(2013年3月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第210号、「ノーンギシュの日々--ケニア・マサイマラから」より)






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(象牙はゾウの頭蓋骨を目の辺りまで切り刻まないと、取り出せない)




中国も参入、象牙本体と象牙細工。両方輸入は日本だけ



日本の合法象牙取引が違法象牙の流出のきっかけになった後、2008年に中国も合法取引に参加したことによって密猟がさらに悪化した。

近年、中国は、道路建設や貿易商などでアフリカの多くの国に拠点を置き始めている。たとえば、ナイジェリアやケニアなどのアフリカ諸国の国際空港で象牙を押収された中国人の数は2011年度のみで150人にのぼり、アフリカ在住の中国人労働者による象牙の違法な調達の現実が浮き彫りになった。また、中国本土の経済成長とインターネットによる商業取引の繁盛は、アフリカとアジアでの違法象牙取引に拍車をかけている。

国際動物福祉基金(International Fund for Animal Welfare)の象牙市場調査によると、中国で象牙を販売している店舗で合法象牙取引免許を得ている店は全体の64パーセントだが、免許をもつ店の60パーセントで違う商品に同じ象牙ライセンスを見せて何度も使用するなどの違法使用が発覚している。

驚くことに中国人の象牙購入者年齢は、主に26〜45歳までの中流階級だ。若者に人気のネットショッピングサイトなどでは多数の象牙商品が堂々と販売されており、中国本土での象牙需要は減る傾向をみせない。




現在、合法象牙の取引先は日本と中国で、取引対象の象牙の54パーセントは中国へ輸出されている。それを聞いて、象牙問題は象牙輸入率が高い中国の問題だと思ってしまう人も少なくはない。しかし、実は、中国で加工された象牙細工の輸出国に日本が入っているのだ。

中国から象牙細工を輸入している国は、日本、韓国、アメリカ、英国とヨーロッパ諸国(スペイン、ポルトガル、フランス、ドイツ)など。象牙自体を輸入して、さらに象牙細工までを輸入しているのは残念ながら日本だけである。





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(ゾウから切り取りだされた血だらけの象牙。こんな残酷な物が高級品と呼ばれるとは)




増えるアジアの象牙需要。象牙価格が4年で15倍に



2010年に行われた第15回ワシントン条約締約国会議で、タンザニアとザンビアが自国の象牙112トン(タンザニア90トン、ザンビア22トン)を日本と中国を対象に輸出する許可を求めた。しかし、その申し出は国際アフリカゾウ保護団体による断固とした抗議により、許可されることはなかった。

だが、11年には24.3トンの象牙が全世界で押収された。12年にはさらに多く34トンの象牙が押収され、この過去24年間で象牙密猟、最大の年となった。12年だけでも、アフリカ全土で3万8千頭のアフリカゾウが密猟者の手によって命を落としているといわれている。




そして、今年3月のバンコクで開かれる第16回ワシントン条約締約国会議では、再びタンザニアが「自国のゾウを個体群の附属書Iから附属書 Ⅱ へ移行し(「附属書 Ⅰ」は商業のための輸出入禁止。「附属書 Ⅱ」は輸出国の政府が発行する許可書が必要。)、101トンの象牙の1回限りの販売」を申し出ている。取引相手国は再び、中国と日本だ。
 
1月に入って、「タンザニアは象牙販売許可を申請しない」とニュースで伝えられた。しかし、タンザニアはセレンゲッティ国立公園の真ん中を通る高速道路の建設、セルー国立公園のウラニウム発掘、ナトロン湖のソーダ灰工場建設などの多くの世間の議論を引き起こし、近年多くの環境保護団体からバッシングを受けている。象牙販売許可の申請動向は、実際に3月のワシントン条約締約国会議になってみないとわからない。




恐ろしいのは、いっこうに減る傾向を見せないアジアの象牙需要。そして、とどまることを見せずに跳ね上がり続ける象牙の市場価格。違法象牙取引は今、紛争ダイヤモンドとまったく同じ悲劇を繰り返している。

08年にキロ157ドルだった象牙価格は、12年には15倍以上のキロ2357ドルまで跳ね上がった。今や象牙1本の値段は、アフリカ人の平均年間収入の20倍以上。麻薬取引と同じで、一攫千金を狙った人間がゾウ密猟の世界に引き込まれている。

高額で取引される象牙は、中国では「ホワイトゴールド」と呼ばれ、その販売ルートは麻薬シンジケートや暴力団によってコントロールされている。そして、ゾウの棲みかであるアフリカ諸国では、テロリスト・グループや反政府組織は象牙による外貨獲得と、それによる武器購入を広く行い始め、まさに象牙は紛争地帯の資金源と化してしまった。






たきた・あすか(滝田明日香)
1975年生まれ。NY州のスキッドモア・カレッジで動物学専攻。大学卒業後、就職活動でアフリカ各地を放浪。ナイロビ大学獣医学部に編入、2005年獣医に。現在はケニアでマサイマラ巡回家畜診療プロジェクトなどの活動を行う。ノーンギシュは滝田さんの愛称(マサイ語で牛の好きな女)。著書に『獣の女医 ―サバンナを行く』(産経新聞出版)などがある。

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