愛してる。イエス様のおかげでいつでも喜びを感じられる。そのおかげで、ユーモアのセンスもなくさずに済んでいる。どちらかと言えばハッピーでいたいし、愛を広めたい。いつでも笑顔で『おはようございます』って言うだけでいい。それがアメリカ流。それに、簡単にできることだしね!」
「笑顔を作れない人は、むすっとしてるでしょ。すごく覇気がない。それってかなり気の毒。なんて顔してるの!ちょっと、笑って見せなさいよ!」と、シャロンは笑う。
この対談の前日にシャロンと初めて会った時、彼女はサッカーのジャージを着ていた。今日の私は贔屓のサッカーチームのジャージを着ていて、シャロンはリアル・チェンジのTシャツを着ている。
「シャロンはスポーツファンだよね」と、私。「僕はサッカーが好きで、首都郊外のブロンビーのチームのサポーターなんだ。シアトルのサウンダーズはアメリカのチャンピオンチームだけど、応援してる?」
「今はサッカーよりもアメフトに興味があるかな。シーホークスのファンとトップ・ポット・ドーナツで会うと、私のジャージを見て、『行け!ホークス!』って言ってくるよ。シーホークスがスーパーボールに出た時からかな。スポーツはもちろん、いろんなことを話すよ」と、シャロンは言う。
自分たちは2人ともサミットの参加者で、次のイベントの時間が迫っている。雑誌を交換し合って、シアトル大学の講堂に向かって歩いていると、別の販売者が来てシャロンに挨拶をした。
「彼は私のところにいるの」と、シャロンは私に説明すると、その販売者に向かってこう聞いた。「なにをしないといけないんだっけ?」
彼の返事はこうだ。「靴を脱ぐんだろ」
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