「KRIS」。元受刑者たちの居場所づくり–手遅れになる前に、若者に手を差しのべ、本当の変化を起こしたい

1997年の設立以来、スウェーデンで元犯罪者や元受刑者、薬物依存症者の社会復帰支援に取り組んできた非営利組織「KRIS」。現在2000人ほどの元受刑者らメンバーは、再犯防止や薬物依存からの脱却を目指し、互いに日々の生活を支え合って過ごしている。人生の再出発には何が必要なのか? メンバーたちが語った。

マッチョな雰囲気をチェンジ、オープンで愛にあふれた場所に

スウェーデンにある非営利組織「Unga KRIS(若者の岐路)」のヨーテボリ支部で、今まさにパーティが始まろうとしている。食べものが用意され、さまざまな遊びや音楽、手品も楽しめるイベントだ。何度かの延期を経て、ようやくこの日を迎えた。

FAKTUM KRIS/夕食の後、招待していたマジシャンを囲むUnga KRISのメンバーと参加者たち

とはいえ、Unga KRISのメンバーの多くにとって、イベントがいつになろうと、たいした問題ではない。ここは自宅のような居場所であり、大人は毎日のようにおしゃべりや瞑想、ヨガを楽しみ、若者は毎晩集まって音楽を作ったり、リラックスして過ごしている。

KRISは元犯罪者や元受刑者、薬物依存症者の社会復帰支援を目的とした組織で、その若者部門がUnga KRISだ。犯罪や依存症を未然に防ぐことを目標に、KRISは誰にでも門戸を開き、社会的包摂と平等の推進に取り組んできた。より厳罰化を求める風潮に抗して、メンバーたちは社会生活に復帰するために努力し、薬物を断ち、他の人々とサポートネットワークをつくっている。また、KRISのメンバーはさまざまな平等に関する研修を受け、組織のあらゆるレベルで平等の大切さについて話し合っているという。

このヨーテボリ支部も、地域社会の一部として開かれていることを重視し、この日のイベントに訪れた人はもちろん誰でも歓迎される。

運営管理者を務めるナタリー・ベネテグは、メンバーの多様な顔ぶれを見ると気分が明るくなるという。「KRISも以前は少しマッチョな雰囲気があって、私たちはそれを打ち破ろうと努力してきました。この組織をオープンで愛にあふれた場所にしたいと思っています」

FAKTUM KRIS/KRISの運営管理者ナタリー・ベネテグと、パーティを楽しむ姉妹たち

KRISは最近、ロゴを一新した。一見するとライダーグループのような印象もあった黒と黄と赤を使ったものから、ブルーの背景に白文字が浮かぶデザインへ変更したのだ。新しいロゴでは、KRISという名称の周りに、設立時からの活動理念である「連帯」「節制」「仲間」「誠実」に新たな価値観として「平等」を加えた5つの言葉が円形に配置されている。

スタッフたちは「KRISのメンバーは男性ばかりで、荒っぽい生活をしている」というような一部の人々が持つイメージを払拭するために努力している。依存症に苦しみ、犯罪に手を染める人は女性よりも男性に多いというデータは確かにあるものの、男性中心の組織にしようとは考えていない。

“私と同じことを経験した人は地に足のついた言葉かけてくれる”

このような改革の背景には、組織自身の危機もあった。数年前に経理的な不正が発覚し、スウェーデン相続基金に約100万クローネ(約1300万円)の返還を求められた。また、飲食や燃料にお金を使い過ぎているとメディアで報道され、幹部は対応を迫られた。さらに悪いことに、昨年、刑務所からの資金援助が打ち切られた。これにより、受刑者の訪問支援を行うメンバーの研修に使われる資金がなくなった(※)。

※KRISでは定期的に刑務所を訪問し、受刑者となった人々とつながりを築いた上で、出所の際には門まで出迎えに行くことを重要な活動としている。

KRISの理事たちは、物事がうまくいかなくなったのは、旧態依然としたマッチョな体質によるものだと考え、女性役員を増やした。その結果、理事はまだ3人の男性が務めているものの、役員は女性が多数を占めるようになっている。

ヨーテボリのUnga KRISも長く活動停止状態にあったが、再開を主導したのはマルティン・イグナチオ・ヴァイエだ。ヨーテボリで4年間文化イベントを企画した経験もあるヴァイエは、薬物犯罪を含めた複数の実刑判決を受けたことで主流派の文化団体からは歓迎されなくなったという。「私の過去を理由に一緒に仕事をしたくないと思う人がいるのが現実です」。そのヴァイエは今、雇用主であるKRISの支援を得て、仕事への復帰を果たしている。

