ビッグイシュー・オンライン編集部のイケダです。独自インタビュー記事として、難聴者向けスピーカー「COMUOON」を開発する中石さんにお話を伺いました(取材協力:現代ビジネス)。

偶然から生まれたスピーカー



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(中石真一路さん)

イケダ: 今回はユニバーサルサウンドデザイン株式会社代表の中石真一路さんをお迎えして、難聴の問題やそれを解決するプロダクトについてお伺いしたいと思います。

中石: どうぞよろしくお願いします。

イケダ: 中石さんは非常に独特の商品をつくられていますが、これは世界的に見ても珍しいのではないでしょうか?

中石: ないですね。アメリカでは一応、「サウンド・フィールド・アンプリフィケーション」という大きめのスピーカーはつくられています。これは、母国語が違い、多言語の中で学ぶ子供たちが音を捉えづらいということで、教室などで使われていていますね。

しかし、個人向けにこのようなスピーカーをつくっているところはないと思います。

イケダ: そうなんですね。では、具体的にどのようなものを作っているのか教えてください。

中石: 前職のEMIミュージック・ジャパン(現ユニバーサルミュージック)で、慶応義塾大学SFC研究所 湘南音楽音響・ラボ代表の環境情報学部 武藤教授との出会ったことがきっかけです。

その時は遠くまで音が届くスピーカーをベースに、何かビジネスは何かできないかを考えていました。その研究をしている途中で聞こえが悪い方がそのスピーカーを試聴し「聴こえやすいと言っていた」という話を武藤教授からお聞きしたんです。

最初は聴こえが悪い人にスピーカーで聴こえるようになるわけはないだろう、と思いました。しかし、たまたま私の父が難聴だったので、まず父で試してみようと思い、試作品をつくってみたんです。実家の熊本に帰ると、いつもテレビの音量が大きく、爆音でした。そこで、試作品のスピーカーを使ってみると、テレビの音が半分くらいになったんですよね。

信じられなかったので、父に聞こえているのか何度も確認したんですが、本当に聴こえているとのことでした。これは何かあるぞと思って、会社の方でも軽度と中度の難聴の方に7名ほど集まっていただいて検証した結果、やっぱり聴こえていたんです。しかし残念ながらEMIでの事業化の夢は実りませんでした。

その後、研究の母体を「NPO法人 ユニバーサル・サウンドデザイン」に移し、全国からスピーカーを集めて試作開発と検証を行い、昨年には試作機の貸し出しもスタートしました。NHKのニュースでも取り上げていただくなど、これまで100ヵ所くらいにはお貸し出ししました。

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(難聴者支援スピーカー「COMUOON」)

難聴は高齢者に限らない



イケダ: どのような場所で貸し出しのニーズがあるんですか?

中石: たとえば、設置いただいているのは、福岡市南区の区役所の窓口ですね。そこで、高齢者にバスチケットなどを配る時に、名前を呼んでも聴こえない場合はスピーカーを使っています。

一番大きいのは学校ですね。台東区の区立柏葉中学校では、英語の授業で活用しています。現在もお貸し出し中であり大変好評です。

イケダ: 難聴と聞くと高齢者の問題と思いがちですが、難聴の方は増えているんですか?

中石: 増えていますね。講演後などに「実は誰にも言っていないんですが難聴なんです」と言ってくる若い子もいますし、就活のストレスなどが原因で難聴になることもあります。

イケダ: 高齢者のニーズはもちろんありますが、もっと子供たちや若年層も様々なシーンで利用できるということですね。ちなみに難聴の方はどれくらいいるんですか?

中石: 障害者手帳を持っている人は約60万人です。それ以外にも、10倍以上、600万人ほどはいるのではないかと言われています。生活していて支障がなく、本人が気づいていない場合もあるので、調べようがない部分もあるんですよね。

イケダ: 潜在的には困っている人が多くいるということですね。

中石: 障害者手帳をもっておられないグレーゾーンの人たちも多くいますし、何より高齢者の数も増えているので、難聴の人も増えているというわけです。

後編に続く