気候変動問題で真っ先に被害を被るのは社会的弱者ー20代女性が”声を届ける仕組み”を変革し、数々の賞を受賞

 12月、南半球は夏真っ盛り。2019年、オーストラリアの全国平均気温が40.9℃を記録し、史上最高気温となったことがニュースになった。エリアによっては50度に迫り、山火事も続き、気候変動による「非常事態宣言」が出される状況となっている。そんな厳しい環境変化のなかで、割を食らいやすいのはたいてい社会的弱者やマイノリティだ。


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Image by falco from Pixabay 

そんな事態に一石を投じようと立ち上がったのが「SEED」という組織。これはオーストラリア先住民の若者たちによる、再生可能エネルギーを原動力として公正かつ持続可能な未来を築くことを目指す団体だ。今回紹介するのはこの組織の発起人、先住民バンジャラン族の女性アメリア・テルフォード(24)。その功績からすでに、オーストラリア先住民の歴史や文化を守る組織 NAIDOC より「ユース・オブ・ザ・イヤー賞2014」、2015年には「ボブ・ブラウン若者環境活動家賞」、「オーストラリア地域若手環境保護家賞」など数々の賞に輝いている。

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写真:アメリア・テルフォード 

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生まれ育った環境で培われた価値観

先住民族の女性として生を受けるということは、(望むと望まざるとにかかわらず)政治ととても近い存在にあります。特に私の家族は、自分たちの土地や互いのことを非常に大切に思う価値観を持っています。「責任」を感じるだけでなく実際に「行動」することを、家族や友人たちから学べましたから、とても運が良かったです。

初めて「嘆願書」なるものに署名したのは高校生の時ですが、いわゆる「社会活動」を始めたのはそれよりもずっと前です。自分が育ったバンジャラン地域*1 にはとても熱い思い入れがあり、若者の私でも何かできることがあるのではと、まずは「オーストラリア若者気候連合*2」でボランティア活動を始めたんです。国内のみならず世界で起きている大きなムーブメントに関われていることを実感でき、その経験が今の原点になっていると思います。

*1 シドニーから北東に約550km。ニューサウスウェルズの北岸。
*2 正式名称は Australian Youth Climate Coalition。オーストラリア最大の若者主導の気候危機と闘う組織。

ボランティアメンバーの中に先住民の人たちはごくわずかしかいませんでした。でも、土地の権利から、採掘プロジェクトに関する意思決定、医療・社会的影響・海面上昇など、議論している諸問題を見てみると、圧倒的に被害を被っているのは先住民の人たち。何かにつけて最初に影響を被るのは社会的に弱い人たちなのだと痛感しました。

先住民の声を届ける組織「SEED」を設立

そこで、先住民が帰属感やアイデンティティを感じられる場、そして自分たちが決定権を持つ “先住民による先住民のための” 仕事を生み出していかなければと、2014年7月に「SEED」を立ち上げました。

すぐに状況が大きく変わり出しました。力になりたいと言ってくれる若者が増えていき、先住民コミュニティの中での評判も上々。おかげで自分たちの意見を届けやすくなり…突如としていろんなことが花を咲かせ始めたようでした。

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Image by sandid from Pixabay 

「SEED(種)」という言葉にはいろんな意味が込められています。オーストラリアという国とのつながりや、何千年も存在してきた土地を守り続ける営みであり、自分たちでムーブメントを大きくしていけるという意味合いも。とにかく、世界の強力な意思決定者やその力と対峙していくには、「人々の力によるムーブメント」が必要だと確信しています。

今日下される決定の数々、その結果を背負っていくのは若者たちですから、議論の場に若者の席が用意されていることがとても重要です。それに先住民社会においては人口構成に占める若者の割合が高いので*3 、豊富な知見を持っている年長者たちの存在はとても貴重。彼らから文化やさまざまな物語を「学ぶ」という姿勢がとても大切です。彼らが人生をかけて守り抜いてきたものをさらにステップアップさせられるかどうかが、私たち若者たちにかかっているのですから。

*3 オーストラリアでの先住民人口は79万8400人、国全体の人口の2.5%を占める。非先住民人口と比べると、出生率および死亡率ともに高いため、若い人が多く高齢者が少ない人口構成。年齢中央値は非先住民人口が37.8歳なのに対し、先住民は23歳(数字はすべて2016年時点)。
参照: Age Structure

へこたれそうなときに自分を支えてくれるもの

時にはやりきれなさを感じることもあります。そんな時は、今現在そして歴史的にも驚異的な変化を起こしてきた「若者の物語」に思いを馳せます。するとまた、希望が湧いてくるんです。

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Image by Cindy Lever from Pixabay 

やってみないと分からないことも多々あります。でも一つ言えるのは「やらない」という選択肢はないんです。自分の子どもに胸を張って言いたいですから、「あなたにより良い世界を残すため、できる限りのことはしたよ」って。

最近は短編ドキュメンタリー映画『Water is Life』(日本未公開)の上映会を開催しています(すでに約50地域で開催)。これはノーザン・テリトリー*4で行われている「フラッキング*5」というガス採掘手段が若者世代にいかに悪影響を及ぼすものであるかを描いた作品で、SEED のことも出てきます。 政府への発言力を高める、すばらしい作品です。

『Water is Life』

Water is Life from Seed Mob on Vimeo.

*4 オーストラリア北部の準州。人口20万人。
*5 天然ガスやシェールガスの採掘手段。化学物質を混ぜた大量の水が使用されるため、環境汚染や健康被害の可能性があるとされている。

物語を語る、コミュニティ主導のキャンペーンを行う…こうしたムーブメントによって影響をもたらす。それを実感できるのは、とてもありがたいことです。

家庭菜園にもハマっていていろんな野菜を作ってます。 最近はサーフィン熱も再燃してるかな。浜から海に出る前の雰囲気が大好きなんです。人間よりはるかに大きな力を持つ大自然を目の前にすると、何としてもこれを守らなければと思います。

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Image by bleusky7683 from Pixabay 

By Katherine Smyrk
Courtesy of The Big Issue Australia / INSP.ngo

SEED
https://www.seedmob.org.au

Australian Youth Climate Coalition
https://www.aycc.org.au

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