ロシア軍のウクライナ侵攻(2022年2月24日)が始まって以降、国際ストリートペーパーネットワーク*(International Network of Street Papers/INSP)では、現地の一般市民、特に社会的弱者とされる人々の状況を把握するため、かつて当ネットワークに属していたウクライナ国内の諸団体へのコンタクトを試みてきた。ウクライナではこれまで5つのストリートペーパー事業が展開されていたが、いずれも数年前から発行停止されているようだ。
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今週(2月28日の週)になって、INSPはウクライナ西部の都市チェルノフツィに拠点を置くNGO「ナロドナ・ドポモハ(Narodna Dopomoha) *1」のメンバーと連絡がついた。この団体では、2014年にウクライナ東部のドンバス地方でロシア軍との武力抗争が始まって以降、国内避難民の支援を行ってきたが、今回のロシア軍侵攻を受けて押し寄せる避難民のケアに奔走している。この悲惨かつ不安だらけの情勢の中でどんな活動を行っているのか、プロジェクトリーダーの一人アナスタシア・ベリゼに話を聞いた。
*1 団体Facebookページ: https://www.facebook.com/NarodnaDopomoha/
当団体は、かつて首都キエフで発行されていたストリートペーパー『ガゼタ・キエフ(Gazeta Kiev)』ともつながりがあった(数年前に発行停止)。
INSP:現時点で団体の活動はどんな状況ですか?
アナスタシア・ベリゼ:NGOとしての活動を引き続き行っています。かつてはホームレス支援をメインとしていたのですが、2014年にウクライナ東部での紛争が始まってからは、国内避難民の支援にも活動の幅を広げ、数々のプロジェクトを実施してきました。そして今は、東部に限らず、キエフなど戦闘が起きている地域から避難者たちが押し寄せているので、そのケアを進めています。
― 具体的にはどんな支援を?
現在、チェルノフツィには国内各地から避難してきた人たちが6千人近くいて、その数は日に日に増えています。避難者に安心してもらえるよう、温かい飲み物、食事、眠れる場所の提供を進めています。ほとんどの人々が3〜4日かけてここにたどり着くのですから。
この街で家やシェルターが見つかるよう、いろんな方法でサポートしています。街の住人や、ずっと前に避難して私たちの支援を受けてきた人たちにも協力いただいてます。市議会もたくさんの場所を準備してくれています。着の身着のままで逃げてくる人がほとんどですから、薬や衣服などの手配も急ぎ進めています。
― あなたがいる場所は安全なのですか? 戦地からはどれくらい離れているのですか?
今のところ安全です。でも戦地ははるか遠くというわけではありません。戦闘エリアは最初は1000km離れていましたが、今や500km先まで近づいています。キエフで毎日爆撃が起きていますからね。私たちがサポートしているのも、キエフやウクライナ中心部から避難してきた人がほとんどです。今のところ、チェルノフツィは軍事攻撃を受けていません。それはここがルーマニア国境、つまりEUと近いからだと言われていますが、この先どうなるかはまだ分かりません。
― ウクライナのすべての一般市民が脅かされている状況ではありますが、とりわけ、社会の片隅に追いやられている人たちへの影響はいかがですか?
現段階ではまだ何とも言えません。でも確かなのは、国内を移動してくる避難者たちは社会的弱者層だったわけではないということです。車があり、家族がいて、移動できるだけのお金がある一般市民たちです。それ以外の困窮状態にある人たちなどは、爆撃を受けている街にとどまるしかないので、途方もない苦しみを味わっていると思います。
チェルノフツィ市内に限っていうと、ホームレス支援を続けています。センターやシェルターも稼働しており、そこにいる人たちは安全です。ですが、キエフやハリコフ(2番目に大きな都市)は街が激しく破壊されています。そこにとどまっている人、特に子どものいる大家族などは、とても危険な状況です。すでに命を落とされた方もたくさんいます。
― 2014年の紛争開始から、団体の活動はどう変化したのですか?
東部での紛争が始まってからは、国内避難民の支援に取り組んでいます。とはいえ、ホームレス支援はそれとは別にずっと続けています。今回の侵攻までは、東部からの避難者はキエフなどの大都市に行き着く人がほとんどでしたから、チェルノフツィが受け入れた避難者はそれほど多いわけではありません。でも、彼らがこの街で暮らし、地域の一員となれるよう支援してきました。でもこれからは、この街やポーランド国境近くのリヴィウに国内避難民が押し寄せるとみられています。
― すでに50万人近くの人が近隣国(ルーマニア、ハンガリー、ポーランドなど)に避難したと報道されています。チェルノフツィから国外へ移った人たちはいますか?
はい、大勢の人が国境を越えて、ルーマニア、ポーランド、スロバキアへ移動しようとしています。もちろん私たちの支援者からも、一番近いルーマニアとの国境を越えて国外に逃れた人もたくさんいます。でも動員がかかっているため*2、国外に逃れられるのは女性と子どもと移動が可能な高齢者のみ。18〜60歳の男性は、動員に応じられるよう国内に残っています。
*2 2月24日、ゼレンスキー大統領は国民総動員令に署名した。
― 今後について、どんなお気持ちですか?
もちろん平和を望んでいます。でも率直なところ、ロシアはしばらく攻撃を止めないでしょう。ベラルーシで行われたウクライナとロシアの政府間交渉は、双方の隔たりが大きく、合意に至りませんでしたから。日を追うごとに、さらに大勢の人々がチェルノフツィにやって来るでしょう。ハリコフはすでにひどいありさまです。キエフも同じ道をたどるなら、ウクライナは非常に苦しい立場に追い込まれます。
― 他の国にいる人々は、貴団体などをどういったかたちでサポートできるでしょうか?
まず何よりも、ウクライナ情勢についてできるだけたくさん語り合ってほしいです。これはウクライナとロシアだけの問題ではありません。プーチン大統領の“もくろみ”からすると、もっと広い範囲が被害を受けるおそれもあるのです。国外の提携団体(オーストリア、ドイツなど)が支援金を届けてくれています。この悲惨な状況をどうぞ見捨てないでください。21世紀になって戦争だなんて、あってはならないことです。
By Tony Inglis
Courtesy of the International Network of Street Papers
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THE BIG ISSUE JAPAN359号(2019-05-15 発売)
国際記事として「ウクライナ、新たな大統領はコメディ俳優 希望の見えない紛争地帯に平和は訪れるか?」を掲載
https://www.bigissue.jp/backnumber/359/
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