生まれたての赤ちゃん遺棄、虐待を防ぐ「赤ちゃんポスト」の10年。どんな人が、なぜポストを利用する?

10年前、赤ちゃん遺棄、虐待を防ぐために熊本の慈恵病院に「赤ちゃんポスト」が誕生したとき、「子捨てを助長するとは何事か」など、賛否両論が巻き起こった。

その存在はニュースにもなり、多くの人の知るところとなったが、実際の利用実態やその後の運営については当時ほどクローズアップされることは少ない。
本誌303号の特集では、「赤ちゃんポスト」の仕組みや預けに来る人の様子や利用状況について掲載されている。

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「赤ちゃんポスト」はその是非をめぐり、今なおさまざまな意見がある。少しネットで調べただけでも、反対派の意見として下記のようなものが出てくる。

  • 「子捨てを助長し、捨てられる子が増える可能性がある」
  • 「なぜ中絶をしない?育てられないならなぜ子どもを作る?」
  • 「ほかの手段で支援すべきではないか」
  • 「捨てられた子の将来が心配。里親に育てられても幸せとは限らない」

これらについて、それぞれ本誌記事を一部抜粋しつつ、考えてみたい。

「子捨てを助長し、捨てられる子が増える可能性がある」?

(ゆりかごへの)預け入れ件数は当初に比べると減りつつある

預け入れは08年度の25件をピークに、年間10人前後まで減った

子捨てを助長しているならば、預け入れ数は増え続けているはずだが、そうはなっていない。
もちろん、慈恵病院が行っている他の取り組みが功を奏しているという状況もあるだろうが、そもそもこの特集で「どのように利用されるか」を読むと「無責任に子どもを作って、安易にポストに子どもを連れてくる」というようなことはないことがわかる。

「なぜ中絶をしない?そもそも育てられないならなぜ子どもを作る?」?

たとえば、人工妊娠中絶が可能な21週6日を過ぎた後に、パートナーから突然妻子がいることを告げられ、連絡が途絶えてしまう。
貧困状態にあり、人間関係も希薄で、相談できる相手も病院に行くお金もなく、そのまま自宅出産を迎える…

見出しの「「なぜ中絶を~」に挙げたような反論は、上記のようなケースを想定していない。
「自分だったら絶対しない。子どもは捨てられるべきではない」というのは正論だ。
ただし「自分だったら」という仮定をする際に、自分はゆりかごを利用する女性たちとは置かれた状況が異なる可能性があるかもしれない…ということに心を配る必要がある。なぜ女性たちがゆりかごを訪れるのか、その事情は複雑に絡み合っており、利用する女性だけを責めることはできないことが多い。
聞き取り結果の詳細は本誌にて確認されたい。

「ほかの手段で支援すべきではないか」?

→赤ちゃんポストを設置している慈恵病院では、「SOS赤ちゃんとお母さんの妊娠相談」(24時間対応、フリーダイヤル)も実施している。

ゆりかご開設初年度501件だったSOS電話への相談件数は増え続け、16年度は6000件を超える見通しだという。

6000件。単純計算で毎日16件以上である。
これら相談業務は、「こうのとりのゆりかご基金」に寄せられた寄付で賄っているが、それでも驚くほどの金額を病院が負担していることが、本誌を読むとわかる。1病院が負担する金額ではないのでは・・・と考えさせられる。

SOS赤ちゃんとお母さんの妊娠相談
  http://ninshin-sos.jp/

0120-783-449

「捨てられた子の将来が心配。里親に育てられても幸せとは限らない」?

児童相談所の判断でゆりかごに預けられた子どもが実母のもとに帰された後、どうなったか。また、養親に育てられた子たちは、どのように育てられどう思うことが多いのか、ということも本誌にて紹介されている。

なお補足すると、虐待の件数は年々増加しており、2016年8月に厚生労働省が発表した平成27年度の児童相談所での児童虐待相談対応件数は速報値で10万件を突破し、過去最多となっている。このような状況においてもなお、実親が育てるべき…とはとても言えないのではないだろうか。

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本誌では、ドイツで「赤ちゃんポスト」が開設して以来10年以上その研究をしている千葉経済大学短期大学部准教授の柏木恭典さんにドイツの赤ちゃんポストとその効果、母子サポートの仕組みについても話をお伺いしています。
ぜひ路上にて本誌303号をお買い求めください。

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<柏木恭典さんの著作>  

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