違法ビジネスから足を洗った2人のその後:身を助けるのは貯金の額ではなく、いかに人々のためのビジネスで工夫するか

犯罪組織に一度入ってしまうと、 “早死に” か “刑務所行き” 以外に人生の選択肢などほとんどないと思われがちだ。 しかし世界を見渡してみても、こうした先入観が当てはまるのはごく一部に過ぎず、その世界から足を洗った後は社会の一員として過ごしているケースも多い*。私がニカラグアで実施した長期的リサーチからも、犯罪組織にいたときの経験を現業に活かしている者もいれば、それなりの暮らしをしている者もいた。


 *参照:『Leaving the Gang: Logging Off and Moving On』by Scott H.Decker/David C.Pyrooz (November 2011)

スティーヴン・レヴィットとスティーヴン・J.ダブナーは著書『ヤバい経済学:悪ガキ教授が世の裏側を探検する(原題:Freakonomics)』の中で、犯罪組織メンバーらが麻薬取引で受け取る利益がいかにわずかなものであるかを明確に示した。特に米国では、麻薬取引に関わる圧倒的大多数の人間の稼ぎは最低賃金を下回り、それ相応の報酬を受け取っているのはリーダー格の人たちだけと述べている。これはすべてのケースに当てはまるわけではないが、麻薬組織内で利益が平等に分配されていないことは確かだ。

gun-1371004_1280
© Pixabay

さらに、私はそういった「仕事」から足を洗った後の人生における「長期的なメリット」には大きなばらつきがあることを調査で明らかにした。 ニカラグアの首都マナグアの貧困地区ルイス・ファノル・エルナンデスに暮らす元麻薬組織メンバー二人が辿った対照的な人生を見てみよう。

貯蓄ナシの元麻薬売人が、トルティーヤ配達ビジネスを展開

2010年頃にコカインの一種「クラック」の売人をしていたミルトンは、人目につかないよう “隠れて” 薬物を売っていた。つまり、 路上には出ず、常連から携帯でメッセージが来たら自転車で “配達” するかたちだ。

稼いだお金は貯蓄することなく、派手に使っていた。 しかし2011年、元締めの逮捕を受けこのエリアの麻薬ビジネスは崩壊。これを機に、彼も改心した。 仕事を失った彼は、次の仕事としてトルティーヤ*の販売を始めることにした。

*すり潰したトウモロコシから作る薄焼きパン。メキシコ、中米の伝統料理。

food-450671_1280
© Pixabay

「トルティーヤの店を選んだ理由? 母親がやっていたからです。母も歳をとり引退を考えていたので、僕が引き継ぐよと掛け合ったんです」

ミルトンいわく、一般的な店は早朝にトルティーヤを作る。そのため、売りに出る頃には硬くなり冷めきって「誰も食べたくないような代物になっている」。 しかし彼には、焼きたてホカホカのトルティーヤを売る良い考えがあった。

「お客さんからテキストメッセージをもらい次第、焼きたてのトルティーヤをお客さんに直接届ければいいんじゃないかって」

自身満々で新しいビジネスに取り掛かったミルトン。 商品サンプルを見せてまわり、焼き立てのトルティーヤが食べたくなったらメッセージを送ってと地域の人たちに伝えた。 「最初はごくわずかな人からしか反応がありませんでしたが、口コミで広まり、またたく間に私ひとりでは対応しきれないほど注文が入るようになりました」

ニカラグアのトルティーヤ販売においては、このような配達サービスは前例がなかったため、ミルトンのお店はわずかの間にトルティーヤの作り手を5人雇い、配達用バイクを1台購入するまでに急成長した。

今や毎日3000枚ものトルティーヤを焼くほどまでになった彼の店は、ルイス・ファノル・エルナンデス地区とその周辺のトルティーヤ市場を完全に独占状態だ。ミルトンはニカラグアの平均を上回る収入を得るようになった。

通常、トルティーヤ販売は家業として代々引き継がれるもので利益率は低い。そんな分野でミルトンは、「モバイルテクノロジーの活用」と「配送システム」を活かし、収益性を大きく改善させたというわけだ。

貯蓄アリの元麻薬売人は、行き過ぎた不動産ビジネスで大失敗

その一方で、犯罪組織から足を洗った後のやり方がマズく、失敗に至った人もいる。 2000年から06年にかけて同地区で麻薬取引に関わっていたビスマルクの人生はその典型例だ。

ビスマルクはミルトンのような浪費生活は送らず、麻薬取引で得た稼ぎの大半を貯金にまわしていた。定期的に不動産に投資し、家を購入して賃貸物件としたり、同地区に安価なホステルを建てるなどしていた。

hermes
Photo by Hermes Rivera on Unsplash

売人をやめた後も、それら所有する不動産によって月々の収入は十分に保障されていた。「麻薬の売人でいるより実業家の方がずっと安全」と自分に言い聞かせ、それなりに満足していた。

しかし彼が他の不動産オーナーと違ったのは、犯罪組織に属していたことを利用し、物件の借り手を脅し、萎縮させ、ときには暴力をちらつかせて家賃収入を得ていたこと。このやり方が “もろ刃の剣” となり、彼は数年もしないうちに、最初に成功をつかんだやり方によって今度は自身が自宅を除くすべての不動産を失ってしまったのだ。所有していたいくつかの物件は犯罪組織の元メンバーの借り手によって取り上げられ、彼らは結託してビスマルクを脅し、痛めつけた。所有していたホステルは、滞在していた元軍人らに全焼させられた。家賃が払えないときにビスマルクから非情な仕打ちを受けていたことへの恨みを晴らしたのだ。

zoltan
Photo by Zoltan Tasi on Unsplash

暗い過去の経験をどう未来に活かすか

ミルトンとビスマルクの売人引退後の人生は、非常に対照的だ。たとえ犯罪組織の元メンバーであったとしても、過去の経験をどういった場でいかに活用するかで、結果は大きく違ってくる。やり方さえ工夫すれば、ポジティブに転化し、社会に貢献していける可能性もあるということだ。社会ができることと言えば、そうした人たちへの一貫した政策および機会の提供ということであろう。

By Dennis Rodgers(ジュネーブ国際開発高等研究所の人類学・社会学研究教授)
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

「仕事」関連記事

少年鑑別所・少年院を経た少年が「働き続ける」ようになるまで-矯正施設スタディツアー資料より

参考書籍

ヤバい経済学:悪ガキ教授が世の裏側を探検する










ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?

ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。
提携している国際ストリートペーパー(INSP)や『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの記事を翻訳してお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。

募集概要はこちら