FAKTUM KRIS/ヨーテボリ支部で公共イベントなどを企画するマルティン・イグナチオ・ヴァイエ。犯罪にかかわり続ける人生だったが、刑務所への収監を経て、再出発を果たした

2022年春に出所したヴァイエが連絡を取った時、KRISは両手を広げて迎え入れてくれた。外部との交流を促す活発な若者組織を立ち上げたいという彼の提案は、新しいKRISが求めていたパズルの空白を埋めるピースだった。問題を未然に防ぐためには、若者組織の役割が重要だとベネテグは強調する。「手遅れになる前に、若い人たちに手を差しのべられれば、本当の変化を起こせます」

公共イベントの企画は、ヴァイエの得意分野だ。昨年の夏には、何百人もが集まる音楽祭を企画した。そして今日の夕べ、マイヨナにあるKRISの施設でハロウィンを祝うパーティが開かれる。大人たちはキッチンでハンバーガーやフライドポテトの準備をし、家族と一緒に来た子どもたちは辺りにあるもので遊び、絵を描く人もいれば、ビリヤードを楽しむ人もいる。

FAKTUM KRIS/キッチンで犬と一緒にくつろぐUnga KRISのメンバーたち

テーブルに静かに座り、周りの様子を眺めているのは、エメリー・クリステンソン。彼女は数日前にオレブロのヒンセベリ女子刑務所を出所したばかりだ。その時はベネテグと、KRISで職業訓練を担当しているミンナ・ポシオが門のすぐ外で待ってくれていた。

エメリーは現在、KRISが用意した出所者向けの3つのアパートのひとつで暮らし、社会生活や各種活動に復帰しようとしている。「自分にとってここがすべて。ここの人たちは私と同じことを経験していて、地に足のついた言葉をかけてくれます。今は薬物を断ち、人生を落ち着かせたいのです」

FAKTUM KRIS/KRISで職業訓練を担当するミンナ・ポシオ(中央)と、女子刑務所を出所したばかりのエメリー・クリステンソン(右)。二人は薬物依存と収監された経験を共有している

スタジオ、VR機器、ビリヤード。地域に関係なくドアは開いている

薬物の使用を断つことを、KRISは厳しく求めている。先輩メンバーのほとんどは過去に、長期にわたる薬物乱用を経験している。全員が刑務所に入ったわけではないが、暴力と犯罪に染まった人生を身をもって経験している人たちだ。

とくに若者を対象としているUnga KRISは、できればレールを踏み外す前の、幼い子どもやティーンエイジャーに手を差し伸べたいと考えている。最近ではストックホルム、ヴェステロース、ファルケンベリ、ストレングネスなど、国内各地で地方支部も立ち上がっている。

そのなかで最長6年の運営実績があるのが、セーデルテリエのUnga KRISだ。ここでは講演や音楽、勉学などのプログラムを継続的に実施。自治体が手がける学校中退者向けの活動とも連携し、親たちとの対話も行っている。

ヨーテボリでは、ヴァイエが音楽録音スタジオやVR機器、ビリヤードなどを使って若者を惹きつけようとしている。住んでいる地域やバックグラウンドに関係なく、Unga KRISで居場所を見つけてくれればいいという思いからだ。「無理に引きずり込もうとしているわけじゃありません。でも、ドアは常に開かれています。過去を詮索することもありません」

Unga KRISに協力しているラップアーティストのAG(ヤンヒエット・アデム)もパーティに姿を見せた。ヴァイエと長年の知り合いであるAGは、ヒップホップからのギャング文化の排除などに力を入れている。

「悪いのは音楽じゃなくて、伝えられるメッセージです。団地や郊外だってそう。悪いのは場所ではなく、そこで行われている犯罪なんです」

若者向けの活動やジェンダー平等といった新しい取り組みは、KRISがもともと対象としていた年長者にはどう映っているのだろうか。

ベネテグはこんな話をしてくれた。「人生の大半を刑務所で過ごした、いかにも“タフガイ”な感じの男性が訪ねてきたことがあります。彼は『ここはヨガや瞑想が多すぎる』と、別の場所に行ってしまいました。でも、それほど間をおかず再会することになったんです。どうやら誰でも受け入れてくれる、ここの柔らかい雰囲気が恋しくなったようです」(Lotta Engelbrektson, Faktum/INSP/編集部)

Photos: Lisa Thanner

※2023-05-01発売の『ビッグイシュー日本版』454号からの転載です。

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