ビッグイシュー販売者が高校生にオススメしたい本とは?/島根県の飯南高校の研修旅行受け入れレポート

有限会社ビッグイシュー日本では、企業や学校から依頼を受け、ホームレス問題や格差社会、ビッグイシューの活動への理解を深めるため、講義をさせていただくことがあります。

今回はスタディツアーなどの事業を手掛けるリディラバさんからのお声がけでご縁をいただき、はるばる島根県から大阪へ研修旅行として来た飯南高校2年の生徒さんたち約30人がビッグイシューの講義を受けてくれました。


厚生労働省の「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)」によると、島根県でカウントされたホームレス(路上生活者)はたったの1人。今回参加してくれたほぼすべての生徒さんが、ビッグイシューはもちろん、ホームレス状態の人を見たこともなかったそうですが、ホームレス問題について、自分に引き寄せて考えることができたでしょうか? 当日のプログラムの様子をまとめてお伝えします。

誰しも、タイミングと環境が悪ければホームレス状態になりうる

当日はスタッフの吉田から、「貧困」や「ホームレス」、「憲法」、「人権」、そしてビッグイシューの事業について解説。

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ホームレス状態になる理由は様々で、失業、病気、災害、介護離職、ギャンブル依存症など、タイミングと環境に恵まれなければ、誰もがホームレス状態になる可能性があります。

2_ホームレス状態に至る 多様な理由

「ホームレス」とは、“状態”を表す言葉に過ぎず、その人となりをあらわすものではないという話を生徒さんとのやり取りを交えながら話していきました。

講義内容動画

勤勉で友達想いだったY・Tさんがビッグイシュー販売者になった経緯

続いて、当事者からの体験談コーナー。Y・Tさんが訥々と語ります。

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JR高槻駅の販売者、Y・Tさんは福岡県出身の57歳。子どものころは本が好きで百科事典を読むのが趣味だったそう。中学生になると音楽にハマり、新聞配達のアルバイトでギターを買うなどしていました。

高校卒業後は、音楽の道に進みたいと東京の専門学校に進学。しかし失踪していた父親が体調不良だという知らせを受け、福岡に戻らざるを得なくなりました。その後母親が突然亡くなり、受け止めがたい喪失感を味わいます。

福岡では、ファーストフード店を経て建築現場の仕事に就き、17年勤続。しかし人間関係が原因で40歳を機に建設会社を辞め、派遣社員として工場などで働くようになります。

バブル期は仕事が選べるほどでしたが、しばらくしてリーマンショックの影響で派遣切りに遭い、追い打ちをかけるように東日本大震災が発生。

仲が良かった宮城県石巻市在住のバンド仲間の安否が分からなくなり、福島県内で除染作業に従事しながら被災地での支援活動に参加する日々を送ります。友人の安否がわからないまま3年経ったころ、不運なことに作業中に不慮の事故が起こり、ケガで仕事が続けられなくなってしまいました。

そうして住まいも失い、ネットカフェや簡易宿泊所(ドヤ)を利用するようになります。いよいよお金が尽きかけたとき、本好きだったY・Tさんは、かつて図書館で書籍『ビッグイシューの挑戦』を読んだことを思い出します。ためらいつつもビッグイシューの事務所に連絡し、ビッグイシューの販売者となったのでした。

本好きだったおかげでビッグイシューと繋がることのできたY・Tさんは、ビッグイシューの仕組みだけでなく、雑誌『ビッグイシュー日本版』の内容もとても気に入っています。本という文化を守り、多くの人に広めていきたい、若い人たちに本を読むことの大切さを伝えたいと願っている…と話してくれました。

生徒さんたちからの素朴な質問

日ごろの生活で聞いたこともないような経験を持つY・Tさんのリアルな話で、生徒さんたちはホームレス経験のある人の話がぐっと身近に感じたようで、さらに深掘りする質問がいくつも飛び出しました。質疑応答コーナーのやり取りを一部ピックアップします。

Q:生活保護は検討しなかったのですか。

(Y・Tさん)僕は生活保護申請をしに役所まで行きましたよ。ところが、この当時、コロナが大流行りの時期で。いわゆるたらい回しを受けまして、もうあと1週間後に来てと言われて、1週間後に行ったらまた同じように1週間後に来て、と言われたんで、「あ、これ無理なんだな」と思って諦めました。

補足:ビッグイシュー日本やビッグイシュー基金では、来訪した相談者が生活保護を希望する場合、上記のようなたらいまわしを防ぐため、生活保護申請に同行することもあります。

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Q:周りの人は、当時Y・Tさんの窮状に気づかなかったのですか。

(Y・Tさん)気づいてなかったですね。…変なプライドが邪魔するんです。今の状態を伝えたいとも思わないし、知られたくもないという気持ちがまず先に立つんですよ。

親戚がいたとしても僕はそんなに反りが合わなかったし、ぼくが困ってると言っても自分の家族の方が大事だろうと思うから、まだ頼りたくないと思っちゃう僕がいるわけです。だから、どんどんどんどん疎遠になっていって…。
僕が「助けて」って言える相手は、ビッグイシューだった。

Q: 中高生に高校生におすすめの本はありますか?

(Y・Tさん)高校生のおすすめっていうだけじゃないんだけれども、ブレイディみかこさんっていう方の本を読んでみてください。ぼく大ファンなんです。僕が言いたいこととか、感じていることに近くて。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』はベストセラーにもなったので、よかったら読んでみてください。

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当日は販売の見学も。何人かの生徒さんは実際に雑誌をもって手に立つ体験に挑戦してくれました。

生徒さんからの声

講義後のアンケートでは「おおむねネガティブだったホームレスの人へのイメージがよくなった」と答えてくれた生徒さんが多く、ポジティブな講義の感想をたくさんいただきました。

「助けてもらうこともよいことだとわかった」

「自分もY・Tさんほどではないけれど、悩んでいたので、お話を聞いて背中を押された」

「小さな“助けて”を拾えるようになりたい。縁のある人を見ておく。見ていてもらう。」

「(Y・Tさんおすすめの)ブレディみかこさんの作品を読んでみたい」

その他、たくさんの素敵な感想をいただきました。

先生からの声

関西(都会)に研修旅行に行くということで、島根県では実感できない「ホームレス」の問題から貧困問題を考えていくという、このプログラムを選びました。実際のホームレスを体験された方の生の声を聞くことができるということが、生徒にとっては、またとない機会だと思いました。私自身は、ビッグイシューさんの活動をテレビなどを通して知っていて興味がありました。

生徒たちは、「ホームレス」は、その人を表す言葉ではなく、状態を表す言葉であるという説明が、とても印象に残ったようでした。また、Y・Tさんの話を聞き、「目の前のことに向き合いながら生きていただけなのに、いつの間にかホームレス状態になるんだ」と、特別な人がホームレスになるわけではないということが驚きのようでした。

よい体験をさせていただき、ありがとうございました。

格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 

参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」

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