身内と一緒に仕事をするのはどんな感じだろう。さらにそれが双子で、人生の半分以上となったら。生活のあらゆる面で濃くかかわり合うこととなり、どこからどこまでが姉妹としてなのか仕事なのか、わからなくなりそうだ。そして二人とも同性愛者で、ミュージシャンで、活動家。生き方まで似てくると、互いの存在なしには生きていけないくらいかもしれない。
しかしそこまで人生を共にしながらも、20年のキャリアを振り返ってみるとお互いについて知らないことがまだまだあった。それが、ティーガン&サラが自叙伝『High School』(未邦訳)を執筆してみての思いだ。過去を振り返る“だけ”のつもりだった出版プロジェクトが、それ以上のものとなったようだ。
「初期の頃、私たちは自分が同性愛者であることも、隠れて女の子たちと関係を持ってきたこともお互い口にしませんでした。」とサラは言う。「大人になってからもよく『でも、自分が同性愛者と気づいたときに真っ先に話したのはティーガンなんでしょ』と言われましたが、その都度、私は『とんでもない!』と返してきました」
「ティーガンも私と同じように苦しみ、隠れて女の子たちと関係を持っていたと思ってました。でもそれは勝手な思い込みだったんです。ティーガンは自分のからだやセクシュアリティに偏見を抱いておらず、私みたいに不安に駆られることなく、あるがままに自分の人生を生きていた。私たちはこんなに似てるのに、こんなにも違うのかと、自叙伝を書くことで気づき、驚かされました」
9枚目のアルバム『Hey, I’m Just Like You』の誕生秘話
『High School』を執筆するにあたり、二人は昔のアーカイブを引っ張り出した。カナダのカルガリーで暮らしていた10代の頃の二人。一緒に作った楽曲の録音やライブ映像をあらためてじっくり見た。
「ライブ映像が特に良かったです」とサラ。「若い頃の自分たちは、まさにパンクロックをしてるんですよね。”これが私たちの音楽!最高!”というかんじで。 思ってたよりずっとよかったし、堂々としていました」
「当時の楽曲もかなり刺激的でエネルギッシュ、フックがあって聴き心地もよくて。もしかしたらこれを使って何かできるんじゃない?と思うようになりました。昔のままのスタイルではなく、新たな酸素を送り込んで、こんな風にもなるよと提示してみるのはどうかなって」
そして完成したのが、ティーガン&サラの9枚目のアルバム『Hey, I’m Just Like You』だ。
10代の頃に作った楽曲の中から12曲を選び出し、彼女たちならではのシンセポップ(シンセサイザーを主としたポピュラー音楽のスタイル)で再解釈した。筋金入りのファンなら昔のアコースティックなデモ音源を使っていることに気付くだろうが、あくまで“今”のティーガン&サラが20年前の、音楽を通して世界を理解しようとしていた無秩序なあの頃を思い出して作った音楽だ。
Tegan and Sara – Hey, I’m Just Like You [Official Lyric Video]
大人向け思春期コメディ・アニメ「ビッグ・マウス」(Netflix)、性に目覚める女子を大胆に描いたコメディ番組「PEN15」(Hulu)など、“10代の頃を懐かしむ”というジャンルが最近のポップカルチャーを盛り上げているが、そこにぴったりはまるアルバムとなった。”思春期の旅”を再解釈し、歳を重ねてさまざまな知識を身につけたリスナーたちに届けなおしたかたちだ。
性的マイノリティの権利向上を目指して
ティーガン&サラにとって10代の頃を振り返るというのは、単に思い出に耽るだけのものではなく、クィア*1を代弁するに至った「今」に続く道筋をあらためて理解するきっかけともなった。
*1 同性愛者などを含むセクシャルマイノリティーの総称。
「クィアのストーリーが主要メディアなどで語られるようになったのはここ数十年ほど、まだまだ全然足りてません」
「私たちも歳を重ねて分かってきたのですが、お客さんたちはいろんな年齢の自分たちが映し出されたものを見たいと思っているのです。恋愛について、姉妹の関係性について、私たちの世界観などをたくさん歌にしてきました。でも心の内では、クィアのアーティストとして自分のことを理解しようともがいてきた姿は全然語ることができていないとも感じていました。今回は“昔を懐かしむ”アルバムであると同時に、そんな自分たちのことを理解するための作品にもなってます」
ティーガン&サラは活動家でもあり、2016年にはLGBTQ+*2 の少女や女性たちの権利のために闘う「ティーガン&サラ基金」を創設した。活動の火が点いたときのことをサラはよく覚えていると言う。
*2 L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)の人々に加えてそれぞれのカテゴリーにあてはまらず、セクシャリティを決めない人たち Q(クィア、クェスチョニング)を含めた呼称。
「いろいろな意味で、当時の私たちは記憶にあるよりもずっと将来に希望を持っていたんです」
「10代の若者たちの多くは、”大人は何もかもをめちゃめちゃにして……自分たちのほうがずっとマシ!” くらいに思ってます。この地球やこの世界を台無しにし、やり方を間違え、人をひどい目に遭わせ、間違いを繰り返す大人たちにとにかく厳しい目を向ける、それこそが若さなのですよね」
「私たちも自分たちならパイオニアになれる、ものごとを変えられると思っていました。いつもいつも率直な物言いをしていたわけではありませんが、若さがあったからこそ将来への弾みがついたのは確かです」。
ティーガン&サラ
1980年生まれの双子姉妹ティーガン&サラが98年に結成したカナダのインディーポップバンド 。これまでに9枚のアルバムを発表し、ライブ・アルバム『Get Along』は2012年グラミー賞ノミネート。2019年9月にアルバム『Hey, I’m Just Like You』と自叙伝『High School』を発表。
By Giselle Au-Nhien Nguyen
Courtesy of The Big Issue Australia / INSP.ngo
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