ここ100年、毎年のように平均気温が上がり、雪不足で閉鎖に追い込まれるスキー場が増えている。スキー関連の雇用を守るために何十トンもの雪を運ぶ地域もあるが、そのような行いは二酸化炭素排出に拍車をかけているだけとの批判もある。気候変動とスキーリゾートのあり方に関する著書『明日の雪(原題:Tomorrow’s Snow)』を発表した科学ジャーナリストのローラ・アニンガーに、オーストリアのストリートペーパー『20er』がインタビューした。
なぜ今回、スキーリゾートをテーマとした本を書くことにされたのですか?
私は長年、アルプスの気候変動について論じてきたので、ウィンタースポーツに注目することは自然な流れでした。近年、気候変動がスキーリゾートにもたらす影響に注目する人も増えています。気候変動は何も、島々での水位上昇や北極圏のホッキョクグマの問題だけではなく、私たちの国オーストリアを特徴づける地域にも大きな影響をもたらしています。雪が降ること、スキーに行けることは、もはや当たり前のことではありません。アルプスの美しさだけでなく、また気候問題だけでもなく、多様な側面からアルプスの現状をまとめ、今後どのようにてこ入れしていけるのかを示す本が必要だと考えました。この本が、気候変動とスキーリゾートについて議論を進めるうえで参考になればと思います。
気温上昇がスキーリゾートに与えている影響とは?
アルプス地域の平均気温は、産業革命前と比べて約3度上昇しました。これは、世界平均の2倍です。その影響として、特に標高の低い地域では、これまで雪として降っていたものが雨として降ることが増えています。さらに、人工的に雪をつくる場合は気温だけでなく湿度も関係します。気温が高いほど空気は水分を多く含むため、良質な雪に必要な寒く乾いた状態になりにくく、人工的な造雪も難しくなります。特に高地では、アルプス特有の自然災害が頻繁に発生、土砂崩れや落石も増えています。降水パターンも変化し、今後は豪雨や豪雪の増加が予測されています。2025年3月に南アルプスで起きたような、非常に短い時間に大量の雪が降るといった事象も増えていくでしょう。

スキー産業が気候に与える影響とは?
現在では多くのスキー場のリフトが再生可能エネルギーで運行されるようになっていますが、リフトやアクセス道路の建設においては、コンクリートやアスファルトといった資材の輸送のために二酸化炭素を発生させています。また、観光産業全体(ホテル業、食事の手配、スキーリゾート)では依然、化石燃料を使用しています。湿地や湿原といった大量の炭素を蓄えられる生態系を破壊して建設プロジェクトが行われる場合は、特に深刻です。
スキー場における交通の面はいかがでしょうか?
オーストリア環境庁の調査によると、スキーシーズン中に最大の二酸化炭素排出源となるのは、スキー客のリゾート地への移動だそうです。もちろんスキーリゾートはゲストなしには成り立たないものですが、リゾート地の持続可能性を議論する際に軽視されがちな点でもあります。米国や中国などからのスキー客が増えるにつれ排出量は増える一方で、リゾート地では公共交通機関の整備が進められています。
スキー産業全体のカーボンフットプリント(産業活動の全プロセスにおいて排出される温室効果ガスの総量をCO2に換算した指標)はリゾート側が主張するほど小さくなく、その電力消費量は批評家が指摘するほど多いわけでもない。この問題は複雑かつ多面的なのです。
スキーリゾートが気候に与える影響について有意義な議論を行うためには?
スキーリゾート業界の意思決定者たちには、二酸化炭素の排出量削減策を検討するだけでなく、さまざまなレベルでの政治的影響力を駆使し、より効果的な気候変動対策を提唱していくことが求められています。加えて、他分野との協業も必須と考えます。ケーブルカー事業者などから、自分たちは努力しているのに、他の業界では多くの二酸化炭素を排出し続けているとの不平の声が上がっていて、それも事実です。であるならばいっそう、実効性ある気候対策を呼びかけていくべきではないでしょうか。ケーブルカー事業者が他分野をも巻き込んだ環境対策を主導していくことだってできるはずです。
オーストリアで気候対策におけるロールモデルとなる事例はありましたか?
モンタフォンにあるゴルムスキー場では排出量削減に熱心な取り組みを進め、積極的に発信もしています。経営陣は、気候変動の全体的な影響を再考する必要性に気付いたのです。でも、突出した事例があるわけではなく、環境問題への取り組みはまだまだこれからだと思います。
子どもにスキー教室に通わせるべきかどうか悩む親も多いようです。
将来的にも適切な時期に雪を準備できるほどの寒さになるのか、インフラを維持できるのかが懸念されています。「オーストリアの積雪状況の未来予想(FuSE-AT)」の調査によると、エッツタール・アルプスに位置する村落オーバーグルグルでは、平均気温が4度上昇すると積雪可能期間が最大で3割短縮されるため、採算の取れるシーズンの維持が困難になると見られています。2100年には、スキーを楽しめるのは、よっぽど条件に恵まれた場所のみで、料金も非常に高額になるだろうとの見方もあります。南アルプスではすでに水利用をめぐる論争が起きていて、人工降雪のために地下水の需要が急増加するだろうとも予測されています。

スキーをしていると喜びと同時に罪悪感も感じると書かれていますね。
こんな世界に生まれてきたことを恥じる必要はありませんが、変化を起こせる集団の一員であるとの自覚は持つべきです。気候対策においては、どんな人にでも力があり、行動を起こせると思います。希望だけでは何も生まれない、進歩を起こすのに必要なのは行動です。
環境科学ジャーナリストのローラ・アニンガー(ザルツブルク在住)
日刊紙などメディア関係の仕事をしている。本の執筆にあたり、環境活動家、氷河学者、ケーブルカー事業者、経済社会学者などに取材した。/Photo by Stefan Fürtbauer

Interview by Eva Schwienbacher
Translated from German via Translators Without Borders
Courtesy of 20er / INSP.ngo
メイン画像:Teka77/iStockphoto
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