路上生活者を排除しても都市は安全にならないーー公共空間の”安心”を考える

都市に暮らす人たちは「路上生活者がいると不安」とみなしがちだが、路上で不安を感じるのはホームレス当事者も同じ。公共空間の安全性および脅威軽減策について提言を行っている社会学者のティム・ルーカスは、当事者の視点に立った対策の必要性を訴える。ドイツ・ドルトムントのストリートペーパー『bodo』が話を聞いた。

『bodo』:公共空間の安全性を考える上で、路上生活者たちの存在はどの程度影響しているのでしょうか?

ティム・ルーカス:第一に、安全とは人間の基本的ニーズです。そして、私たちが感じる“不安感”と“実際の被害リスク”とは必ずしも比例していません。安心感は、個人的経験、メディア、社会政治的な議論に大きく左右され、路上生活者がもたらす客観的脅威とは大抵一致していません。

大都市で見られる路上生活者や薬物依存症者の数がかなり急増するなか、人々が街なかで遭遇する“不快”への許容度は低下するばかりです。そもそも都市というのは、未知のものや多様性、場合によっては逸脱した行動さえも内包する空間であるべきで、そうした要素をすべて排除してしまうと、都市の成り立ちそのものを壊してしまうことになります。

Photo by Bo Tackenberg

昔も今も、公共空間はさまざまな役割を担ってきましたが、その中で市民の側が甘受しなければならないこともあるのです。ドルトムントをはじめ各都市で、ホームレス支援施設の移転を求める声が上がっているのも事実です。薬物使用者の支援施設の新設候補地で大規模なデモが行われたこともありました。弱い立場の人たちを追い出すやり方は、その地域の近隣住民たちの都合でしかありません。

──社会の片隅に追いやられた人たちは、何かにつけ「問題の引き金」で「規制の対象」としてみなされきましたね。

「路上生活者が経験する不安」に関して、デュッセルドルフとケルンで調査したところ、すでに生活上の不安にさらされているところに、取り締まりや犯罪化の動きが、不安レベルをかなり高めることが明らかとなりました。都市中心部のインフラに依存して生活している者たちを公共空間から追い出すことは、彼らが必要としている保護と矛盾しています。

都市の安全性についての議論は、社会の主流である中間層だけの問題ではなく、ホームレス状態にある当事者にとっても不可欠なもの。私は、暴言や暴行、窃盗被害など、ホームレス当事者から寄せられる報告の多さにいつも衝撃を受けています。そのような経験を通して、路上生活者のためのスペースを設ける重要性を痛感してきました。ようやく最近、路上生活者のための特定エリアの設置や依存症者支援など先進的アプローチが議論されるようになっています。

Raivo Sarelainens/iStockphoto

従来の規制をかけるばかりの施策は適切でも持続的でもありませんでした。ここドルトムント市でも長らく「抑え込み」に力を入れ、早朝に路上生活者を起こす巡回や立ち退き命令など規制的対応が取られてきましたが、結局、問題を悪化させるだけでした。

政治的にはとかく規制の方向へ進みがちです。でも、人々の注目を集めれば、解決のための真のアイデアを生むチャンスもあるはずです。先日実施したヴッパータール駅周辺エリアの未来を考えるワークショップでは、安全性を実現するために考えられるアイデアを模造紙いっぱいに書き出しました。防犯カメラの設置、夜間外出禁止、飲酒禁止、警察の増員、規制の強化などです。ところが参加者たちはずらりとリストアップされた規制を目の当たりにしたことで、「これだと地域全体が息苦しくなる!」と理解し、むしろ地域を多様な使い方をするためのアイデアを出し始めました。断然、こちらが実践的モデルになると思います。

この度立ち上がった特別対策チーム「公共秩序と都市生活(Public Order and City Life)」では、行政機関、自治体、社会福祉団体で協調し、多様な視点で取り組んでいこうとしており、私の知るかぎり、これはドイツ初の取り組みです。

── 社会的弱者に対して規制的措置がとられる背景には、小売業界の存在もあるとか?

はい。小売利益団体は、犯罪学研究でいうところの「道徳起業家(モラル・アントレプレナー)」として行動し、政治や地元メディアとのネットワークを活用して自分たちの要求を広め、特定の社会問題を目立たなくするために、議論を「セキュリティ化」の方向へ持っていこうとします。

「セキュリティ化」とは、社会問題を「安全上の問題」と捉え直すプロセスを指します。路上生活というのは何よりもまず社会的苦難の一つの症状で、極度の貧困が、依存症やその他の問題と結びついた結果。本来は思いやりをもって向き合うべき事柄を、安全上の問題として扱うことで、路上生活者を取り締まりの対象とみなすことにつながります。

社会問題は警察による取り締まりや規制だけでは解決できないという認識が少しずつ広まりつつあります。「ハーム・リダクション(被害低減策)」といった考え方もどんどん受け入れられていますし、依存症は抑え込みだけでは解決できないとの理解が広がっているのも歓迎すべきことです。

──「ホームレスにやさしい」都市づくりというと、批判的な声も上がりそうですが……

「ホームレスにやさしい」都市づくりを進めることで、緑やベンチを増やすなど、街の過ごしやすさの質向上につなげることができ、都市づくり全体としてプラスに働きます。都市中心部の空間の使い方を多様化する、目に見える貧困はその一つの側面であるという位置づけに持っていくべきです。

──路上生活者を罰金や禁止令というかたちで取り締まる“以外”の対策にはどういうものが考えられますか?

公共の場で野宿している人の数を減らすうえで最も有効な方法は「住居の提供」です。「ハウジング・ファースト」など、これまで試験的に実施されてきた取り組みを本格的に展開していくべき時が来ています。安定した住まいを確保した上で各当事者の課題に対処する方が効率が良く、成果も期待できることが多くの評価から分かっていますし、公共空間の負担軽減にもつながるでしょう。

By Bastian Pütter

Translated from German by Naomi Bruce
Courtesy of bodo / INSP.ngo

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