『14ひきのシリーズ』をはじめ、『かんがえるカエルくん』や『トガリ山のぼうけん』など、世界中で愛される絵本を生み出してきた絵本作家のいわむらかずおさんが2024年12月19日に永眠されました。『ビッグイシュー日本版』302号(2017年1月1日発売、SOLDOUT)で表紙(14ひきシリーズ)とインタビューにご協力をいただきました。
この号の表紙は、絵本『14ひきのこもりうた』の「ごはんのあとは きょうの はなし」の場面を、時間をずらして描いていただいたたものです。
いわむらさんを偲び、当時のインタビュー記事のサマリーをご紹介いたします。
幼少期の自然にあふれた原体験から
1939年に、6人きょうだいの3番目として東京で生まれたいわむらさんは、戦争が激しくなり、家族と別れて祖父母の元に疎開。幼少時代は一日の大半を田園が広がる自然の中、小川でメダカをつかまえ、木の実を食べるなどして過ごしていたと言います。その後、東京芸大に合格、NHKの幼児番組で絵を描くアルバイトに従事し、デザイナーを経て絵本作家としてデビュー。30代になり、幼少時の原風景を求めて栃木県益子町に家族で移り住み、雑木林を切り開き、家を建て、野菜だけでなく食器も手作りするという、まさに『14ひき』と同じような暮らしを家族で実践されていました。
原体験とイメージをつなぐ美術館をオープン
“自分が自然から学んだことを吸収し、絵本を作っていったような体験を読者にも”との願いから、「いわむらかずお絵本の丘美術館」を開館。古くからの友人が美術館を設計、地元の木を伐り出した木材、床は柿渋で塗装、室内の温度調整は太陽熱を活用したOMソーラーシステムを導入するなど、いわむら作品の世界観を大切につくられています。
表現において「実際に体験すること」の大切さ
いわむらさんはいつも、「何でも自分でやってみる」を実践。これは「実際に体験したことが自分の感覚として身につき、実体験とイメージの世界が結びついて初めて表現することへと繋がっていく」と考えていたからです。
インタビューでは、「コンピュータの世界は、実体験がなくても完結してしまう面があります。たとえば薪をくべてご飯を炊くことで、火の強さを加減しながら、湯気のにおいや窯の中の音で炊きあがりがわかるようになり、語感が研ぎ澄まされていく。近頃は、生きていくためのそういう感覚が乏しくなってきているのではないでしょうか」と語っておられました。
美術館では、動物観察や農作業体験など、里山の自然を体験する様々なイベントが行われ、「実体験とイメージをつなぐ場所」となっています。
あらゆる生き物が“個としての命の維持”と“命の継承”に真剣に取り組んでいると考えていたいわむらさん。そんな命の営みや人間が忘れかけている「基本的だけれど大切なこと」を、いわむらさんの絵本を通じてこどもたちにつないでいきたいものです。
いわむらさんに、感謝とともに、心からご冥福をお祈りいたします。
いわむらかずお
絵本作家。1939年、東京生まれ。東京芸術大学工学科卒業。75年に栃木県益子町に移り住む。98年に「いわむらかずお絵本の丘美術館」を開館。作品はフランス、ドイツ、スイス、中国、台湾などでも翻訳出版され、世界の子どもたちに親しまれている。『14ひきのあさごはん』で絵本にっぽん賞、『14ひきのやまいも』などで小学館絵画賞、『ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ』でサンケイ児童出版文化賞、『かんがえるカエルくん』で講談社出版文化賞絵本賞受賞。仏芸術文化勲章シュヴァリエ受章。
いわむらかずお絵本の丘美術館
住所:〒324−0611栃木県那須郡那珂川町小砂3097
Tel:0287-92-5514
Fax:0287-92-1818
ホームページ:http://ehonnooka.com/
Instagram:https://www.instagram.com/ehonnooka/
302号でご紹介していたいわむらかずおさんの本
- 『14ひきのあさごはん』/童心社
- 『かんがえるカエルくん』/福音館書店
- 『ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ』/偕成社
- 『ふうとはなとうし』/童心社
- 『りんごがひとつ』/童心社
- 『もりのあちゃん』/至光社
- 『カルちゃんエルくん ねむいねむい』/ひさかたチャイルド
- 『風の草原 トガリ山のぼうけん』/理論社