自治体による「合同葬儀」の必要性ー貧困や孤独で葬儀ができない市民が増えている

 考えたくないことだが、毎日の生活でもギリギリなところへ、親族の訃報があったら…。日本では生活困窮などで葬儀費用が支払えない場合に「葬祭扶助制度」が利用できることがある。多くの場合はいわゆる「直葬」のかたちがとられ、通夜や葬儀・告別式は行えないものの、最低限の“お見送り”はできる。しかし、直葬では別れの時間が少なすぎると感じる人や、葬儀に参列できない人も出てくる。 オーストリアのザルツブルク市では2018年より、そんな人たちのために「合同葬儀」が執り行われている。地元『アプロポ』誌が取材した。

埋葬費用がなく市が負担するケースが増加

自治体への埋葬依頼は増加傾向にあり、故人に先立つものがない場合、ザルツブルグ市が費用負担して埋葬を行っている。連絡が途絶えたため強制的に家に立ち入ったところ遺体が発見されたケース、後に残された配偶者が直葬にかかる費用約2千ユーロ(約27万円)を払えなかったケースなどだ。自治体の埋葬担当者ヴェレナ・ウェングラーによると、遺族が費用負担を拒むケースもあるという。「父親が亡くなり、20年間音信不通だった息子から『今さら父には何の興味もない』と言われたこともあります」。だが、「親子の間にどんな確執があったのか知る由もありませんから、一方的に遺族を批判することはできません」とウェングラーは話す。

市主催で「合同葬儀」を年4回開催

埋葬費用の負担に加え、ザルツブルク市では2018年より、「合同葬儀」の取り組みを始めた。年4回開催され、取材時の葬儀では18名が弔われていた。

市営墓地の礼拝堂には、ごく控えめに花が供えられ、正面には大人の背丈ほどの白い棚があり、一つひとつの仕切りには、各故人の骨壷と名前が書かれたプレートが納められている。

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Photo courtesy of Asphalt

牧師が故人の名前を読み上げ、親族や知人が前に出て、小さなろうそくに灯りをともす。前に出る者が誰もいない場合は、自治体職員が代わりにろうそくに火をつける。地元の聖歌隊の女性3人が聖歌を歌う。
この日の礼拝堂はめずらしく満席で、通路にまで弔問客の姿があった。というのも、故人のひとりが、路上生活をしている人気パンクミュージシャンだったのだ。会葬者の半数以上(約30人)は、彼にお別れを告げに来ていた。だが、故人のうち5名は、名前を読み上げても誰も歩み出る者がいなかった。

通常の葬儀と違い、合同葬儀の参列者はお互い見ず知らずの他人だ。近所の人、親戚、昔からの友人、ソーシャルワーカーと、多様な顔ぶれが並ぶ。

ソーシャルワーカーのガビ・フーバーは、一人暮らし宅を定期的に訪問するボランティア活動の取りまとめをしている。故人の一人である男性とは数年前に知り合った。体が不自由で、つらく孤独な毎日を送っていた男性にとっては、定期的に訪れるボランティアが外の世界とのパイプ役になっていたと語る。「こうして誰かに最後のお別れを言いにきた人が集まっている。合同でお葬式をあげれば、単独でやるよりもずっと多くの人たちにお見送りしてもらえますから」。ガビは、この合同葬儀を高く評価している。

By Georg Wimmer
Translated from German by Louise Thomas
Courtesy of Apropos / International Network of Street Papers

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